第15話 4−2 勇者快進撃
グンナール火山はどこかひっそりとした場所だった。火山灰が積もってできた灰色の大地。そのせいか、山の周りだというのに木が少なかった。見渡しはいいけど、殺風景だ。
かなりの辺境ということで、人の姿が見当たらない。近くの街でも、ここに近寄る者はいないそうだ。特産物があるわけでもなく、魔物も出るから行く意味がないとのこと。
「うっへえ、まるで死の大地じゃん」
「言い得て妙かもね、ティーナ」
だからこそ、大婆様もここに何かあるのではと思ったのかもしれない。ゲームとかでもこういう辺鄙な場所にある火山なんて、確実にダンジョンか何かだ。そしてそういう場所にはボスと、魔王に近づくための何かか、凄い宝物があるのが定石。
というわけでまずは、山の周りを探索してみる。
「来たぜ!レッドスパイダーだ!」
赤くて大きな蜘蛛の群れをティーナが見つける。数は五体か。全員すぐ戦闘準備に移行する。
僕とティーナが突っ込んで、二人の魔法による援助が来るまで持ちこたえるのが僕たちパーティーの基本戦術だ。火力が一番あるのはキャサリンの攻撃魔法だ。僕の魔法の方が威力が高いけど、詠唱速度では絶対キャサリンに負ける。それに前衛を務めているから、滅多なことでは攻撃魔法を使わなかった。
レッドスパイダーは散開しながら、口から蜘蛛の糸を吐き出す。粘着性の高そうな、触りたくない糸だ。細かなステップを踏みながら避けて、一番近かったレッドスパイダー目掛けて両手剣を振るう。
「ハァ!」
上段からの振り落としで蜘蛛はあっけなく両断できた。僕たちのレベルが上がっているのか、ここのモンスターが弱いのか。それはわからないけど、僕たちの敵じゃない。
「そらよ!」
ティーナも連撃によって呆気なく蜘蛛の一体を倒す。ナックルを装備しているとはいえ、拳で魔物を倒しちゃうのは流石だなあ。僕も徒手格闘は習ったけど、ああはいかない。
次の標的へ攻撃を加えようと思ったら、キャサリンの魔法が完成していた。
「三つ連なる雷撃よ!トリプルサンダー!」
三体の頭上から雷撃が降り注いで、蜘蛛を真っ黒焦げにした。一応確認してみるけど、全く動かない。
周りを警戒してみるけど、他に魔物はいないみたいだ。
「うん。大丈夫だね」
「わたくし、出番ありませんでしたわ」
「まあまあ。いざって時に魔力切れ起こされても困るし。姫さんの魔力が尽きたら、ウチのパーティーは半壊するよ?」
「あら。ユメシロ様も回復魔法を使えるではありませんか」
「僕のはいざって時だからね。ラミューが動けなかった時に他の誰も回復ができなかったら、怪我した人が死んじゃう。僕の魔法は奥の手だよ。それに魔力量では二人に及ばないわけだし」
勇者といえども、何でもできるわけじゃない。本職に比べると魔力量も精度も劣るし、僕が得意なのはやっぱり近接戦だ。
僕の魔法はいざって時のためと割り切っている。その方が役割がはっきりしていていい。
それからも火山の周りを探索する。これといってめぼしいものもなく、魔物と何度か遭遇戦をしているだけで日が暮れてしまった。虱潰しで回ってるから、こういう成果が出ない日もある。
その日はテントを張って、早めに休むことにした。明日は山を登ることにしたからだ。このテント、魔物除けの薬品が塗られているため、この中ならゆっくりと休める。こんな場所なら盗賊とかもいないだろうから、今日はしっかりと休めるだろう。
大きなテントとはいえ、四人で一つのテントを使うために全員ここで寝る。もう慣れたけど、美人な皆と一緒のテントで寝るというのは緊張することだ。
たまに僕の布団に、誰かが潜り込んでいることもある。朝の生理現象もあったりして気が気じゃない。そういうことがバレたことはないけど、目を開けたら美人の女性が目の前で無防備に寝ているというのは、心臓に悪い。
朝日が昇ってすぐ。テントを片して山に登る。
山道は凹凸ばかりで歩きにくく、特にラミューは辛そうだった。歩きで旅、しかも山道なんて昇ったことないだろうし。僕も宿泊学習以来だから久しぶりだけど。先人が残したロープや杭がないから歩きにくいことこの上ない。
それに山って登れば登るほど標高が高くなって気温が下がるはずなのに、どういうことか温度が上がっている気がする。山道を歩いているからといって、汗が結構出てきた。気温は全然落ちていないだろう。
「あ、そこの窪み」
キャサリンが山に空くにしては不自然な、大きな穴を見つけた。僕とティーナで周りを警戒するが、魔物はいないようだった。中を確認すると、一気に硫黄臭くなる。なるほど、ここが火口への入り口か。
「中に何があるんだろう?」
「大婆様の予知が本当でしたら、おそらくこの中ですわね。それ以外に怪しい場所が見当たりませんもの」
「皆、気を引き締めていこう」
火山の中に入っていくと、熱気が僕たちを襲った。この暑さの中進まないといけないのか。熱気のせいで視界が揺らいでいる。
火山の周りには何もなかったんだ。ラミューの言う通り、この中には何かがあるのかもしれない。
道に沿って降りていく。下層に向かっているようだ。上は少し大きな穴があるだけで、それ以外に特徴がなかった。
開けた場所に出ると、中央に赤い線で描かれたとても巨大な魔法陣があった。こんな場所に魔法陣だなんて怪しすぎる。キャサリンがその魔法陣を見ると、すぐさま飛び退いた。
「キャサリン⁉︎」
「そ、それ!魔王城を守る結界です!結界を維持するための魔法陣です!こんな、平然と⁉︎」
「これが?……キャサリン、壊せるかい?」
もう一度、キャサリンは魔法陣に近付いて観察する。その間僕たちは周囲の警戒だ。そんな大事なものが野ざらしにされているとは思わない。ゲームのお約束では、絶対ここを守るボスがいる。
「……時間をいただければいけます。ここの余剰マナで結界を維持しているようですから、その流れを切ってしまえば──」
「キャッ⁉︎」
キャサリンが言い切る前に、火山が揺れる。地面だけじゃない、全体が揺れているんだ。キャサリンを脇に抱えて距離を取って、周りへ視線を移した。これがただの火山活動ならいいんだけど、絶対違う。
揺れが小さくなっていく中、魔法陣の先のマグマ溜りから、それは姿を現す。大きさは僕たちの数十倍。岩石がメインの身体のようだけど、関節とか頭の先から炎が迸っている。
あれがここのボス──!
「初めまして、勇者諸君。我はようがんまじん。魔王様の命により、貴様らを殺す」
初めてのボス戦だ。気合いを入れなくては。
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