第10話 3−1 帝国襲撃編

 全く。早々に死んだ三人はRPGをやったことがなかったのか?不老に成長倍加、最強の鎧に容姿、物質創造と錬金術。まず前者二人は二つしかない加護を無駄遣いしてる時点でバカ確定。最後の奴は良い線行ってるとは思うが、商売なんてちんたら資金稼ぎやってるからアホをする。


 まずはレベル上げ。そんで仲間集めだ。信頼できる、裏切らない仲間は必須だ。そのために貰った加護は「読心術」。裏切るかどうかわかっちまえばこっちのもんだ。惚れてる奴を探すのも楽だし、利用できるかどうかもわかる。心のない魔物じゃない限り、相手がやろうとしてくることもわかるから戦闘にも使える。


 あと、お金が必要なら最初から、お金を得やすい加護を貰えばいい。「黄金律」。魔物を狩れば換金の値が高かったり、異様に金回りが良くなったり、依頼の報奨金が高かったり。


 金はステータスだ。それに金があれば人間の職人によるオーダーメイド品も作ってもらえる。最高峰の武器を手に入れられる。鎧一個もらったって意味がない。装備は全部必要だし、できれば肉壁になる仲間の分もあればあった方がいい。生存率が上がるからな。


 「黄金律」には物の目利きも含まれているようで、職人が作った物を見ればどれだけの傑作かわかる。それを使って最高峰の武器を作ってくれる人を探し当てた。金やらコネやら、使いまくれば首を縦に振らせるのも楽勝だぜ。


 RPGで最強の武器ってどこにある?隠しダンジョンを除いたら、それはイベント武器なんだよ。ラストダンジョンで見つける武器や防具よりもイベントを経て手に入れる武器の方が高品質だ。それにこの手段ならラストダンジョン前に最高峰の武器が手に入る。これさえ手に入れればあとは無双するだけ。


 無理に重要なダンジョン行ってレベルや武器の質が足りなくて死にました、じゃ意味がねえ。武器を先に用意してレベルを上げつつ要所を巡る。これが最短チャートだ。急がば回れってやつ。無理にダンジョン行って手に入れる武器が弱かったじゃ話にならん。堅実に行って、余裕を持って魔王を倒してやるよ。


「アサカ、武器ができるまでこの国のギルドで依頼をこなす?」


「えー?たまには休もうよぉ」


「俺は鍛えたいな。魔王にはまだまだ届かないだろう。修行あるのみ。アサカ、お前が決めてくれ。お前がリーダーだ」


「もう少しこの国で情報収集かな。魔王城に最も近い国だ。僕たちの利益になる情報があるかもしれない」


「依頼こなすよりはそっちの方がいいやー」


 男2、女2のパーティーだが、女ばっかりのパーティーにはできない。前衛職をやるような女が少ないからだ。本当に希少種。それに女を侍らせていると、いらぬ噂が流れる。それは世界を救う勇者的にはあってはならないことだ。まあ、女二人とも俺の女だけど。


 俺が魔法剣士。男のコッタが戦士。ジュリアが僧侶で、マインが魔法使いというバランスの取れたメンバーだ。もう少しパーティーメンバーは欲しい。女にがっつかないで、ブサイクで前衛を任せられるような男と、ダンジョンのギミックとかを担当できる盗賊あたり。ハーレムは増やしたいから、盗賊の女いないだろうか。


 そこら辺もギルドに行って確認だな。


 職人が武器を作るのに一週間は欲しいらしい。むしろ一週間でできるのかよ。おっさんすげー。さすがファンタジー世界。


 そう思って活気ある、歴史のある石畳で敷き詰められた街中を歩いていると、けたましいサイレンのような鐘の音が大音響で流れた。


「何なに⁉︎」


「これは警鐘か!魔王軍の襲来か⁉︎」


「なんだって!」


 いくら魔王城が近いからって、そんなイベントあってたまるか!世界のバランスが崩れたからって、俺たちが転移してきてから一回も動かなかった魔王軍だぞ!動きが全く見られないとかってどこの国でも言ってたじゃねえか!


『通達する。人類よ、傾聴せよ。我は魔王軍を統べる者。貴様らの言葉に則るのであれば、魔王と呼ばれる存在だ』


 拡声器でも使っているんじゃないかってほど、声が響くな。魔法か魔装具か。どっちにしろやばい。こんな序盤で魔王と戦ったら、絶対に死ぬ!


 尊大な男の声・・・。威圧感たっぷりなその声は、確かに魔王って名乗るのも頷ける重圧さえ感じる。


 国中が混乱していた。いくら魔王城に近いからといって、魔王そのものがやってくることを想定していない。そうならないように、この国の国境はかなり整備されていたはずだ。アデッジ王国のような前線基地はなくても、砦くらいはあったはずなのに。そこを飛び越えて攻め込んできたのか、ただ声を飛ばしているだけなのか判断がつかない。


 街の混乱など気にしないように、魔王は宣言を続ける。


『これより二時間後。アンドラシア帝国帝都、ヴァルランチへ攻め入る。なあに、魔王の復帰祝いだ。ただの余興に過ぎん。たった一つの国で済ませるのだ。面白い催しにしようぞ、人類。逃げるもよし、抗うもよし。懸命な判断をしてくれるとつまらなくなってしまう。どうか我を楽しませて欲しい。この戦いで、勇者が現れることを願う』


 二時間。たったの二時間後にはここへ攻め込んでくる。となると、砦はもう機能していないだろう。


 それに、これは負けイベントか?それとも逃走不可の強制デッドエンドルートか?ただ、どっちにしろ俺たち転移者には不味いイベントだ。


 たとえ負けイベントだったとしても、ここでなにもできなかったとなると、国からの補助などを得られなくなる。あの時なにもしなかったくせにと、後から叩かれる。


 一番最悪なのは俺だ。ここにいる。つまり逃げても悪評が出る。こんな序盤で挑んだって死にかねない。そうなると、俺はどう転んでも、未来がないってことだ。


 負けイベントで、魔王に勇者として認められればいいが、それを成さなかったら全てが終わる。いや、いっそ全部見捨てるか?職人の爺さんは非常に痛手だが、全てをここで捨てればまだやり直せるんじゃ……。


『なお。武装している者が逃げようとした場合、容赦無く殺すつもりなので肝に命じておけ。我が求めるのは戦いだ。戦争だ。完膚なきまでの闘争だ。交渉も受け付けぬ。──人間の底力とやら、我に見せてみよ』


 街中にのしかかっていた重圧が消える。言いたいことはそれだけなのだろう。


 くそ、ああ言ってたってことはもう俺たちを捕捉してやがる。逃げてもいいとか言ってたが、すでに街は包囲されていると思った方がいい。実行できない虚言を、ラスボスが言うハズがない。


 天使からもらった加護がなければ、十人も送らなければ敵わない相手だ。そんな超常の存在が、戯言を言うハズがない。つまり、逃げるなんて選択肢は、ない。


「行くぞ、皆!僕たちで魔王を退けるんだ!」


「ああ!」


「うん!」


 くそう、ここまでか?ジュリアとマイン、そんなところで顔を赤めるんじゃねえよ。むしろこいつらを本当に肉壁にしてたった一人生き残った勇者ってやつを演出するか?


 探せ、生き残る手段を。このクソイベントから生還する方法を!

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