第7話 2−2 世界旅行編

 翌朝。ロウル君たちの案内で火口へ。外から見ると休火山なんだけど、火口に入るとまあ、マグマが煮えたぎっていた。それと近付いた場所の中央に大きな魔法陣が。これが魔王城の結界。そのための魔法陣。


 すっごく大きい。人間はおろか、ドラっちさんもすっぽり入りそうなほど大きな魔法陣だ。隠せないじゃん。


 魔法陣に描かれてる文字読めるかなーと思ったけど、読めなかった。これは翻訳してくれないらしい。残念。


 奥のマグマが振動する。火山活動じゃないっぽい。だってマグマから、大きな巨人が現れたんだから。


 全身が鉱石のようなものでできていながら、その鉱石の周りを炎とマグマが覆っている。溶岩魔神さんだ。その体質から、この火山から離れられない魔王軍の幹部。動けない代わりにこの魔法陣を守ってくれる守護者。


「……魔王。それにドラっちか」


「初めまして、溶岩魔神さん。魔王のアユです」


「よっ、久しぶり」


 ドラっちさんは知り合いらしい。幹部でも会ったことのない存在がいるって言ってたけど、それで良いんだろうか。ちゃんと組織化できてる?地方を蔑ろにしてると、後で痛い目に合うんだから。


「して、魔王よ。何か用だろうか。この通り、我は動けないのだが」


「それは教えていただいております。それが理由でこの場所の守護をしてくださっていることも」


「では、なんのために?」


「え?ただご挨拶に来ただけですが。同じ魔王軍ですし」


 お仕事お疲れ様と、視察に。結界を見るのも初めてだったから見てみたかった。


 あと、溶岩魔神さんも確認したかった。一度も会わずに幹部がやられるなんて嫌だし。この魔物はわたしが見殺しにしてしまうかもしれないのだから。せめてどんな魔物だったか、知っておきたかった。


 幹部じゃなければ良いとかじゃなくて。わたしはどういう存在の上に立っているのか知っておきたくて。


「これは、異なことを。魔王であるのならば、城で踏ん反り返っていればいいものを」


「やることがいっぱいあるので。ただ上に立っているだけの存在になりたくないんですよ。現場把握もしたいですし」


「……ふむ。変わった魔王だ」


「そうですか?じゃあ、溶岩魔神さんにお願いです。殺されそうになったら、死んだフリでもして生き残ってください。あなたは人間に殺されて良い存在じゃありません」


 そう言うと、溶岩魔神さんの顔のようなものが若干強張った。もしかしたら水が弱点で、水の魔法とか剣とかで倒されちゃうかもしれないけど、死なないでほしい。それはわたしのワガママだ。


 結局わたしは、わたしのせいで誰かに死んで欲しくないだけ。殺すのはできるだけ転移者と、転移者に協力する相手だけにしたい。命を受け取る覚悟がないだけの臆病者だ。だから無様でも生き残ってほしい。


 武人のような性格の魔物には怒られるかもしれないけど、わたしが巻き込んだ戦いだ。わたしの生存競争に巻き込んだ。なら、彼らがそんな道楽に付き合う理由はない。


 ないんだけど、彼らは魔王という肩書きに従ってしまう。なら、こっちも権力を笠にしてお願いするだけだ。


「死は許さないと?」


「はい。たとえ相手が崇高な相手でも。あなたが認めた相手だとしても。死は許しません。なにせ魔王軍ですから。わたしが魔王になったのなら、わたしが良いと言うまで、誰が相手であろうと死は許しません。ただし、負けるのは良いですよ。極端な話、その魔法陣だって無理に守らなくて結構です。わたしが直々に、魔王城でその相手を迎えるだけですから」


「ふむ……。変わり者かと思ったが、実に魔王らしい。暇つぶしに魔王軍に参加したが、これほど面白い存在に会えたのなら釣り合いが取れる」


「面白いですか?」


「ああ。色々と混じっている。その上で魔物の頂点に立つとは。──あなたになら、忠義を尽くそう。我はあなたのお願いを、あなたが命尽きるまで守ろう」


 混じってる?それにわたしにさっきまで忠義抱いてなかったってことだよね?ドラっちさんたちとは違うなあ。これが魔王城直属の部下じゃないってことだろうか。


 気になることもあるけど、溶岩魔神さんは裏切らないっぽいし良いか。ついでにバッグから通信機と映像機の魔装具を取り出す。


「溶岩魔神さんってこの魔装具使えます?溶かしちゃったりしません?」


「無理だな。完全に溶かす。だがそこに置いてくれ。直属の部下にやらせる」


 呼び出された小悪魔のインプが魔装具の使い方をドラゴンに教わる。これで連絡ができる。報連相って大事だよね。


 この魔装具、ぶっちゃけ仕組みが簡単で携帯電話みたいなものだ。登録された連絡先としか繋がらないけど。魔王城と繋がれば十分か聞いたけど、文句はないらしい。


 溶岩魔神さん自身が使えるわけじゃないから、上司に渡された物を受け取っただけかも。使わなくても良いけどさ。


 それからロウル君たちとも話し合い、ロウル君の部隊はここから撤収することを決めて魔王城に来ることにしたらしい。あの宝箱守ってたんだから、それもそうか。守る物がなくなっちゃったんだから仕方がない。


 ロウル君たちには自力で魔王城に向かってもらい、わたしたちは定番のお空を漫遊しながら次の目的地へ。


 途中でファルボロスさんとも通信をしてみたけど、特に問題はないらしい。空の上でも使えるって凄いな、この魔装具。
















「ククッ。魔神たる我が人間と精霊と魔物の混ざり物に従うとは……。ああ、では神としてその歪さを見守ろう」
















 それからわたしたちは世界を駆け巡った──飛び回った?うん、ドラっちさんアッシーにしちゃってごめんね。ちゃんと一週間に一回は休息日作ったから恨まないでね。


 そんなわたしたちはどんな感じだったかというと。


『精霊の加護を得ました。水中で息ができます』


『大地の加護を得ました。魔力の塊たるマナを視認できます』


『世界の加護を得ました。自身を除くステータスの確認ができます』


『動物の加護を得ました。動物の言語を理解できます』


『世界の加護を得ました。武器や道具の詳細を把握できます』


「えーっと、世界樹の枝?うわ、これ魔力の塊なんだ。ってことは魔力を失ったら全快できるってこと?」


「魔法職にはありがたいですな。オレらには関係ないんですが」


「魔法が使えないから?」


「いえ、絶対量が多いんですよ。この前言った一週間ずっとブレスを出し続けたって、三分の一も魔力使わないですからね」


 ドラゴンという種族の化け物具合を把握したり。それは最強の種族って言われる。空も飛べて身体も魔物の中で随一の硬さで攻撃力も強くて魔力もほぼ無尽蔵。森を簡単に燃やし尽くすブレスを三週間くらいずっと吐き続けられて、空腹にもならない。


 空の王者というより、世界の覇者だった。


「変な鎧。緑ですよ?グリーンスケイルメイル……。リザードマンの鱗で作ってあるんですって。ブレスに少しなら耐性ありだそうですよ」


「性能確認してみます?」


「ドラっちさんのブレスなら一瞬でしょう。リザードマンはドラゴンの亜種なんだから、真のドラゴンには敵わないですって」


 使えるんだか使えないんだかな、奇抜な鎧を見つけたり。


「アンデットキラー。短剣ですね。リーチ短くないですか?」


「短剣って言われたそんなもんかと」


「これ、魔王城で使われても、攻撃届く前に遠距離から潰せますよね?」


「それ言ったら剣でも槍でも変わらないですぜ」


 アンデッド特攻だったみたいだけど、特殊な攻撃ができるわけでもなく。人間の移動速度じゃ確実な一撃は与えられそうにない武器は何のためにあるのかと思いながら。


「無限の矢筒。矢が魔力で産み出せるんですって」


「蚊ほどのダメージしか与えられないもんを魔力使ってまで産む必要あります?魔法使ったほうが良くないですか?」


「魔法は詠唱が必要だから、状況によりけり?あとは荷物を少なくできるとかですかね」


「ああ。人間はちっこいから、持てる物も限界があるんですね」


 やっぱり魔物を相手にするには些か不釣り合いな物を結構過酷なダンジョンで見つけたり。


『No.2の青年が死亡しました。選んだ加護は「物質創造」と「錬金術」です。死因は商売敵による暗殺です。残りは七人です』


「また転移者が死にましたよ。錬金術ってマイナーな魔法なんですか?」


「そもそも錬金術ってなんですかい?」


「あー、この世界にないものだったのかな?」


 ファルボロスさんに確認をとってみて、錬金術なんてものがないことを知って。物質創造がどれくらい便利なのか聞いたところ、有から有も便利だが、無から有はとんでもなく便利なのだとか。ただしクンティスに聞いたところ物質創造には結構な額のお金が必要で、だからその二つをセットで加護にしたんだとか。


 加護にも色々制約があるらしい。命関係は無理って言ってたもんね。


『精霊の加護を得ました。状態異常にかからなくなります』


『天空の加護を得ました。精神異常にかからなくなります』


「状態異常と精神異常の違いって何?」


「状態異常は毒とか睡眠とか麻痺とかですねえ。精神異常はマインドコントロールとか、インキュバスが見せる夢とかが効かなくなるんだと思います。身体か心かの違いじゃないっすか?」


「へー」


 というわけで心身ともに健康になったようで。


「え?マンイーター?人間特攻武器?怖っ」


「そんなもんも入ってるんですねー。人間が人間倒すための武器とか、世も末ですぜ」


 なんかまともな刀身をしていない刀を見つけたり。刀身に目がついてるんだけど。キモい。


 しかも人間を斬るたびに切れ味上昇とかいう副産物がついてる。これ魔王城で封印したほうがいいんじゃ?存在が人間を戦争に導きそう。


『魔族の加護を得ました。魔力を消費することで全身にバリアーを張ることができます』


「宝箱から魔族の加護なんぞ出てくるなー!」


『魔族の加護を得ました。魔力を消費することで魔法の威力が上昇します』


「魔法が使えない!」


『魔族の加護を得ました。魔力を消費することで移動速度が上昇します』


「天丼!」


『魔族の加護を得ました。使い魔を呼び出せるようになりました』


「あ、それは嬉しい」


 全く。魔力もない、魔法も使えない。そんなわたしに魔力を消費して〜なんて無駄すぎる。でも、魔力が凄い転移者に取られなかっただけマシだろうか。ファンタジー世界だし、魔法に憧れる人は九人もいたら一人くらいいそう。


 それにわたしが魔物っていう仲間がいるように、この世界の仲間を連れてやってくる可能性もある。うん、一人で何でもかんでもやるよりは仲間を探そうとする人もいるだろう。そんな中に魔法使いとかいそう。


 魔王軍の支部──ほとんど洞窟だったり、小さな砦だったり──にも顔を出して、負けそうになったら場所を放棄して逃げて欲しいと伝える。レベルアップという概念があるようで、魔物や人を倒すのではなく、殺すことでレベルが上がるらしい。なら相手を強くしないために、倒されてもいいけど殺されるのは禁止とお願いしておいた。


 あと、同族・同所属だと得られる経験値が低いらしく、レベルアップが少ないらしい。うーん、この裏切り防止の世界のルール。ありがたいけど、人間の自滅はあまり狙えないなあ。


 模擬戦とかは経験にはなるけど、レベルが上がらないから肉体的成長はないけど、技術とかはつけられるらしい。逆にレベルだけ高くても技術が追いついていないと面倒なだけなのだとか。わたしは技術もなく身体能力もクソザコだから、正真正銘の最弱だ。


 そんなわけで、回るべきところはほとんど回った。あと三箇所くらいで巡業も終わり。


 人間にも転移者にも会わないけど、ドラゴンが群れで飛んでたら近付こうとしないか。ドラゴンが強いっていうのは世界のルールみたいだし。快適な旅は続く。

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