第6話 2−1 世界旅行編

「うっひゃー!ドラっちさんすごく速いですー!」


「はっはっは!これくらいなんてことねーですぜ?」


 わたしは早速、諸々の準備が終わったのでドラっちさんの背中に乗って世界を回る旅に出た。ドラゴン部隊という最強戦力を携えて。わたしたちの周りには大小、種族様々なドラゴンが飛んでいる。


 飛んでいく関係で、地竜や水竜のような飛べないドラゴンたちはお留守番だけど。


 今この世界は夜。夜のお散歩でドラゴンの背中に乗って目的地へ。すっごい夢を見てるみたいだ。飛行機にも乗ったことがなかったわたしとしては、空のドライブはとても刺激的だった。


 結構強い風が身体を襲うけど、ドラっちさんが何かやってくれてるのか痛くはないし寒くもない。こんな快適に移動しちゃっていいんだろうか。まあ、わたし魔王だし。いっか。


 空には満点の星と月が。そこら辺は地球と変わらないみたい。多分この世界も星なんだろうけど、周りにもたくさん星があって、衛星たる月もあって太陽もあるっていうのは不思議だ。地球じゃないのに。


 この世界でも朝昼晩があって、太陽は東から昇る。なんという地球と同じような環境。これは転移者のための都合のいい世界だね。そういう世界に天使どもがしたのかもしれないけど。


 しっかし人間たちの魔法が文明だとしたら、同じような文明が魔物にもあるのは驚きだ。だって携帯電話もどきあるんだよ?魔力が篭ってて、特定の相手と通信ができるらしい。もちろん、人間側にそんな便利アイテム──ファンタジー要素ぶち壊しのものはないらしい。クンティス情報だから怪しいけど。


 その電話もどきの魔装具はたくさん種類があるようで、二個中隊はその研究用の部隊なんだとか。魔科学とかそういう名前らしい。本当にこれ、釣り合い取れてたの?それともこっから人間たちが追い上げてくるの?どっちにしてもやなんだけど。


 まずわたしたちが目指しているのはグンナール火山という場所のようだ。そこに開けられない宝箱があるらしい。で、その火山は休火山だから活動はしていないと人間は思い込んでるみたいだけど、実は火口に行ってみるとものの見事に火山活動が確認できるんだって。そこに魔王城に入るための結界があるんだって。


 宝物と結界の起点が近いのはどうなのって確認してみたら、宝箱に満足してそこから離れる可能性もあるから見逃してたみたい。重要な場所には宝物がつきものらしいけど、そんなファンタジーのお決まりなんて知らない。転移者も人間も苦労してくれ。


 わたしが生き残って、魔物たちも悲しませないためだ。


 考え事をしながらプチ旅行を楽しんでいると、頭の中にピンポンパンポーンというどこか情けない音が聞こえて来た。


 あれ、早くない?まだこっちの世界に来て一週間経ってないよ?


『No.5の青年が死亡しました。選んだ加護は「最強の鎧」と「容姿」です。死因はハニートラップ。残り八人です』


 ハニー、トラップ?色仕掛け?


 いや、五番の人ってあれじゃん。ハゲデブじゃん。そっかー、女の人の魅力には勝てなかったかー。しかも容姿気にしてたんだね。


 人に殺されたのか。人間こわ。魔物同士で身内を殺すとかそういうことないから、そういう意味では魔王軍でよかった。人間が怖いなんて、どこの世界でも変わらないね。


 最強の鎧は気になるなあ。それどうなるんだろ。他の人に奪われたりしない?それあったらわたしも死なないんじゃない?


 でもそう思ってたハゲデブは死んだのか。鎧を外してたんだろうけど。まあ、女の子と一緒に寝る時は鎧を外すよね。


 わたしには一切関係ない死因だな。わたし関わってないし、ハニートラップに引っかかるはずないし、やってくる相手もいないだろうし。なんせわたし魔王だからね。周りには魔物しかいないから。


「アユ様、何かあったんですかい?さっきから顔が面白いことになってますが」


「面白い?」


「嬉しそうにしたり悲しそうにしたり。さっきからグルングルンしてますよ?」


「まあ、良いことはありましたよ。転移者が一人死にました」


「ほほう!面倒な奴が一匹消えましたか!いやー、めでたい。アユ様はよくそんなこと感知できますね?」


「勝手に頭に響くんですよ」


「はー。眠ってる時それやられたら堪りませんな」


 確かに。今は夜だし、その可能性があった。わたしが眠ってる時にもこの連絡は来るんだろうか。もしそれで起きなかったら情報もらえないわけ?それも怖いなー。情報は欲しい。


 残り八人かあ。ハゲデブが殺された場所を確認したいけど、それは諜報部隊の報告待ちかな。やったのが暗殺者か一般市民かでかなり違って来る。暗殺者とかいるんだったら思いっきり利用するんだけどなあ。


 ウチの魔王軍ってそういうハニートラップ部門、あるっちゃあるけど規模小さいんだよね。というかもっぱら士気向上目的の、身内のための部門みたい。サキュバスとインキュバスの部隊がいるらしいけど、ウチの軍隊での欲望発散のための、いわばガス抜きのためにいるんだとか。そういうのができなくて暴れられるのを防ぐらしい。


 やり方は夢を見せるとかなんとか。あんまりファルボロスさんが詳細を教えてくれなかったんだよね。悪魔の部隊なのに。


「ドラっちさん、最強の鎧って言われたら何を思い浮かべます?」


「はぁ。鎧ですか……。オレたちドラゴンにはまず無用の長モノですし、正直リビングアーマーしか思いつきませんぜ」


「鎧とかに残っちゃった残留思念が元になった魔物、でしたっけ?」


「そうですね。武器なら色んな魔物が使いますけど、鎧ってなると少ないんで。俺たち魔物って基本身体が鎧のようなもんですから」


 まー、確かに。飛んでるドラゴンたち、誰も武器も鎧もつけてない。自前の牙と肉体があれば大丈夫そうだもんなあ。肉体が最強なら武器とか邪魔でしかないのか。


 何で鎧にしちゃったんだろ。鋼の肉体とかじゃダメだったのかな。それとも選択肢になかった?不老にはできるのに、能力を最初から強くするなんてできないんだろうか。


 できたら皆選ぶか。他にも情報を集めてみないとわからないけど、強い武器はいいけど、強い能力を最初から身に着ける、は不可能っぽい。最強の鎧ってどんなのだったんだろ。ドラゴンに押しつぶされても平気なのかな。炎とか電気とかも大丈夫なんだろうか。毒とか催眠とかは?


 気になるけど、手に入れられないだろうな。


「ドラっちさんは最強の鎧を身に着けた人間が来ても、倒してくれますか?」


「もちろん。何をもって最強というのか知りませんが、たかが全身鎧を着た人間でしょう?鎧をひっぺがして、殺してみせますよ」


「心強いですけど、慢心はしないでくださいね?天使の加護は本当に凄いものですから」


「そりゃあオレたちはアユ様の配下ですから。慢心なんざしません。第一最強の鎧って言いますが、何が最強何ですかい?防御力?魔法耐性?どんな理由か知りませんが、人間を殺すなんて簡単ですよ」


「へえ。自信満々ですね。その方法とは?」


「簡単ですぜ?一週間、炎のブレスで隔離すればいい」


 脳筋……?いや、そうとも言えない。ドラっちさんは人間のことをよく理解しているからこその発言だ。確かに人間は、一週間たった一人で隔離されたら倒せるだろう。


「なるほど。餓死させるという手ですね。人間に変わりないなら一週間も孤立させれば、炎の中なら脱水症状も起こすでしょう。ちなみに皆さんは一週間戦い続けることなんてできるんですか?食事もなしに?」


「できますよ。一週間と言わず、一ヶ月でも。オレたちの場合食事は娯楽で、戦うにも生きるにもそこら辺にある魔力の塊を摂取すればいいだけですからね」


「魔力の塊?目に見えるものですか?」


「あり。アユ様見えてない感じですかね?そこら辺に黄緑のものが飛んでますよ。魔物はこれを変換して魔法を使ったり生命力に変えてますね」


「へー。初めて知りました」


 使いすぎたらマズイんじゃ、とも思うけどドラっちさんはなくなることを全く想定していない。今もそこかしこにあるんだろうか。この辺りはドラっちさん以外にも聞いてみよう。信用してないわけじゃないけど、ドラっちさんは三体の中では割と大雑把だから。


「しっかしアユ様はあべこべですねー。オレたちが知らないことは知ってるのに、オレたちが知ってることは知ってたり知らなかったりあやふやで」


「そうですねー。もっと勉強しておけば良かったです」


 漫画とかゲームとか、知識で知っておけば良かった。そうすればもう少し楽ができたかな。でもあの生活でそんな余裕なかったし。


 君たちとの知識の差は世界の差だからねー。常識って役に立つんだか立たないんだか。


 そうやって話している内にグンナール火山に到着。ここは魔物の巣になっていると人間の間でもっぱら噂で、貴重な物が採れるわけでもないから人間は近寄らないらしい。街からもだいぶ離れているらしいし。


 今は夜。こんなところに人間は来ないだろう。ドラゴンの群れもいるし、襲われることはないはず。


 ドラゴン部隊の半分は一応周りの警戒。もう半分はわたしと一緒に宝物の捜索。ここにいる魔王軍の麾下にいる魔物と話をすればすぐみたいだけど。


 そんな魔物たちを探していると、何だかドタバタと駆け足が聞こえてきた。何だろうと思っていると、赤い毛並みの魔物たちがやってきてお座りというか平伏というか。頭を地面につけて五体投地をしていた。狼かな。


 ドラっちさんも特に気にしてないし、この辺りに住む魔物なのだろう。魔王軍の麾下かどうかわからないけど。もし麾下だとしても、最強のドラゴン部隊が来たら驚くか。


 だって田舎の支部でゆっくり過ごしてたら、いきなり本社の重役が勢揃いでやってきたみたいな感覚でしょ?そりゃあ頭も伏せる。うん、事前連絡していないこっちが悪いけど、地方の魔王軍じゃ魔装具の通信機持ってないっていうんだもん。連絡のしようがない。


「ま、魔王様。本日はどのような御用で……?」


 一匹の狼がわたしの顔色を尋ねながらそう口にする。あれ?わたしが魔王だってわかってるんだ。


「わたしが魔王だって連絡、行き届いているんですか?」


「あなた様が来られれば、すぐにわかります!それほど強大な力、そしてドラゴン部隊を率いていることから、推察は可能です!」


 うん?強大な力?もしかしてドラっちさんたちを力で屈服させたと思ってる?


 まっさかー。わたし、君たちにも殺される貧弱ボデェだよ?狼に襲われたら死んじゃうのに。


「頭を上げてください。名前を教えていただけますか?」


「はっ。ファイアーウルフのロウルでございます」


「ロウルさん。あなたたちが開けられない宝箱を守護していますか?」


「はい。我々魔物では開けることが叶わず。動かすこともできませんでした」


「そうですか。そこまで案内を頼んでも?」


「こちらです!」


 魔王軍でのやり方が身に染みたというか。とにかく敬ってくるので、こっちも魔王ですよーって態度でいればいいと悟った。だって廊下でどんな魔物に会っても「魔王様」って言いながら頭下げてくるんだもん。頭下げなくていいのになあ。この肩書きなくなった瞬間発狂されて襲われそう。


 天使の加護で据えられたお飾りだからね。本当は敵対すべき人間だし。誰も疑問に思わないとか異常だ。


 ロウル君とその同族に連れられて行くと、行き止まりのような場所に宝箱が置いてあった。うーん、現代日本じゃ見られない、立派な木でできている宝箱だ。


「これ?」


「はい。ミミックではありません」


「魔物じゃないってことだね。魔物じゃ誰も開けられなかったっていうのは、どんな存在も確かめたんだっけ?」


「例の諜報部隊に、人間に化けてもらって確かめたんですがダメでしたね。鍵の作成とかもしたんですけど、開きませんでしたぜ」


 ロウル君とドラっちさんがそう教えてくれる。試せる手段は全部やったってことか。


 周りをぐるっと回る。なんてことのない宝箱にしか見えない。宝箱を見るのは初めてだけど。


「魔法とかもかけられてないんですよね?」


「確認済みですぜ。魔法解除も力自慢も試しましたが、ダメでした」


 魔法でも力づくでも、鍵を作ってもダメ。やっぱり特殊なルールがあるんだろう。ファンタジー世界特有の何かだったり、これを作った人の呪いだったり。


 この宝箱、作ったの誰なんだろう。人間なのかあの天使どもなのか、はたまた魔物だったり。裏切りとかもありそう。魔王軍から寝返ることがないように、組織体系見直そうっと。


 確認がてら、宝箱を叩いてみる。良い音はするけど、中に物が入っているんだろうか。物が動いた音がしなかった。わたしが両腕を広げたくらいの長さがある大きな宝箱に、何も入っていないとかそんな詐欺があるんだろうか。


 でもこれ、きっとラスボスわたしを倒すための何かが入ってる宝箱なんでしょ?偽物とか置いておくかなあ。


 考察はしたって無駄か。ヒントなさすぎだもん。開けられるなら開けてみようか。


 そう思って蓋に手をかける。うん?なんかすんなりと──。


















 パカッ。















 ……開いたけど?


「ウェエエエエ⁉︎」


「そんなあっさりぃ⁉︎」


「さすがアユ様だぜ」


 ロウル君たちファイアーウルフの皆は慌てふためいているけど、ドラっちさんやドラゴンの皆は当然とばかりに大きく頷いている。


 何その、あんたならやってのけるって信じてたぜ。みたいな頷きかた。


 開けた宝箱には、小さい紅い宝石が入っていた。ルビーだろうか。それを取ってみるとそのルビーが勝手に浮いて、わたしの胸の中に入ってきた。


「ウエッ⁉︎なんか入ってきたー⁉︎気持ち悪っ!ドラっちさん取ってー!」


 ファンタジー世界怖っ!なんで宝石が体内に入り込むわけ⁉︎しかも物理法則無視したよ!胃カメラだって鼻から通すんだぞ!


 一番近くに護衛のためにいた、ドラっちさんにしがみついてわーぎゃー騒ぐが、誰も解決してくれない。どうにかしてよ、幹部!


 なんでドラっちさんまで慌ててるの!目を逸らすな!


『精霊の加護を得ました。接地しているフィールドトラップを無効化し、足が若干浮きます』


「……はい?誰か、声を出しました?」


「へ?いや、何も聞こえませんでしたが……」


 目を逸らしたまんまのドラっちさんはそう言う。ドラゴンで身体能力は人間よりも相当良いのに、聞こえなかった?


 ロウル君たちにも顔を向けてみますが、誰もが首を横に振る。


「申し訳ありません。我々は何も聞こえず……」


 つまり、脱落者と同じ、転移者にしか聞こえないメッセージと同じ感じだろうか。聞こえてきた声もどこか機械チックだったし。で、何て言ってた?精霊の加護?フィールドトラップ無効?足が若干浮く?


 ドラっちさんから離れて、地面に立ってみる。けど、変化があるかと言われると……。あ、足が地面についてる感覚がない。


 えー、何それ。もしかしてこの世界で得られる特殊能力とかそういうやつだろうか。フィールドトラップ無効とか、魔王城に基本引きこもるわたしに必要な力じゃないんだけど。魔王城のトラップ、わたしには作動しないようにしてもらったし。


 ザ・無駄能力。


 まだ周りの皆が慌てているので、落ち着かせよう。


「ごめんなさい、慌てました。もう大丈夫です。どうやら力を授かったようで」


「さっきの石の力ですかい?一体どんな?」


「……フィールドトラップ無効、だそうです」


「へえ、そりゃあまた。人間に取られると面倒な力でしたね。せっかく仕掛けた罠が無駄になっちまう」


 確かに。そう考えるとわたしが取っておいて良かったかも。せっかく毒の床とか用意しておいても、平然と歩いてこられたら困る。


 ドラっちさんの言う通りかも。人間に渡すとめんどくさい能力がこうやって宝箱に入ってるのか。やっぱり全部回収しないとダメなんじゃ?相手を弱体化させるためにも。


「でも、なんでわたしにはこの宝箱開けられたんでしょうね?」


「アユ様だからでは?なんたって魔王ですし」


「役職の問題ってことですか?」


「役職っていうか、御力というか。きっとアユ様がこの世界を支配すべき方だからだと思いますぜ」


「私もそう思います!あなたはまさしく、世界を統べる魔王様であらせられます!」


 ドラっちさんもロウル君も大袈裟だなあ。世界を統べるつもりはないの。転移者倒して世界のバランスを整えるだけ。魔物の世界とか作るつもりないし。


 それで良いのか、魔王。


「まあ、一件落着ということで。この調子で宝箱を開けていきましょう。人間には一個も渡しません」


「「「おおー!」」」


「でも今日はもう遅いので、皆で休みましょう。明日は溶岩魔神さんのところに行きましょうか」


 初めての野宿だったけど、ドラっちさんの身体に寄っかかったので暖かくてぐっすりと眠れた。だいたい寒い思いをするもんだと思ってたけど、背中に乗ってた時から思ってたけどドラゴンって体温高いなあ。湯たんぽいらず。


 魔王城には人間用の寝袋とかないから準備できなかった。仕方がないよね。この旅の間はドラゴンの誰かを湯たんぽにしよう。









(ウオー⁉︎背中に乗せて、頭にしがみつかれて、身体を預けてくださって!こんな幸運が一日どころか半日の間に一気に訪れて良いのか⁉︎オレ、明日死ぬのか⁉︎)


 そんなことを思ったドラゴンの長がいたとかなんとか。

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