第5話 1−3 勇者の一人No.5
俺の人生は灰色だった。就職活動に失敗してフリーターとして働く日々。そのフリーターとしての仕事も、クソみたいな店長によって辞めさせられた。そこからは引きこもりだった。ゲームして漫画読んでネットの海に潜って。
そうこうしている内にハゲてデブった。
気付けば四十後半になっていたが、そんな時に部屋に天使が現れた。その天使によって連れられたキャバクラで綺麗なおねーちゃんに接待されてキャッキャムフフで過ごして、最後には異世界転移だ。
もう前の自分とはオサラバだ。容姿もマジでイケメンになった。天使の加護の内の一つを使っちまったが、もう一つの加護で最強の鎧を手に入れていた。これで死ぬこともなく、イケメンになった俺はモテモテになって魔王を倒すことができる。そうすればバラ色の人生だ。
本当は不死が良かったが、それはできないとのこと。だったら死なないような防具があればいい。死なないようにしながら、こっちで良い武器を見繕って、どうにか魔王を倒せば良いと。
転移して見事なファンタジー世界に見惚れて。最初の魔物をどうにか一匹倒したところで初めての脱落者が出た。まさかこんな早く死ぬとは思っていなくて、慎重に行動することにした。成長倍加は悪い特典とは思えない。成長する前に魔物に殺されてしまったのだから、俺の選択は間違っていなかったと思う。
でも最初の魔物ってそこら辺に落ちてた木の棒でも倒せたからなあ。その少女は武器がなかったのだろう。可哀想に。
慎重に移動して初めて街を見つけて。情報収集と武器を買った。これでひとまずは大丈夫。これで雑魚の魔物を倒しつつレベルを上げて、ある程度鍛えたら国の軍隊に志願すれば良い。そうすれば魔王軍との戦いに行けるはずだ。ゲームのような世界なんだからレベルアップとかあるはずだけど、ステータスとか見られないからな。でも魔物を倒せば強くなれるっていうのはどんなファンタジーでも変わらないはずだ。
そうして魔物を狩って過ごしていく内に、いつも情報収集をしている酒場でとても小さい女の子が情報板の前にいた。いや、今の俺が身長で言うところの180cmを超えてるからなんだけどね。少女とは30cmくらい差があるだろうか。フードを被った女の子は、何かを探しているようで、さっきからひっきりなしに情報を見ている。
困っているようなら助けちゃおうかな。今の俺はイケメンだし、加護のおかげで強いし?討伐系の依頼とかだったら楽勝だ。
「そこのお嬢さん。何か困ってるのかい?」
曰く、親を魔物に殺されたらしい。それで依頼を出しているが解決されないのでどうしようと思っていたとのこと。もし報酬が悪いのであれば依頼を出し直そうとしていたところだという。
これ、俺が解決したら「きゃー、ステキ!抱いて!」ってなるんじゃなかろうか。この少女、まだ十代っぽいけどイケそうな気がする。復讐に必死だ。何もかもを投げ出しそうな危うさがある。もしその復讐の対象を倒せば。ムフフ。
依頼を見てみるが、俺も倒したことのある魔物のようだった。ただし親玉のようで、ドラゴンランナーという種族だけど、鶏冠が通常種とは逆向きに天を向いているらしい。どうやらたまにいる強化種のようだ。
強化種を倒すにしては報酬が安すぎるために誰も受けていないらしい。強化種は通常の魔物より一回り強いらしく、特に同種の魔物を率いているので厄介らしい。数人で倒すのがセオリーだが、報酬的に数人だと取り分が少なすぎるのだと。
正義感のない奴らめ。いや、俺もアフター狙いだけど。
俺は少女の依頼を受ける。ここから俺の英雄譚が始まるのだ!
少女にはめっちゃ感謝された。報酬で足りなかったらなんでもするとさえ言い出した。ん?今なんでもするって──おっと、今は紳士であれ。爽やかな笑顔で良いからと言いつつ、それを言質扱いにした。
全く、ファンタジー世界って最高だぜ!体型は年齢相応だが、それが返ってそそる。
一人で街の外に出て、ドラゴンランナーという黄色いトカゲのようなものを探す。ドラゴンって名前がついているがドラゴンのはずがなく、ただの爬虫類だ。ファンタジー世界でありがちな、安易な名付けってやつだ。この辺りの魔物で考えると上位らしいけど、スタート地点周囲の、上位だ。
相手の攻撃を気にせず一方的に殴れる俺には関係ない。
例の逆鶏冠を見つけて、脳筋戦法だ。ぶっちゃけこれが一番強い。保険で回復ポーションも買ってある。俺が負ける要素はない。
殴られようが殴り返すバーサーカー戦法でドラゴンランナーを剣で殴り殺す。いやいや、切れ味ないから、こんな殺し方になっちゃうんだって。辺り一面にはぐっちゃぐっちゃになったドラゴンランナーの身体だったものが散らばっている。猟奇殺人が起きた現場のようだ。そう、この世界は倒した魔物は灰になって消えたりしないらしい。モンスタードロップとかもないようで、こいつらの死骸から取れる素材から加工して武器や防具、役立つアイテムを作るらしい。
逆鶏冠の頭と、ドラゴンランナーは鱗が防具作成に役立つアイテムのようなので、素材剥ぎ取り用のナイフを使って剥ぎ取る。防具はフルメイルが特典であるからいらないけど、資金稼ぎには役立つ。良い値段で買い取ってもらえるのだ。
そんなわけで逆鶏冠を持って依頼の完了として、酒場は騒がしくなった。本来数人で行うべき依頼を、たった一人でやってみせたのだ。これには少女も大喜び。
そのまま酒場で盛り上がり、その勢いでお持ち帰りに成功していた。
「あの、私初めてで……。優しくしてくださいね?」
ゴクリと、喉が鳴った。そのまま彼女の服に手をかけ──。
「バーカ」
それが俺の聞いた、最期の言葉だった。
『No.5の青年が死亡しました。選んだ加護は「最強の鎧」と「容姿」です。死因はハニートラップ。残り八人です』
「へー。ハニートラップまで言われちゃうんだ。じゃあ気を付けないと。……うわ、死体消えるんだ。ってことは残りの
さっきまで死体としてそこにいた男を殺したのはまさに依頼を出した少女だった。彼女も転移者。情報を集めつつ手段を増やしたいと思っていたらカモが来たので計画を実行。
貰った加護による、「魔法力増加」によって魔力で作った刃で首を切断。肉体が凄かったわけではないので、簡単に殺せた。
「ふむふむ?人様の加護である武器は奪えないんだ。透明な壁でもあるのかな。これは転移者向けの措置か、それともこの世界全てに適応したルールなのか。転移者に出し抜かれなければいっか。さーて、最悪私は死ななければそれでいい。女として生きていければいい。これが転移者の限界だとしたらそれまでかな。単身で魔王に勝てるとは思ってないし」
見たこともない尊厳な鎧を身に纏っていれば、それが有名な騎士とかではなければ転移者だと判断するのは楽勝だった。加護のことなど知りたかったので実験したが、中身がクズすぎて抱かれてやる気もなかった。これで中身も良かったら一回くらい身体を許していたかもしれないが。
加護以外の金目の物は全て手にして、宿から出る。カメラなどないこのファンタジー世界で、現場を見られなければ殺人で捕まることはなかった。
「もっともっと女を磨くぞー!」
少女の笑顔はとても可愛らしいものだった。とても人を殺した後の顔とは思えない。
結果誰にも知られることなく、少女は街に消えていく。少女の嘘を叶えた偽イケメン騎士はその内忘れ去られた。
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