十二歩目.町にて、少女は思い返す



「レヴィの生まれ育った町、ですか」

 神妙な顔をして、リーアはこてんっと首をかしげた。

「でしたら逆に、都合が良いかもしれませんね」


「都合が、良い……?」


 怪訝に思い問いかけると、リーアは意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「ふふふっ、だってレヴィの性格がここまで捻じ曲がってしまったのは、十中八九王宮のせいでしょう?

 言葉を重ね称賛しても受け入れない貴女が、少しでも過去を思い出し、そして自分の価値に気付いていただける、とても良い機会となるでしょうから」

「……私の性格は、矯正を必要とする程に捻じ曲がっているのか?」

「ふっふふ、それはもう、ビックリするくらい」


 な、なんと。


「その、どこがどのようにおかしいのか、教えてはくれないか? 今からできる限り、意識して動くようにする」


 リーアは相変わらずニコニコ笑って、一刀両断した。

「無理ですわ。たかが意識した程度で、貴女の性格は直せません」


 ものすごく手厳しい言葉だが、リーアにそこまで言わせる程、私の性格は捻れているのか……。

 リーアは王宮のせいでと言っていたが……まぁ、確かに王宮での生活は人権をまるっと無視されたものだったからな……。

 頭がトチ狂ってもしょうがないのやもしれん。



「では、ウォルンシス町の人気の少ないであろう場所への転移で良いな?」

「お願いします。レヴィもワタクシの魔法で隠しますので、ボロ布しか着ていないことはお気になさらないでください」

「わかった。しかし、お金はどうするつもりなのだ?」

「褒賞で貰ったものを不審に思われない程度で残してありますから、心配なさらないでください。服を買い、宿にも十日は泊まれますわ。

 もっとも、追手がいつワタクシたちを見つけるかで宿に泊まれる日数は変わってくるのですが」


 あまりリーアに頼りっぱなしも良くはないだろうが……これ以上、私にできることも思い当たらない。


「何から何まで悪いな」

「代わりにワタクシでは使えない魔法の力を借りているんですもの。一方的なだけの関係ではなくってよ」

「そう言ってくれると、助かる」

「事実ですから。

 さ、時間も有限ですし、行きましょう?」

「うむ、了解した」


 息を吸い込む。

 脳内でテンプロート王国の地図を開いた。今回は追加して、ウォルンシス町の地図も。


「時間帯は昼前。町だと、三番通りから脇道に逸れた暗がりは確実に人が少ないはずだ。万が一開発されていることを懸念し、家一つ分を考慮した高さに転移しようか。

 すると、座標は王国全土の地図を参照して……うむ、これでむこうまでの直通回路は開けるはずだ。

 あとはあっちの空間に耐えられるだけの防護をつければ……よし、リー。飛ぶぞ?」

「かしこまりました」


 いつも通り、慣れた感覚を手繰りながら魔法を発動させる。

 視界の風景が切り替わると同時に、座った体勢のままに地面だけがごっそり無くなった感触に襲われた。

 リーアも含め支えられるよう、浮遊の魔法を使う。


「七年前から、ほぼ変わっていないな」

「あら、そうですの。でしたら、レヴィの脳内地図が大活躍しそうですわね」

「この町どころか、ここ百数年の間は、王国全体でほとんど地形が変わっていないんだろう? 唯一、捻れた空間と接している部分を除いてな」


 だから、一度地図を覚えさえしてしまえば、一生使える知識となる。

「アレだろう、昔、まだ捻れが無かった頃は、天候やら何やらで年単位で地形が変わっていたという」


「それもありますけれど、町というものは変わっていくものでしょう? どこそこの店が移転しただとか、老朽化に伴う改修工事をだとかで。

 人口が減っての村の合併を除いて、領地の変更は認められていない為、形自体は変えられませんが」

「領地の奪い合いなんぞしておったら、空間の捻れと対峙できんくなるからな。その捻れとの戦闘から実質逃げ出したような私が言えることではないが」

「良いのですよ、レヴィ。ワタクシたちはその大本を壊す為に動いているのですから」

「まぁ、な」


 地面に降り立ち、杖をつく。

 リーアの手を借りながら、どうにか歩けるようにまで姿勢を整えた。

「リー、まずはどこへ行く?」


「この時間でしたら宿も取りやすいでしょうし、先にレヴィの服と杖を買ってしまいましょうか。お手頃価格で見た目にもバリエーションを加えられるおすすめの服屋さんはご存知で?」

「ならば、以前母と私が使っていた店へ行こうか。この町でも一、二を争うくらいには人気な店でな、初等学校ん時の同級生も、大半がそこの店を使っていたんだ。個人の経営店らしいんだが、品揃えは抜群に良いんだぞ」

「もしや小物類も売っていたりしまして?」

「多少なら、な。イヤリングや軽めのネックレスとか。だがさすがに杖のような、大きめの小物類は売っておらんはずだ。

 その店の隣の隣に、杖専用の店があるから、皆必要ならそっちへ行くんだろう」


 転移で来た裏路地から表の通り――一番近い二番通りへ向かい、私の案内を受けながら、リーアは歩いていく。


「隣の隣の店では、杖を売っておりますのね」

「ああ、売っとるぞ。しかも杖専門ということもあってか、こちらもバリエーションがすごい。噂では近隣の貴族らがわざわざ来るくらいには、いろんなものがあるらしいんだ。

 仲良くしていた同級生の祖父がそこん店へ杖を買いに行った時に同級生もついていったようで、興奮しながら私にその時のことを話していた。まるでたくさんの種類が生えている小さな森みたいだったと。

 値段も安いものから高いものまで、幅広く揃えてあるとのことだ」

「所狭しと多くの杖が並んでいるのでしょうか?

 ふふっ、なんだか楽しみになってきましたわ。レヴィったら、スタイル良いですし、いつかは着飾ってみたいとも思っていたんですよね」

「リーは毎日、自分で服を選んでいたんだったよな」


 リーアも元は二の魔法師として、国から数多くの任務を与えられ続けていた。

 その為王宮に部屋を与えられていて、褒賞での金銭を用いて買った服を色々と組み合わせて着ているのだということは、以前、本人の口から聞いたことがある。

 私なんかは、僅かな褒賞をほぼ全て食い物に費やしていた。美味しいものを食べる為にという理由を作って任務の場へ行けば、多少は気が楽だったから。


「では、服と杖の選択はリーに任せよう。楽しみにしておるぞ」

「ふふっ、楽しみにしていてくださいな」


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