十一歩目.森にて、少女は計画する



 そっと頬を何かが撫でた感覚に、ふと目を覚ました。

 誰だ、私の部屋に無断で入ってきたヤツは。……また王宮のヤツらが、急の突撃命令を下しに来たのか?


 にしては、随分と優しい感触だったが――っと、違う。

 そういえば、そうだった。


「おはようございます、レヴィ」

「……うむ、おはよう」


 私、それからリーアの二人で、王宮を夜逃げしてきたんだったな。


「ふわぁ……して、今は何時頃かや?」

「さぁ、何時なんでしょう? 大きめの街に行けば時計台もあるでしょうけど、残念ながらここには時計など無いものでして。

 一応、陽は空の高いところまで昇りつつあるので、正午より少し前くらいだとは思います」


「なるほど、ありがとう」

 起床時間は、午前の三時か四時頃まで任務をこなしていた次の日と変わらないくらいだから、そこまで遅くはない、か。



「ではさっそく、今後の予定についてまとめようか」

「ええ、そうしましょう」


 普通に起き上がろうとして、体がふらつく。ああ、昨夜右足も斬られたんだっけな。

 いや、断罪直後は気を失っていて、次に覚醒するまでどれほどの時間が過ぎていたのかはわからないから、正確に昨夜かどうかはわからんが……。


「しかし、右足の無い生活というのも、大変だな。体を起こすだけでさえも支えを必要とするとは」

「……ごめんなさい。せめてワタクシに、一瞬で部位欠損を治せるだけの力があれば」

「んや、千切れたヤツをくっつけるのならばまだしも、欠損部分を完全復活させるというのは、相当な魔力と時間を必要とするだろう? 基本的に治癒系の魔法というのは、体に本来備わっている自然治癒能力を増幅させるものなのだから」

「仰る通りです。特にレヴィみたく、右足をまるごと無くしてしまっている場合、治癒能力によって膨大な量の血肉やら骨やらを生成しなくてはなりません故」


 前に、空間の捻れから襲ってきたヤツらとの戦いの最中、左腕を根本から消し飛ばされたことがある。

 その際に感じた痛みは断罪で右足を斬られた時より少しだけマシな程度のもので、私の過剰防衛機能やらなんやらが莫大な魔力を生み出した為、すぐに元通りへ治すことができた。

 だから、部位欠損を治癒能力によって治すのに必要な魔力量は覚えている。なんせ、この時発生した魔力のほとんどを持っていかれたのだから。


 断罪の時の痛みに、ここまでの魔力どころか、常時の毎秒回復量すら私の体内で生み出されなかったのは、私の腕に魔封じの枷が付けられていた上に、魔封じの魔法陣や魔力生成を遮る魔法陣がいくつも使われていたからだ。


「技術的にはワタクシにもレヴィの足を治すことは可能ですが、圧倒的に時間が足りません」

「そりゃあ、な。今私の足を治しているくらいなら、他に色々とやらねばならんことがあるものな」


 リーアも、元はテンプロート王国に治癒の力だけで二位の座までのし上がってきた実力者。

 基本的に多大な量の魔力を必要とする魔法は、私の杖みたいに外へ魔力を塊として出しておいて、いざ魔法を使わんとする時に、己の溜められる最大魔力量を超えないように補給を行いながらやるもの。

 この塊を準備するにも、そして大規模な魔法を使う際は――魔力量で不備を補いつつのゴリ押しを行わない限りは――どうしても多くの時間を必要とするものなのだ。

 これは、いくらリーアが才ある治癒系の魔法の担い手であったとしても、変わらない。


 とにかく、私の右足は今すぐにどうこうできるワケではないのだ。

 あまり気にしていても、仕方がない。



「――で。ひとまずは、空間の捻れについてのリーの仮説を検証していく流れで良さそうか?」

「はい。ここから空間の捻れまで、直線距離で一番近い点ですと、現在のレヴィでは何回転移が必要となりそうですか?」

「そう、だな……危険を承知でギリギリのラインを攻めるなら、五回。安全を保ちつつの移動にするならば、七回、といったところか。

 だが、いずれにしても魔力は最大貯蓄量に近いくらいには使う故、飛ぶごとに最低四時間の休息は必要だ」

「つまり、七回だと仮定すると、二十八時間――一日と四時間はかかる計算ですね。大丈夫です、あらかじめの計算の範囲内に収まります」

「む、そうか。なら良かった」


 すると、どこら辺に転移することになるのだろうか。さすがに街や町、村の中へ直接転移するのはマズイ。

 転移避けの結界が張ってあるのは王都だけだが、昼間の時間帯に急に人が現れたら、どう考えたって噂になる。

 夜逃げをして、絶賛逃亡中の身であるが故、噂としてでも王宮の耳に入ることは避けたい。


 一番理想的な手段は、先のように人々の寝静まった夜に、街やら村やらを避けた森や平原のような場所へ転移していくものとなる。

 が、すると、日当たりの転移できる回数が少なくなる。

 大方の門が閉まる時刻である十九時から次の転移を使うとして、次の開門時刻の四時までに三回。翌日以降も同様に考えて、五回目が終わるのは明日、七回だと明後日までかかる計算になるのか。

 なるだけ次以降の段階に時間を取っておきたいことを考慮すると、さすがに時間がかかりすぎている気がする。


「リー的に、この移動にどれほどの時間を割ける予定なのだ?」

「かかって二日ですわね」


「二日、か」

 ……ここは危険を承知で五日のコースを取るべきか?

 けれど、そうすると、私だけでなくリーアも危険に晒すこととなる。

「なあ、リー。真っ昼間の現在いま出発してしまったら、万が一誰かに見られた時に危ういと思うのだが、どうする?」


「あら、そこはお気になさらなくとも大丈夫でしてよ。ワタクシが隠密の魔法をうまくかけますわ」


 っと、そうか、リーアは隠密系の魔法も得意としていたのだったな。

 うむ、ならば、安全でかつ予定内にも収まっている七回の方を選ぼうか。


「行き先だが、町と平原、どちらが良い?」

「町中でお願いしたいですわね。まだ追手が付いていない内にゆっくりと休んでおきたいですから。それに、レヴィの杖と服も買っておきたいので」

「む…………そ、うか」

「何か問題でもございまして?」

「いや、問題という問題ではないのだが……」


 無論、私の脳内にテンプロート王国全土にある街や町の地図が入っているワケではない。

 しかしこの問題については、空中に一度転移してから、安全な場所を目掛けて浮遊の感覚で降り立てば良いだけの話。


 というか、今から目指している町はわざわざそんな手順を踏む必要もない。


 何故かって、この町の地図は、ある程度知っているから。

 あまりに細かい店名までは覚えていないものの、人気が少なく転移先に向いている場所の候補がいくらか上がる程度には、わかる。

 周辺の地理も他より詳しくインプットされている。


 ただっ広い平原に囲まれていて、道なりを進んで徒歩二時間くらいに村がある、なんの変哲もないただの町。



 名を、ウォルンシス町。



「その町はな――」




 ――私の生まれ育った町である。






――――――――――

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!!


もし、

・ヴェ!? レヴィちゃんの生まれた町!!?

・リーさん他に何が出来るんだろう……?

・リーちゃん絶対参謀似合うって!!

・面白いな……早く読みたいなぁ……

・投稿頻度――上がらないかなぁ(チラッ)


と思いましたら、

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(私のテンションが爆上がりしてめちゃくちゃ筆が早くなります)



それと、今日、19時頃にもう一話投稿します……!

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