破天荒な天才N


 そいつの狂った才能は、まさに神とも思えるようなものだった。


 けれども作っては壊し、作っては壊れ、もう瞳は虚ろのままだった。


『僕は……才能なんて、いらなかった』

 俺に抱きついたまま、あいつはぽろぽろと泣き出した。

『僕は……ただ、君といたかった。君だけが幸せなら、それで何もいらなかったのに……』

 ぽんぽんと肩を励ますように優しく叩く。

「それで? お前の話を聞くと、どれだけやり直しても俺は必ず死ぬみたいだな」

 途方も無さすぎて、ちょっと信じられない。


『何度も……何度もやり直したんだ。5才の頃に、未来の僕から手紙が届いて、君を守るためのあらゆる手段が書かれていた。病から救っても、世界を壊しても、平行世界、何千回と試行を繰り返しても、君だけが救われなかった』

 うーん、途方も無さすぎて、ちょっと理解できないかも。

 だけどこの破天荒な天才なら、そんなことも出来てしまうような気がしてしまう。


「未来から過去を変えたら大変なんじゃないか? ほら、タイムパラドックス? 改変によって大変な事になったりさ」

『分岐する世界が増えるだけだよ。また君を失って、絶望する僕が増えるだけだ』

 ふーん。この破天荒な天才が多次元に大量に増えていくのはちょっと勘弁して欲しい。

 一人だって俺はお腹一杯なのに。


 この天才は何でも出来るし何でも理解できる。きっとそれこそ世界を救う救世主にも、世界を滅ぼす殲滅者にも、どちらにもなれるのだろう。


 どうあがいても凡人な俺は、こいつに嫉妬した事があった。

 小さな頃の夢は正義の味方だったけど、自分に出来ない事があまりにも多すぎて諦めざる得なかったんだ。


 何でも出来て、何でも持っているのに。


 でもこの非凡な天才は、一番大切なものだけがこぼれ落ちてしまうのだという。


 心が砕けているこいつの背中を優しく叩きながら、俺に出来ることはなんだろうと考える。

 世界を救うヒーローには、なれなかった。


 だけど、こいつを救うヒーローには、なれるんじゃないか?


 平行世界のN回目の俺に告ぐ。


 世界は俺には救えない。だけど、俺には一人だけ救えるやつがいる。


 泣き虫な幼馴染みを、俺たちで救おうぜ。


「なぁ、どの世界のお前も、やろうと思えば過去に手紙を送れるだろう?」

「……あぁ、最初の僕が理論と一緒に手紙を送った。未来からの手紙がなくても作れるけど、あれがあれば3分でできるよ」

「じゃあさ、どの世界の俺も必ず死ぬんだろう? だったら、今いるこの俺を解体して、分子レベルで解剖して俺を再構成できるデータを作ってくれよ。物質は送れないけれど、データなら送れるよな。でもって遺伝子データがあれば、お前なら丸っと同じ俺を作れるだろう?」


 必ず死ぬのなら……死んだこの先を示してやればいい。

 すべての平行世界のあいつに、俺のデータを届けるんだ。

 あいつは泣きながら、できるけど、嫌だ。君が生きているのに解剖するなんて、三回しかしたことない。

 なんて駄々を捏ねてるいるけれど。

 いや三回は解剖したんかい! って突っ込んでしまったけれど。


 まぁなんだ。

 未来から過去に送る手紙に、俺が俺へ送る手紙も一緒に同封してもらった。



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