5

改札を出ると、正面に見慣れた人影が立っていた。白いボアパーカーがよく似合う、遠目に見ると可愛らしい女の子にも見える、男の子。

 寒そうに軽く肩を屈めていた潤は、私を見ると、両目をすいと細めた。

 それは、呆れているようにも、怒っているようにも、哀れんでいるようにも見える、絶妙な表情だった。

 「美月ちゃん。」

 こちらに歩み寄ってきながら、潤が私を呼んだ。

 兄が、警戒するように、私と潤の間に身体を滑り込ませる。

 それでも潤は、私だけを見ていた。そこに兄なんて存在しないみたいに。

 「こんなことになるだろうなって気は、してたよ。」

 潤がそう言った声は、やはり、呆れているようにも、怒っているようにも、哀れんでいるようにも聞こえた。

 一瞬前までの幸福感は、潤の目を見た瞬間に消えていた。凍える手を兄と握り合わせたまま、私は潤を唇だけで呼んだ。声は出なかった。喉の奥で凍りついてしまったみたいに。

 「美月、誰?」

 兄の声は、切るように鋭かった。

 答える言葉がない私は、首を左右に振った。

 友人、とでも答えればよかったのだろうか。私と潤は、どう考えても友人なんていう言葉がふさわしい仲ではなかったけれど。

 「恋人です。」

 はっきりと、潤がそう口にした。

 驚いた私は、潤を凝視した。

 彼は、いつもと変わらない、ちょっとけだるげだけれど冷静な目をしていた。

 「そっか。」

 兄は激昂するでもなく、平然とそう呟いた。それもそのはずで、兄と関係を持っていた間にも、私には恋人がいたことが何度かあった。それは、どれも長続きはしなかったけれど、あったことはあったのだ。

 兄は多分、潤もそんな恋人のうちの一人だと思ったのだろう。

 つまりは、兄から離れるためにもがいた結果としての、遊びにもならない恋のうちの一つと。

 潤は、固まっている私を静かな常の眼差しで見つめると、行こう、と兄と繋いでいない方の手を引いた。

 私は一歩も動けないまま、潤を見つめていた。

 いつかこんなふうに、誰かが迎えに来てくれることを待っていた。

 兄と交わったいくつもの夜に、それはシンデレラに憧れる子供みたいに、単純に。

 けれど実際こんなふうに手を引かれると、どうしていいのかがわからない。

 だって私はシンデレラではない。身体は汚いし、心も捻じ曲がっている。

 どう考えても、潤に手を引いてもらえるような立場にはいない。

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