マックの前で、10分間くらい潤を待った。それはもう、一生で一番長い10分間だった。

 制服姿で手ぶらの潤が駅の改札から出てくるのを見て、走り寄ると、彼は呆れたように小さく笑った。

 「寒くないの? 中で待ってればよかったのに。」

 そこでようやく私は、今日が薄曇りの冷え込む日で、自分の指先が凍りついていることに気がついた。

 「……忘れてた。今日は、寒かったのね。」

 途切れ途切れに言葉を紡ぐと、そう、寒いよ、と、潤が歌うように答えた。

 「早く中入ろう。荷物、全部教室に置いてきたから、美月ちゃんのおごりね。」

 うん、と辛うじて頷きながら、私は潤の後についてマックに入った。

 いつもなら、席取りは潤に任せて、注文をしにカウンターに並ぶのに、今日はそれができない 

 潤の背中にくっついて、空いている二人席に腰を下ろす。そうすると、もう、二度と腰を上げられそうになかった。

 潤は怪訝そうに一瞬だけ私を見た後、なににする? と訊いてくれた。

 コーヒー、と私が答えると、潤は悼ましそうに目を細めた。多分、私がもう立ち上がれないくらい、こてんぱんに打ちのめされていることを察したのだろう。優しいだけでなく、潤は勘だっていい。

 私はマネキンのそれみたいに重く感じられる右手を動かし、鞄から財布を取り出して潤に渡した。

 潤は、なにも言わずにカウンターに歩いていった。

 潤がいない間に、私は頭の中を整理しようとした。

 だって、このままでは、なにをどう言っていいのかわからないまま、初めて彼に会った日のように泣き出してしまう。それだけは避けたかった。最後に残った私の意地だ。

 潤は、5分もしないうちに、コーヒーとビッグマックのセットが乗ったトレイを持って、席に戻ってきた。

 私の頭の中はまだ整理されていないままで、慌てた私は涙を一滴落としてしまった。右の頬に、生温かい感触が伝う。

 泣くな、とも、泣け、とも、潤は言わなかった。ただ私の向かいに腰掛け、淡々とビッグマックの包装を解いて大きく一口噛みちぎった。

 その日常的な動作を見ていると、私の涙はすっと引いた。

 潤の唇が皮肉っぽく釣り上がり、言いたいことがあるなら言えばいいよ、と吐き出す。私がなにも言えないのを察した上での台詞だろう。

 私はぎこちない動作でトレイからコーヒーを取り、一口啜った。

 舌に残る苦味はしかし、ちっとも私を雄弁にはしてくれなかった。




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