6
兄が唇を離してくれない。
私も兄も、目を閉じたりはしないまま、じっとお互いの目を見つめながら、口づけを続けていた。
いつも、そうだった。目を閉じて口づけしたことなんかなかった。
今自分が口づけているのは、他でもなく兄妹だと、それをきつく頭に刻みつけるみたいに。
いっそ嗜虐的な口づけなのかもしれない。それは、自分自身に対して。
そのキスは罪だと、それを自分自身に見せつけるみたいに。
呼気さえ、唾液さえ、罪の味。
その甘美な味に、私はいつも酔っていた。
それは、今も変わらず……。
ようやく兄が唇を離してくれたとき、私はもう膝から崩れ落ちそうになっていた。
罪の味に酔って。
いつも、こうだった。はじめての口づけからずっと。
部屋まで送るよ、と、兄が言った。
ここまででいい、と、私は拒絶した。
今、兄を部屋に入れてはいけない。拒めなくなる。拒めず、兄を受け入れてしまう。心も、身体も。
「送るよ。」
「いい。」
「震えてるよ。」
「関係ないでしょ。」
「あるよ。」
「ないわ。」
「兄妹なんだから。」
兄妹なんだから?
その言葉に私が感じたのは、確かな怒りだった。
兄妹だからこそ、許されない道がある。
その道に一度足を踏み入れたのは確かだけれど、父を追い出し、母を壊したのも確かだけれど、なんとか元の真っ当な道に戻ってきたのではないのか。お互いを捨てて。
それなのに、たった一月でまた修羅の道に戻ろうと言うのか。
「兄妹だから、だめなんでしょう。」
怒りのあまり、声が掠れていた。
兄は静かに私を見下ろした。例のごとく、静かに微笑むような、密やかな眼差して。
「もう俺は、耐えられそうにないよ。美月がほしい。」
あまりにも単純なその言いように、私は思わず兄の腕の中に崩折れていきそうになった。
はじめて私を抱いたときも、兄は全く同じことを言った。
あのとき私は、泣きながら兄にしがみついた。
同じ家に住んでいていて、毎日顔を合わせている。そして、お互いに対する欲にも気がついている。
そんな相手と毎日、指先さえ触れずに暮らすのは、確かに耐えられなかった。
けれど、今は違う。
いま、私と兄は、違う家に暮らしている。顔を合わせなくても生活していける。その道を選んだのはお互いの同意があってだったはずだ。
「私は、ほしくないよ。」
嘘をついた。その自覚はあった。
それでもそうする以外、私になにができたというのだろうか。
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