第3話 緑白の恋

その後、親族一同で祖母の法要に向かった。

百箇日法要及び、納骨である。

私やほとんどの従姉弟はそこでようやく、祖母の遺骨を見ることとなった。


「そっか、本当に……」

私は遺骨のツボを見て、ようやく現実を思い知る。

「みんな来なかったもんなぁ」

一人だけ、言いつけを破って参列した従姉が言う。

他の従姉弟は従姉へと冷たい視線を投げかける。

『来るなと言われたから我慢したのに、一人だけ抜け駆けしたんだろう!』

と言う視線であるが、従姉は知らぬ顔なのか、気付かないのか……。

「お前だけ勝手についてきただけで、他のみんなは言いつけを守って来なかったんだぞ」

父が厳しい声でしっかりと注意する。

父の弟はバツが悪い顔をした。

「まあまあ義兄さん、うちの子も悪気があったわけじゃないし」

義妹の叔母はそう言って笑ってごまかそうとした。

「これ以上揉めるのはばあちゃんも嫌がるから」

父はそれでも厳しい声で無理に話を締めた。


祖父の墓石の前は、特殊な時だけ石屋さんが開けられるようになっている。

「では、おばあさまもこちらへ」

石屋さんがそこを開けてくれる。


「うわぁ……」

私は思わず声を上げる。

じわりじわりと涙が込み上げた。


そこには、緑がかった遺骨がある。

半分以上は既に自然へと帰っていたが、まだ緑化した遺骨として残っている。

そう、十数年前に先に入った、祖父の遺骨だ。


父の実家では、遺骨は骨壺から中身を出して埋葬するのである。

その方が自然に帰りやすいから、だそうだ。


その中へと、祖母の遺骨も入っていく。

白く、小さくて少ない遺骨だった。

96歳という大往生を遂げた、とても小柄な女性だったからそうなるのだろう。


他の従姉弟、一人の従姉甥、他の親族は誰一人として泣いてはいない。

一人だけ泣いていては、なんだか恥ずかしい。

私は涙を押し堪えた。


「おじいちゃん、ずっとおばあちゃんを待ってたんだね……。だからまだお骨も残っていてくれたんだろうね」

私は気恥ずかしくなって、そう言ってごまかす。

それを聞いていた父、母、伯父、伯母二人、従姉の何人かが頷いた。

「おじいちゃん、不器用だったけどおばあちゃんの事大好きだったからな」

父はしみじみと言う。

「ばあちゃんの骨は少ないから、多分あっという間に消えると思う。だから、じいさんは最後こそ一緒に、って思っていたのかもしれないな」

伯父がそう言う。


祖父の緑化した骨と、祖母の真っ白な遺骨。

きっと待ち合わせをしていたように私は感じた。

長い長い待ち合わせの末、ようやく二人は夫婦として再会できたことを願った。

空はそれを祝うように、澄み切って美しい青空だったことはよく覚えている。


車に戻ると、父は私にからかうように言った。

「泣いてたって良いのに。強情っぱり」

「……うっさい」

私はむすっとしてそう言い返す。

だが、父が気付いていたのは少し意外だった。


受け継いだ着物も、あの角帯と着て歩きたいな。

そうすれば、祖父母が一緒にいる気持ちになれそうだ。

改めてそう思うのだった。


私は、実家に帰って着物を風通しのいい場所で吊るしてナフタリンの臭いを落ち着かせてから、初めて着るのはどこにするか、コーディネートをどうするか……。

それを考えることが増えた。

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