第6話 魔剣アドルフス

 翌日。オレとマキナさんはいつも通りゴミの収集作業をしていた。集合住宅のゴミ捨て場で山積みされているゴミを、収集車に次々と入れていく。


 ここが終わったら次はおばあちゃん家だ。おばあちゃん、今度こそ分別して出しているかな。ん、なんだ?


 不快な破裂音がする。ゴミ袋の山の中に埋もれていたは、魔石が装填したままの剣だ。見覚えがあった。

 あんのクソ勇者。捨てていきやがった。

 安全装置セーフティが掛けてない。魔石が赤く光る。


「マキナさん!」


 オレの呼びかけより早く、マキナさんが背負っていた戦斧を魔石に振り下ろした。

 孵化が進んだ魔石が刀身で戦斧を受ける。オレとマキナさんは剣風で吹っ飛ばされた。


 魔石が四つ足の獣の姿に戻る。まるで刀身の角が生えたオオカミのようだった。

 オオカミが近くの魔法陣ネットを器用に退けて、魔石ゴミを食った。魔法陣ネットの作用で、触れた魔獣は痛みで動けなくなるはずなのに、耐えている。あいつ、Aランク以上の魔獣だ。


 額の魔石が更に赤く光った。刃の角に紫電をまとわせる。魔石を食って強化しやがった。


「退避勧告と魔石ゴミの破壊収集。急いで」

「魔石が孵化しました。離れてください」


 マキナさんがオオカミと交戦する。オレは大声で住民に伝えつつ、魔法陣ネットを退ける。周辺の魔石ゴミを手持ちの袋に回収していった。異変に気付いた住民は、オオカミの姿を見ると慌てて家の中に逃げ込んだ。


 孵化した魔石が、他の魔石を取り込むと更に力が増す。そうなると厄介だ。核がうまく割れていない魔石ゴミは、念入りにハンマーで潰した。やり方でヘタで汚液がかかる。でも気にしている場合じゃない。


 マキナさんが戦斧を振るう。オオカミは戦斧を角で受けて、電撃を放って反撃した。

 マキナさんが一撃で倒せないなんて。あいつ、昨日の勇者より強い。

 戦斧でオオカミを切りつけても、すぐに傷口は塞がった。額の核を潰さない限り、オオカミを倒せない。


「今日はなんだか賑やかねぇ」

 ホルダおばあちゃんが、軒先にゴミ袋を出した。魔法陣ネットを燃えるゴミを掛けて、魔石は地面に置いてる。逆だよおばあちゃん、逆。 しかも魔石ゴミ、核を割ってないじゃないのっ。


 オオカミがおばあちゃんに視線を向けた。ヤバい気付かれた。魔石を取り込むつもりだ。


「おばあちゃん逃げて!」

「はへぇ。なんですってぇ」

 ダメだ、おばあちゃん耳遠いんだった。

 

 オオカミがマキナさんを突き飛ばしておばあちゃんの方に向かった。オレも全力で走った。でもオオカミの方が早い。どうしたらアイツを止められる。

 弱いオレが行ってもムダ? いや、動きを止めるだけならやれる。


 地面に落ちていた魔法陣ネットを投げる。オオカミの前足に絡みつき、動きが鈍った。

 だが、刃の角の紫電までは止まらない。雷撃が飛んだ。

 誰かがおばあちゃんを抱き上げて、横に飛んだ。雷撃が空を切る。おばあちゃんは無事だった。


「あらぁ、お帰り」

「カイさんこれを」

 おばあちゃんを守ったのはエメットさんだった。魔石を拾ってオレに投げた。

 オオカミがオレを睨みつける。ターゲットは変わった。良し。良いのかこれ!?

 身体が震え出す。魔獣に完全にビビって膝から崩れ落ちそうになっていた。早く、魔石を壊さないと。


 オオカミの後方で、マキナさんが両手でバツを作っていた。え、壊すなってことですか? マキナさんが頷く。まっすぐな目でオレを見た。信じろってことですね。


 オレは魔石を持ったままハンマーを構える。オオカミは角の刃で、前足に絡みついた魔法陣ネットを切り裂いた。自由を得たオオカミがオレに襲い掛かる。

 マキナさんが戦斧を持ったまま身体ごと縦に回転。オオカミの背中を袈裟斬りにした。

 オオカミにとって完全な視覚外からの攻撃。悲鳴を上げながら傷口を塞ごうとするが、マキナさんの連撃がそれを許さない。


「カイ君。核をお願い」

「お、オレですか」

「君ならできる。何百、何千と練習していた君なら絶対、できる」

 マキナさんの言葉が、オレの震えを止めた。


 オレは全力でハンマーを降り下ろす。オオカミの額の核に亀裂が入り、砕ける。オオカミの姿が、剣と砕けた魔石に戻っていった。

 オレは力が抜けて尻もちをついた。マキナさんが手を差し伸べる。


「初討伐おめでとう。カイ君」


 マキナさんは耳を赤くしながら嬉しそうに笑った。



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