第5話 勇者の付き人の夢

 エメットさんは、店を出てもずっと謝っていた。


「頭をあげてください。悪いのはあの勇者たちですから」

 勇者に雑に扱われていた姿は見ていた。マキナさんとの食事がパーになって悲しいけど、この人に文句を言うのは酷というものだ。


「もう他の人に迷惑をかけるような行為は控えるよう、勇者様には伝えますので」

「また勇者のところに戻るんですか」

「はい。大切な人を守れるような勇者になりたくて、この道にいこうと思ったんです。今はまだの付き人ですけどね」

「おばあちゃんのところには戻らないんですか」

 

 エメットさんは唇を噛んだ。

「戻れるわけないですよ。勇者になるって出て行ったのに、どんな顔して会いに行けばいいんですか」

 エメットさんの表情は暗く、視線は地面に落ちていた。『勇者になりたい』という夢に圧し潰されそうに見えた。


「カイさんのお連れの方は、勇者にならないんですか? あの強さなら周辺の勇者の誰よりも強いと思うのですが」

「マキナさん、今の仕事の前はどこかのパーティに所属して剣聖けんせいって呼ばれていたらしいですけど、勇者はやらないと思います。

 オレ、一回聞いたことあるですよ。勇者をやらずになんでゴミ収集の仕事しているんですか、って」


 あのときも、照れながら言っていた。多分マキナさんは忘れていると思うけど、オレは覚えているあのひとことを伝えた。


『勇者じゃなくても、大切なモノは守れますから』


 エメットさんは、地面から視線をあげた。


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