第3話 魔石のある日常

 ふああああああ。生き返る。


 シャワーを浴びて全身の汚れを落としていく。蛇口を捻るだけでお湯のシャワーが出るなんて、魔法としか思えない。火の魔石と水の魔石が設置されているからなんだけど、今でも不思議に思う。


 オレの故郷じゃ、未だに村に一個しかない井戸で何度も何度も水を汲み、薪を使って火を起こさないと温かい湯なんて用意できない。


 便利な魔石は色々なところで使われている。会社のシャワー以外にも、遠いところにいる人とお喋りできる通話機、ゴミを圧縮して運ぶ収集車、勇者の武器にもだ。台所のコンロ、家の照明、水道などあげていればキリがない。

 あっちにも魔石、こっちにも魔石。魔石のおかげで便利な生活が成り立っている。


 昔、魔石なんて危険な代物は使用禁止だ! と言った役人は即辞任させられたらしい。生活水準を爆上げした魔石を、この街から取り上げるなんて不可能だ。


 シャワーのお湯がぬるくなってきた。水道管の根元にある赤い魔石の色が、鈍くくすんでいた。何度か点滅して、赤い魔石は黒く変色した。


 お湯を止めて一端シャワー室を出る。濡れた身体のまま新しい火の魔石を持ってきて、使い終わった魔石と交換した。湯気の出るシャワーが、オレの身体を再び温める。使い終わった魔石は、更衣室の隅にある魔法陣が記されたゴミ箱に入れた。

 

 魔石の回収はこれからも続く。

 ホルダおばあちゃんの屈託のない笑顔が、オレの背中に圧しかかった。




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