王姉殿下(その3)
「聞いた話では、私の身柄を狙う人造人間がいるという話だった。ギルダよ、お前がここにこうやって私の前にいるという事は、お前の他にも別の人造人間がいるという事なのか?」
その問いに、ギルダはコッパーグロウと久々に再開した折の経緯について、改めてこの場にてかいつまんで話すのだった。
「その、コッパーグロウという人造人間とは仲が良かったのか?」
「クロモリの元を離れて以来一度も相まみえた事はありませんでした。……しかし、我々人造人間はいったんは近衛の預かりとなっていたゆえに、戦場に駆り出されたとなればかつてのアルヴィン王子一派の一兵であった事は間違いないでしょう。まだいくさが終わっていないと思い込んでいるのであれば、姫殿下や現国王陛下の御為になるような良き働きをなそうとしているとは考えにくい」
「私がこの近隣にやってくると分かって探りを入れていたのであれば、狙いは私という事になるか」
ユーライカはそのように独りごちて、その場に居並ぶお付きの近衛騎士達をじろりと見やった。
かつて近衛師団は兄王子アルヴィン派として弟王子……つまりは現国王クラヴィスとは戦場での敵対相手だったわけだが、そもそもは王都を預かり王家を守るためにあるのが近衛騎士である。それだけに、師団の全てを逆賊として処分するわけにもいかなかった。そもそもが内戦下において敵対していた者を全て粛清などしては戦後の復興もままならぬからと、内戦が終わったのちも師団は上層部の顔ぶれを一新こそすれど組織としては存続しており、このたびの視察行にも護衛のために随伴していたのだった。だがその近衛師団が農民兵を逆賊として弾圧していたのも事実であるから、処分は虐殺など手ひどい作戦に関わった一部の者のみにとどまり、軍服を新しい意匠に改めるくらいの事しか組織の改革は進まなかったのである。仮にアルヴィン王太子派の残党がユーライカの命を狙っているとして、その矢面に立つのがそんな近衛騎士達という事になれば、護りを任せてよいかどうかは確かに不安はあった。
「……端的に言って、私は命を狙われているのか?」
「御身を害する事それ自体に、彼らの益があるとは考えにくい。となれば、人質に取って何かしらの交渉事に利用するのが狙いだとは思われます。いずれにせよ殿下の身柄を強引に取り押さえんと企てている輩には間違いないかと」
「この者達で防ぎきれるかな。……そうなればギルダ、やはりお前がいてくれなければ困る」
「そのようにおっしゃっていただけるのは光栄ですが、私の方は足がこのような具合です。相手も人造人間という事になると、果たしてまともに渡り合えるかどうかも分からない」
「それでもよい。私と共に来るのだ」
「役に立たないだけならまだしも、足手まといになって御身を危険に晒すような事があってはいけない」
なおも固辞するギルダをまっすぐに見やったまま、ユーライカはすっと深呼吸をして声をあげる。
「シャナン」
「はい」
「そなたは疎ましく思うであろうが、この際この場にてはっきりと宣言する。私はこの機に、ギルダを王都に連れて帰る」
「……やはり、そうおっしゃいますか」
シャナン・ラナンはその場に立ち尽くしたまま、深々とため息をついた。
「足手まといになるとかならぬとか、そのようなことは些事である。ギルダが生きてこの地にいたという事であれば、私はお前を連れ帰らぬわけにはいかぬ」
「それは……」
そのまま、ギルダは言い淀んでしまった。
そこまでのやり取りを傍らで見守っていたハイネマンだったが、よく見ればシャナン・ラナンがこちらをじっと見ている事に気づいた。まるで何か助けを求めるというか、何かを促すかのように、彼に何かしら目配せをしているように思えた。
「……おそれながら、一言申し上げたき儀がございます」
それが求められている事なのかどうか確証は持てなかったが、ハイネマンは平伏したまま口を挟んだ。
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