第16話 追跡・新幹線編

日本国 東京都 港区

品川駅 東海道新幹線ホーム

17時50分頃


小林部長はグリーン車乗車口に立っていた。

ダーマーに渡された黒い鞄と注射器を持っていた。

これから起こることには賛同していなかったが、ワトソン重工の会長の命令は絶対だった。


燃料系の販売店を経営する家庭の長男として生まれた小林は小中高に壮絶ないじめにあったが、

先代会長が彼の通っていた大阪の市立高を訪れた際、才能があると見いだされ、

返済不要の奨学金を得て、関西大学へ入学した。

小林は入試を突破できると思っていなかったが、気付いたら合格していた。

大学卒業後とともにワトソン重工に就職し、日本支社の幹部まで上り詰めた。


彼の特殊な性癖は粛清された宮崎専務同様、おぞましいものだった。

いじめの主犯格たちの幼い娘らを殺害し、会社が証拠を綺麗に消していた。

1992年以後、元同級生の娘たちを含めて、計105人の女児を葬ってきた恐るべき連続殺人鬼だった。


表向きでは部長職に就き、大学の同級生と結婚し、2人の子ども(1男、1女)に恵まれ、世間体では円満家庭を演じていた。

小林は家族に対して、愛情をまったく持っていなかった。

彼にとって、家族はカムフラージュであり、本性を偽らなければならない苦痛の場所だった。


広島行きののぞみ99号がホームに入り、小林は乗った。

同じグリーン車に彼を追跡していた斎藤一警視も乗車した。


日中動いていた斎藤が小林の2つ後ろ斜めの列の席に座った。

転化人(インヒューマン)専用の紫外線特別対策クリームを塗ったとはいえ、疲れと消耗を感じていた。

17時59分に新幹線は品川駅を出発した。

時刻表通りに出発したのは奇跡に近かった。渋谷駅前でジャックが起こした大量殺りく、それに伴った交通の乱れなどを考えれば。


斎藤は静かに気配を消して、小林を見ていた。

アテンダントがおしぼりをくばり、小林はリラックスしているように見えた。


森警視監が先回りし、のぞみ99号は新横浜駅を出発した後、2人がいるグリーン車を貸し切り状態にしてくれた。そこで初めて小林は異変に気付いた。

ゆっくり後ろを振り向き、斜め後ろに座っている斎藤を見た。


「信長の手先か?」


怒りを露わにした顔で斎藤に聞いた。


「ああ。貴様を止めに来た。」


「吸血鬼か?」


「そうだ。観念しろ、殺人鬼め。」


小林が席を立ち、斎藤を見ながら笑いだした。


「観念?まさか、吸血鬼ごときで私を止められるとでも思ったのか?」


「能力(スキル)持ちであるとわかっているよ。そして止めるってことは貴様を切り殺すということだ。」


「私を切り殺すか?寝言は寝てからいえ、吸血鬼やろう。」


小林がゆっくりとつぶやいた


「【縄(ロープ)】発動」


手の全指が勢い良く伸び出して、本当のロープのように斎藤の体に絡み、彼を拘束した。


「鋼鉄のように頑丈だよ、吸血鬼やろう。絶対にほどけない。」


斎藤は落ち着いていた。人間(ウォーム)だったごろ、激動の時代を生きたので

小林の能力(スキル)は大したことないと思った。


「この能力(スキル)で女児を拘束し、殺したのか?」


「はい。口も塞ぎ、たっぷり遊んだよ。」


「なるほど。覚悟は出来ているんだろうな。」


「ほざくなよ、吸血鬼やろう、絞めが段々ときつくなるよ。最後にはお前がバラバラになるよ。」


斎藤が深呼吸し、体に力を入れ、一気に筋力を増幅させた。

しかし、鋼鉄のような指のはずが、簡単にさく裂し、小林は悲鳴を上げた。


「こちらの番だ、ゴミやろう。」


指が折られて、先端が切れて、酷いことになった小林の手を斎藤は日本刀で素早く切り落とした。


小林が激痛で更に悲鳴を上げた。


「貴様が殺した女児達も苦しくて泣いたはず。貴様が彼女らの将来を奪った。貴様にはここで死んでもらう。」


「冗談じゃない!」


痛みで泣きながら小林が言い出した。

彼は黒い鞄と毒入り注射器を思い出して、掴もうとしたが、手はもうなかった。


斎藤は新幹線内で系統の能力(スキル)、【業火(ヘルファイヤー)】を使用できないとわかっていたので切り味抜群の自分の日本刀で女児の連続殺人鬼をさばくことにした。


「先の勢い良さはどうした?ゴミやろう。」


「許してください、俺、死にたくない。家族も子どもいるよ。」


小林は泣きながら許しを請いだ。


「家族?冷酷な殺人鬼のお前にとって、ただの飾りだっただろう。」


「反省してる、許しください。法の下で裁いてください。」


斎藤はこの最後の言葉を聞いて、呆れた。


「法の下で裁きを受けたい?貴様が?」


「あなた様は警官でしょう?私は手を失った人間(ウォーム)だ。治療と法の裁きを正式に請求する。法治国家である日本国でそれは保証されるはず。」


「貴様に一つだけ教えよう、冥途の土産だ。私の名前は斎藤一、元新選組三番隊組長で悪を見逃すほど寛大ではない。」


小林が今まで女児に与えてきた死への恐怖を初めて自分の身に痛烈に感じた。


「許してください!嫌だ!死にたくない!」


尿を漏らしながら慈悲を求めた。

斎藤はゆっくりと構えた後小林に向けて、静かに言った。


「悪・斬・滅」


数秒のうち、小林の体を数百回切り、ミンチ肉に変えた。


小林を処刑した後、スマートフォンを取り出して、長谷川に電話した。


「小林を始末した。鞄と注射器を確保。至急東京に戻る手段を願います。」


「わかった。新幹線は静岡駅に臨時停車する。駿府城公園へ急行せよ。」


「了解。」


20分後、のぞみ99号が臨時停車した静岡駅で斎藤が下りた。

待機していた特殊掃除チームがすぐに乗り、小林の残骸を素早く片付けた。

グリーン車は閉鎖され、乗車禁止となったが、斎藤が下りた後、8分の遅れで運行再開した。

小林の残骸はすぐに装甲車両に乗せられ、焼却炉へ搬送され、徹底的に燃やされた。


斎藤は急いで駿府城公園へ行き、急遽ヘリポート用となった児童広場で

多用途ヘリコプター UH-1Hに乗り、東京へ戻った。





カリブ海・サン・モニーク島

2025年3月某日 夜23時頃


マクシミリアン伯爵は政府宮殿の専用実務室内の自分の椅子に座っていた。

大きなドアがノックされた。


「我が主(マスター)、戦闘員が到着しました。」


ノックしたのは彼の眷族で執事のサメディ男爵だった。


「入れ。」


マクシミリアンは声(テレパス)で返答した。


サメディ男爵を含めて4人が部屋に入った。

すぐに全員が跪いて、頭を下げた。

1人目は見た目は40代前半のごつい黒人男性。

2人目は東洋人と白人の混血男性で見た目も同じく40代の男性。彼には手がなく、重い金属の義手をぶら下げていた。

3人目は帽子をかぶった見た目40代後半の黒人男性で右手も義手だった。


「カナンガ博士、ノオ博士、ティー・ヒーよ。お前たち3人に任務を与えよ。」


マクシミリアンは声(テレパス)で話した。


「我が主(マスター)、いつでも命じてくださいませ。」


3人は同時に答えた。


「今すぐ合衆国へ飛べ、首都にいるアーカード卿の妻、ミレンを殺せ。」


マクシミリアンは声(テレパス)で命じた。


「仰せの通り、我が主(マスター)。」


「我が友、ジル・ド・レ卿の眷族、レジナルド・フォーチュン医師も合衆国に向かっている。首都で合流せよ。」


「仰せの通り、我が主(マスター)。」


3人が返答した後、サメディ男爵と共に部屋を後にした。


マクシミリアンは思った、残りは合衆国南部にいるもう1人の裏切り者のヴァレック卿が北部メイネ州の主(マスター)、カート・バーローへの円卓同盟の加入を説得するのみとなった。

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