第15話 時間稼ぎ
イタリア共和国、ロンバルディア州、州都・ミラノ市付近
2025年3月某日 未明4時40分頃
ブラウン神父はゆっくりと立った。
地面には姪だったベティーの灰とインプラントが残っていた。
冷たい北風が灰を舞い上がらせ、連れ去った。
神父は静かに泣いていた。
彩美が近づいて、ブラウンに声をかけた。
「残念です。ジル・ド・レの呪縛から逃げるのは滅ぼすしか方法がない。」
「ああ。彼の眷族になったと聞いた時、覚悟したよ。ベティーは安らぎを得て良かった。」
涙を拭い、元気のない笑顔になった。
「こんな時ですみませんが、ミラノへ行きましょう。ダ・ヴィンチの遺産をヴァチカンに移送しなければならない。」
申し訳なさそうに彩美がブラウン神父に話した。
「そうですね彩美さん。行きましょう。」
「我が主(マスター)も同行する。」
「ノスフェラトゥ卿が来てるのですね。彼の気配を遠くから感じた。」
その時ノスフェラトゥ卿が眷族で護衛のコンラートと共に現れた。。
「ブラウン神父、久方ぶりです。姪どののことはまことに残念。」
ノスフェラトゥ卿は落ち着いたトーンの声で話した。
「お久しぶりです、ノスフェラトゥ卿。姪は今、呪縛から解放されて、休んでいるよ。心づかい、感謝する。」
「敵はなく、あなたが味方でとても心が強いです、ブラウン神父。」
ノスフェラトゥ卿が安堵した表情でブラウン神父に伝えた。
「今回は巨大で悪意の塊のような敵です。力を合わせなければ、闇の評議会と教会は倒されるでしょう。」
ブラウン神父はノスフェラトゥ卿に伝えた。
「ああ。今回の敵は今までの脅威は子どもの遊びに思えるほど。」
ノスフェラトゥ卿が心配そうに答えた。
「そうですね。ノスフェラトゥ卿、気づきましたか?」
神父が問いかけた。
「気付いた、ずっと前から血の匂いが。彩美、あぶり出して来い。」
「はい、我が主(マスター)。」
彩美が【瞬間移動(ワープ)】で茂みへ行き、畠田の後ろに現れて、捕まえた。
また同じく能力(スキル)を使用し、捕まえた男を皆の前に連れてきた。
「貴様は何者だ?」
ノスフェラトゥ卿が畠田に聞いた。
「すみません、道に迷ったら、あなたたちが戦っているところに遭遇したバックパッカーです。」
下手な嘘で畠田が状況をごまかそうとした。
「その割には荷物がないですね。」
ブラウン神父が指摘した。
「血の匂いも鼻に付きますね。」
彩美がロングソードの刃を畠田の首に当てた。
「人間(ウォーム)のようですが、オーラが黒い。」
ノスフェラトゥ卿が皆に伝えた。
「我が主(マスター)、この近くの民家で3つの遺体を発見しました。この人間(ウォーム)が殺したようです。」
【瞬間移動(ワープ)】で現れたコンラートが報告した。
「では君は何者か教えてもらおうか。」
ブラウン神父が鋭い眼差しで畠田に質問した。
「私が畠田弘義です。ノスフェラトゥ卿を殺す使命を持つ者です。」
畠田が大きなジャンプをしながら、大きな2つのサバイバルナイフを抜いた。
その時、ブラウン神父も素早くジャンプし彼の前に飛び、コンラートと彩美が【瞬間移動(ワープ)】で彼の両脇に現れた。
ブラウン神父は畠田の顎を右足で思い切り蹴った、畠田の体が後ろへ飛ばされたと同時に
コンラートと彩美が畠田の胸にダブルかかと落としを決めた。畠田の体が地面に落ち、複数の骨が一気に折れた音が響いた。
「弱いな。」
彩美は思わずつぶやいた。
地面に落ちた畠田の体がくねり曲がっているさまになっていた。
「生の人間(ウォーム)が勝てるわけないのに。」
ブラウン神父が呆れて一言つぶやいた。
「この人間(ウォーム)は円卓同盟の差し金とは思えん。弱すぎる。」
ノスフェラトゥ卿も呆れてつぶやき、畠田の落ちた場所を見た。
地面に落ちていたくねり曲がっていた畠田の体が素早く治癒再生し始めた。
数秒で元通りになり、立ち上がった。
「こやつ、能力(スキル)持ちの人間(ウォーム)か。」
ノスフェラトゥ卿が畠田を見て皆に話した。
気持ち悪い笑顔を浮かべながら畠田がノスフェラトゥ卿を見た。
「私は不死身ですよ、あなたたち吸血鬼ごときじゃ死なない。」
「ならば、私が相手になってやろう、不死身な人間(ウォーム)よ。」
ノスフェラトゥ卿がボクシングの構えをしながら畠田に告げた。
「我が主(マスター)、やめてください。」
彩美とコンラートが同時に話した。
「ノスフェラトゥ卿、おやめください。」
ブラウン神父も言いかけた。
「よい、よい、こやつを私が葬る。」
畠田がサバイバルナイフを両手に持って、構えたと思ったら、一気にノスフェラトゥ卿目掛けに
走り出した。
本人は素早く動いているつもりだったが、超越した存在の4名にはスローモーションで動いているように見えた。
畠田がまっすぐノスフェラトゥ卿に行くと思われていたが、突然右に曲がり、彩美のところへ全速力で走った。
彼の速度が非常に遅かったので、彩美が彼の前に現れ、パンチの連打を打ち、血、歯など飛び散って、回し蹴りで思い切り飛ばした後、畠田をくねり曲がっているものに変えた。
「完全に舐めていますね。」
軽蔑な眼差しで彩美がつぶやいた。
その時、畠田のワイシャツのすべてのボタンが突然光始めた、彩美はそれに気づいて、【瞬間移動(ワープ)】を使う前に叫んだ。
「こいつが爆弾だ!」
全員間一髪のところで距離を取り、焼夷弾と化した畠田の体から逃れた。
太陽のごとく光った畠田の体が灰も残らないほど焼き尽くされた。
「結局何者だったのでしょうか、あの人間(ウォーム)。」
コンラートがノスフェラトゥ卿に聞いた。
「円卓同盟の差し金だろうな。我々を遅らせるための。」
ノスフェラトゥ卿が答えた。
「夜明けも近いのでミラノへ行きましょう。ダ・ヴィンチの遺産を移送しなければ。」
ブラウン神父が話した途端に目が開き、唖然とした。
「まさか。そんなまさか。」
ブラウン神父がつぶやいた。全員彼の考えていることをすぐに悟った。
「ダ・ヴィンチの遺産が狙いだった!!」
4人同時に言いだした。
同時刻
ミラノ市・ドゥオーモの地下
小島純次は簡単に遺産を警護していた十字架の騎士団の3人の騎士を始末した。
守護神鬼族(ガーゴイル)はとても強い種族と聞いたが、20秒足らずで滅ぼせたので
むしろ信長公のところの黒岩弥生の方が強いと思った。
裏切り者のジル・ド・レ卿の護衛眷族はともかく、
あのクズ人間(ウォーム)の畠田はただの時間稼ぎ道具だった。
市の中心部から10キロ離れたところにいる畠田がちょうどノスフェラトゥ卿と戦おうとしていた。
小島が無音のドローンで彼らのいる場所から2キロメートル離れたところで、
望遠レンズを使って、スマートフォン画面で見ながら戦いを監視していた。
途中で畠田がノスフェラトゥ卿の護衛の彩美・ホフマンへ攻撃対象変更したところ、
やはりこの手の異常者は当てにならないと思ったので小島は何の躊躇もなく、
スマートフォン画面の焼夷弾ボタンを押した。
ダ・ヴィンチの遺産が入っている小さな四角い箱を手に、ドゥオーモを後にした。
「闇の評議会とヴァチカン教会勢力、チェックメイト。」
蝋人形のような嘘の笑顔でつぶやいた後、黒い装甲リムジンに乗り、空港へ向かった。
ミラノ市付近
同日 午前5時10分頃
焼夷弾爆発の中心地から少し離れたところで奇跡的に残った血粒と数個の歯から畠田がゆっくりと再生し始めた。
「小島め、道具に使いやがって。彩美ちゃんと遊べなかったじゃないか。」
相変わらず気持ち悪いことを考えながら人体再生の完了を待つことにした。
闇夜の追撃 マックス一郎 @maxichirojp715
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