第12話 指示

日本国 東京都 港区

新橋駅付近

ワトソン重工関連企業

ワトソン・アドバンス(株)自社ビル

地下特別研究室

2025年3月某日 午後17時頃


ジェフリー・ダーマー博士が慌ただしく研究室に入った。

ここの企業はワトソン重工のダミー企業の一つで表向きはソフト開発などを行っていた。

実際は違法な研究と実験をする場所だった。


ワトソン重工の日本支社と地下トンネルで繋がるこの施設には即席・転化人(インヒューマン)化

する血清が製造されていた。

製造に飽き足らず、血清をエアロゾル状態でも効果が発揮できるように改良されていた。


即席血清の欠点は短期間しか持たない、効果が切れると使用者が滅びるなど多くの課題が残っていたものの、会長の指示でエアロゾル状態でできるだけ多くの一般人を文字通り感染させ、転化人(インヒューマン)、喰種(グール)や屍(アンデッド)を瞬時に作り上げることが必要だった。


血清を時限爆弾のように設定し、東京以外の国内大都市で爆破させ、数千万の人間(ウォーム)を瞬時に転化することで、この国を崩壊させる狙いだった。


ダーマー博士は心から賛同できず、家族が巻き添えになるのを避けたかった。

この研究室に向かう途中、家に電話し、妻と子ども3人にすぐ出国するよう伝えた。

妻は相変わらず、反論することなく、すぐに準備すると答えた。

家族は19時羽田空港発の便で合衆国へ向かうことになっていたので少し安心した。

ダーマーは思った、妻はきっとわかっていた、もう二度と会うことはないことを。


それからスマートフォンを取り出して、電話した。


「松本常務、アドバンス地下研究所に今すぐ集まるよう、役員に伝えてくれ。」


弱視で大きな顎ひげの常務に電話し、命令した。


「承知しました、社長。すぐに向かいます。」


20分後に全員地下研究所に集まった。


「全員集まりました。」


常務が社長に報告した。


「それではここにある人数分の鞄を持って、名古屋、大阪、広島、福岡、仙台、札幌の営業所へ行ってもらいたい。」


「承知しました。」


全員一斉に答えた。


「松本常務は仙台、宅間本部長は大阪、小林部長は名古屋、関部長は広島、山地部長は福岡、加藤部長は札幌へ今すぐ発ってくれ。着いたら必ず繁華街へ行き、鞄を持ったまま、23時になるのを待ってほしい。」


「我々はどうなりますか?」


下級武士の子孫である宅間本部長が質問した。


「言わなくても、分かるでしょうが、本部長。」


眼鏡で汗かきの肥満体である小林部長が話した。


「ついに来たか。匿ってもらった恩を返す時がな。」


いつも怒った顔をしている関部長がため息を吐きながら話した。


「そうですね。」


秀才のインテリ外見をしている加藤部長がつぶやいた。


「では。皆さんと働けて楽しかった。」


細身の山地部長が他の幹部に向けて話した。


「ところで宮崎専務はどこへ行ったのですか?」


松本常務がダーマー博士に質問した。


「失敗したので会長の命令で粛清された。私の目の前で。」


ダーマー博士が恐怖の浮かんだ顔で答えた。


「社長はどうなります?」


宅間本部長がダーマーに質問した。


「家族の無事と引き換えに私は自決せねばならない。」


「そうですか。残念です。」


松本常務が弱くつぶやいた。


「君たちは即席転化しない。毒物注射を渡します。23時少し前に必ず打ってくれ。」


「承知しました。」


全員は一斉に答えた。


「普通の飛行機にはこれを持って乗れないのでプライベートジェットを用意した。広島、福岡と札幌へすぐに行ける。他のメンバーは新幹線で行ってくれ。」


ダーマーは役員に伝えた。


彼らは注射器と鞄を取り、研究室から出て行った。

全員、会長と先代会長がスカウトした人材だった。皆危険な裏の顔と数え切れない数の犠牲者を作った者たちだった。


毒ガスで人間(ウォーム)を殺す者、子どもを刺し殺す者、少女を窒息死させる者、暴力と快楽のために人間(ウォーム)を殺す者、仲良し姉妹を狙って同時に殺す者、イライラ解消のため無差別に人間(ウォーム)を殺す者。彼らは全員、人間(ウォーム)にして、捕食者(プレデター)だった。


役員が退室した後、ダーマーは椅子に座って、毒物注射を打った。

意識が薄れていく中、家族のことよりも自分が殺した犠牲者の人数を一通り思い出した。

合計105名だった。


ダーマーは寂しそうな笑顔を浮かんだまま、死亡した。



ワトソン・アドバンス自社ビル前

同日 17時30分頃


長谷川平蔵警視が監視用トラックの中でモニター画面を見ていた。

主(マスター)の織田信長公より1795年に転化したエリート特別捜査官だった。

上官となった若い中山新一と上手くやっており、新人者(ニューボーン)と長寿者(エルダー)の部下たちにも慕われていた。


「動くぞ。」


彼のチームメンバーは全員立ち上がった。


「斎藤警視、小林を追いかけて、どこへ行くのか確かめてから捕まえろ。あの連中が持っている鞄は嫌な予感しかしない。」


「はい。承知しました。あいつが裏で行った犯罪の証拠が出てきたのでそのまま切っていいか?」


鋭い目をした長寿者(エルダー)が聞いてきた。

彼は元新選組の組長で凄腕の剣客で織田信長公により転化人(インヒューマン)となった男だった。


「切っていい。容赦するな。」


「しないさ、女児に手をかけるゴミを切り捨てるのみ。」


斎藤一警部が冷たく言い放った。


「明智警部、関を追いかけろ。」


「はい。必ず捕まえます。」


明智警部補は新人者(ニューボーン)で元は素人探偵だったが、森成利により転化人(インヒューマン)となり、警察官となった。


「金田一警部、山地は任せた。」


「はい。すぐに追いかけます。」


明智警部補同様の探偵で森警視監により同じく転化人(インヒューマン)となった若い小柄な男性が答えた。


「銭形警部補、加藤は任せた。」


「はい。承知しました。」


この若い警部補の新人者(ニューボーン)は長谷川自身がスカウトした豪快な男性だった。彼の転化も長谷川によるものだった。


「雷電警視、宅間をお願いしていいか。」


「もちろん。あの手の輩は必ず仕留めるよ。」


長谷川同様、江戸時代に織田信長公の手により転化人(インヒューマン)になった元力士で大男の警視が真剣な声で返事した。


「それでは、私は松本を追う。連中は人間(ウォーム)だが、油断するな、抵抗されれば、容赦なく切れ。ワトソン重工の役員は全員冷酷な殺人者だと思え。」


長谷川が皆に伝えた。


「支社長のダーマーは?」


雷電警視が質問したと同時に長谷川がモニター画面を見るように手で合図した。


火傷から完全回復した中山新一警視がワトソン重工のダミー企業ビルに入って行くのが映っていた。




同時刻

ワトソン・アドバンス、ワトソン重工のダミー企業ビル地下


ダーマーは覚醒した。

ノートルダム会長は彼らに嘘をついた。

毒物注射ではなく、試験血清の一種だった。


ダーマーは即席の新種の転化人(インヒューマン)となった。

口から常に4本の触手(テンタクル)牙(ファング)を出している獣のような外見と人間(ウォーム)の意識を持っていた。

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