第11話 神父

イタリア共和国、ロンバルディア州、州都・ミラノ市付近

2025年3月某日 未明4時15分頃


ブラウン神父は車を飛ばしていた。

数時間前にラザロ枢機卿から命令を受け、ミラノ市へ向かっていた。

鉄道なら3時間で行ける距離だが、鉄道が動いていない今の時間帯では車が

唯一の移動手段だった。


今回の目的はダ・ヴィンチの遺産の確保及び移送だった。

ミラノのドゥオーモに隠されていた遺産を大至急バチカン市国へ移送し、円卓同盟の魔の手から守らなければならない。


ダ・ヴィンチの遺産は教会の対超自然的な存在の最終兵器であり、諸刃の剣でもあった。それを扱える守護神鬼族(ガーゴイル)は片手で数えるのみで、そのうちの1人である現在イタリアにいたブラウン神父が選ばれた。


「人使い荒いな、ラザロ枢機卿。」


ブラウン神父は運転しながらつぶやいた。


春先とはいえ、夜明けまでまだ時間がかかり、ライトで照らされた道はすごく暗かった。猛スピードで道を走っていた神父の車の前に2つの影が立っていた。


ブラウン神父がブレーキを踏んで、ギリギリのところで車は止まった。

ライトで照らされた影がはっきり見えた。ブラウン神父は彼らをよく知っていた。


1人はレジナルド・フォーチュンという医師でもう1人はエリザベス・フェイン(ベティー)という女性でブラウン神父の姪だった。


フォーチュンは探偵でライバルだった。1920年代に数回会ったが、当の昔に亡くなったと思った。

ベティーは確かに1930年代に若くして亡くなったはずとブラウンは思い出した。


「伯父さん、元気にしていますか?」


色白で冷たい目をしていた姪がブラウン神父に声をかけた。


「何者だ?ベティーはずっと前に亡くなっているぞ。」


「私だよ、伯父さん。あなたに会いに来たよ。」


彼女は人間味のない笑顔を浮かべた。その口から長く伸びていた犬歯が見えた。


「ブラウン神父、お久しぶりですね。あなたと私は元同業者で正直、あなたの存在が邪魔でしたのでここで決着付けに来たよ。」


この童顔男も冷たい笑顔を浮かべ、犬歯でブラウンを威嚇した。


「転化したのか?」


ブラウンは車から下りて、声をかけた。


「はい、伯父さん、我が主(マスター)、ジル・ド・レ卿は私を眷族にしてくれた。」


嬉しそうな声でベティーは答えた。


「同じくです。ブラウン神父。」


肥満体の童顔男は付け加えた。


ブラウン神父はラザロ枢機卿から闇の評議会内で円卓同盟に通じている主(マスター)がいると聞いた。そのうちの1人はフランスにいるジル・ド・レ卿だった。


2人は銀でコーティングされたロングソードを抜き、彼の前に立った。


「それでは滅ぼされる前に遺産の情報を渡してほしい。」


童顔男は笑顔で話した。


「断る。闇の評議会を裏切ったお前たちの主(マスター)には絶対に渡さない。」


「相変わらず頑固者だね、伯父さん。」


「情報がほしいのなら、私から奪えばいい。」


ブラウン神父はこうもり傘の心に隠れていた銀でコーティングされた刃を抜いた。


「元々奪うつもりでしたので、覚悟してもらおう、ブラウン神父。」


フォーチュンはロングソードを大きく振り下ろし、ブラウン神父は刃で止めた。


「私もいるよ、伯父さん。お願い、情報を渡して、そして死んでね。」


ベティーはまっすぐロングソードで突撃してきた。


ブラウンは後ろへ飛んで、距離を稼いだ。


「ダ・ヴィンチの遺産は教会の手に余る、我が主(マスター)及び新しく世界を支配する円卓同盟の方々が使った方が良い。」


フォーチュンは憎たらしい笑顔で話した。


「ダ・ヴィンチの遺産は渡さない。」


ブラウンは大きく口を開けて、鋭い歯を見せた。


「私、守護神鬼族(ガーゴイル)と戦ってみたかったの。」


ベティーは嬉しそうに話した。


彼らはブラウンが教会の凄腕エージェントであることを知らないようだった。

ブラウンは彼らの前から消え、童顔男の前に現れ、刃を振り下ろした。


フォーチュンは左腕を上げて、刃を二の腕で止めた。

ブラウンは感触で生身の腕ではないことに気づいた。


「これは?」


「驚きましたか?実は3年前、ワトソン重工の研究所で手術を受けて、体の大部分が機械化(サイボーグ)しているよ、ブラウン神父。」


童顔男は得意げに話した。


「私もよ、伯父さん。」


ベティーは嬉しそうに付け加えた。


ブラウン神父は驚いた。ここまでの準備には数十年かかったはず。それを闇の評議会も教会も気付くことなく行ったあの円卓同盟の力が恐ろしかった。


「ダ・ヴィンチの遺産を渡してもらおう。抵抗したら滅ぼす、抵抗しなくても滅ぼすけどね。」


フォーチュンは相変わらず人間味のない笑顔で神父に伝えた。


「伯父さんは凄腕のエージェントでしょう?伯父さんを滅ぼしたら、教会にとってすごい痛手じゃない?」


「そうですね、ベティーさん、ブラウン神父を滅ぼそう。」


「それにしても相変わらずダサい外見ね、伯父さん。」


ベティーはロングソードを構えながら言った。


「背が低いあなたには私が引導を渡してやるよ。」


フォーチュンも構えながら神父に向けて言い放った。


その時神父の後ろから大きくジャンプし、前に立った一つの影が現れた。

黒い髪のアスリートのようなしなやかな体をした女性だった。


「レジナルド・フォーチュン医師、我が主(マスター)、ノスフェラトゥ卿の命により、私はあなたを滅ぼす。」


「ノスフェラトゥ卿?人間(ウォーム)に媚びる主(マスター)がのこのこ出る幕じゃないよ。」


フォーチュンはイライラした表情で言いだした。


「私はノスフェラトゥ卿の眷族で護衛の彩美・ホフマン。冥途の土産に私の名を聞いておけ。」


「ノスフェラトゥ卿の眷族か?」


ブラウン神父は問いかけた。


「はい。助太刀に来ました。あなた方教会が守っている遺産の移送の手伝いをします。」


「わかった。恩に着る。」


神父は彩美に伝えた。


「レジナルドがあの女とやるのなら、私は伯父さんとやるよ。」


ベティーはブラウンに対して怒りの籠った声で話した。


4人は凄い速さで戦い始めた。




ノスフェラトゥ卿は100メーター離れたところで戦いを見ていた。


「コンラート、周りを調べるように。敵がまだ潜んでいるかも知れない。」


声(テレパス)で忠実な眷族に命じた。


「承知いたしました、我が主(マスター)。」



彼らの更に50メーター離れた民家の窓から畠田が双眼鏡で覗いていた。


「あれがノスフェラトゥか。」


窓を閉めて、首が切られた中年夫婦の遺体をまたいで、ベットで縛られている

裸の20歳ぐらいの女性のところへ行った。


「もう一回遊ぶよ。」


それから女性を犯した後、首を切って、殺した。

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