第13話 対決

イタリア共和国、ロンバルディア州、州都・ミラノ市付近

2025年3月某日 未明4時25分頃


ブラウン神父はベティーと戦っていた。

死んだはずの唯一の家族が吸血鬼となって、自分を襲うことになるとは夢にも思わなかった。

更に驚いたことに戦闘慣れしていた。


彼女のロングソードが容赦なく仕込み傘の刃と激しくぶつかり合う。


「驚いたでしょう、伯父さん。私は戦闘員だよ。」


「ああ、恐ろしく戦闘慣れしていると見たよ。」


「はい、私が主(マスター)の護衛隊の1人だよ。」


ベティーは恐ろしく、爬虫類のような冷たい笑顔で話していた。

この戦いではブラウン神父は押され気味だった。


「何で本気出さないの、伯父さん?」


「私は本気さ、ベティー。」


「嘘でしょう。その程度で教会のエージェントやってられない。」


「私は常に本気さ。」


「本気なら教会の守護神鬼族(ガーゴイル)は大したことないじゃない。」


ブラウン神父は力を抑えていた、何故自分の姪が転化人(インヒューマン)となったのは知りたかった。


「聞きたいでしょう、私が何故転化したのかをね。」


「知りたいさ、教えてくれるか、ベティー?」


「素直に聞けばいいじゃない。冥途の土産として教えてあげる、伯父さん。」


ベティーの剣さばきが一流で、その執拗さも異常だった。


「じゃ、頼むよ、経緯を教えてくれ、ベティー。」


「お母さんが死んで、伯父さんは世界中を飛び回り、私は常に家で1人だったの。唯一の家族であるあなたがいつも留守だし、天涯孤独になった気分だった。その時、我が主(マスター)は私を求めて、探しに来たよ。」


「いつだ、それは?」


「1936年12月末だよ。私は主(マスター)を受け入れ、ご褒美として眷族となった。」


ベティーの攻撃が更に激しさを増した。


「伯父さんは私を1人にしたのよ。私の気持ちも考えずに。」


「すまなかったベティー、本当にすまなかった。」


「謝っても遅いのよ、貴様が私を捨てたよ。だから私が貴様を滅ぼすよ、伯父さん。」


ベティーの攻撃が止んだ。本人はもう一度ロングソードを構えながら唱えた。


「【鉄(アイアン)の貴婦人(メイデン)】発動。」


ブラウン神父の周りに影が突然立ち上がり、その中に彼を包もうとしたが、一足早く、間一髪で

立体化した影から逃げた。


「これが君の能力(スキル)か?」


「逃げるなよ、伯父さん。穴だらけにしてあげるよ。これが我が主(マスター)の系統・能力(スキル)だよ。」


ブラウン神父は敵対勢力の戦闘員となった姪と本気で戦わなければならないことを認めざるをえなかった。


「今まですまなかった。本気で相手になるよ、ベティー。」


神父は刃を構えた。


「【変化(チェンジ)】発動。」


神父の体の筋肉が大きくなり、キャソックを破って、背中から翼が生えてきた。顔が獣のようになり、口から鋭い牙が伸びた。


「すごい、すごい、これが守護神鬼族(ガーゴイル)の能力(スキル)なのね。」


「ああ、こうなった以上、君を滅ぼすよ、ベティー。」


「やってみたらいいでしょう。伯父さん。」


ベティーは素早くブラウン神父に切りかかった、神父は全て刃で受け止め、彼女の腹部に蹴りを入れた。後ろへ飛ばされたベティーは体勢を立て直し、再び全力で切りかかってきた。


神父は彼女の剣を受け止めているといきなり左わき腹に強烈な蹴りをくらった。

ブラウンは横へ飛ばされ、複数の骨が折れるのは感じた。


「立ちなさいよ、これで終わったら、私が馬鹿みたいになるじゃない。」


ベティーは怒りと悲しみが入れ混じった顔で怒鳴った。

ブラウンは立ち上がり、刃を捨て、ボクシングの構えをした。


「来いよ、ベティー。私は君の怒り全部、受け止めてやる。」


ベティーはロングソードを捨て、素早くブラウンの前に立ち、目にも止まらぬ速さでパンチを連打していた。


「何が受け止めてやるって、私を一人ぼっちにしたくせに。」


ブラウンは防御したが、彼女の連打が凄まじく、数回パンチをくらった。

ベティーのパンチが非常に重く、ブラウンにかなりのダメージを与えていた。

体勢を立て直した後、ブラウンは再度構えた。


「では、今度は私の番だ。」


構えていたベティーの防御をくぐり抜けて、強烈な左フックを肝臓の位置に打ち込んだ。

痛みで少ししゃがんだベティーの顔に今度右のアッパーを打ち込んだ。

ベティーは後ろへ飛ばされて、倒れた。

ブラウンは彼女の上に乗り、インプラントで強化された胸を拳で破り、姪の心臓を取り出して、

潰した。

ベティーはゆっくりと燃え始めた。


「ごめんなさい、そしてありがとう、伯父さん。助けてくれてありがとう、主(マスター)の呪縛から解放されたよ。」


大きな涙を流しなら、ベティーはブラウンに伝えた。


「ベティー、すまなかった。許してくれ。」


燃えていくベティーは神父に微笑んだ。


「謝らないでね。私は主(マスター)から逃げたかったの、でもできなかった。彼の命令で恐ろしい行いを沢山やってきたよ。怖いよ、伯父さん。最低なことばかりしてきた。一度噛まれたら、嫌でも滅ぼされるまで彼の眷族だよ。他の主(マスター)に噛まれても逃げられないの。」


神父は姪の髪を優しく撫でた。ブラウンはジル・ド・レ卿の究極(アルティメット)能力(スキル)、【傀儡(パペット)】について知っていた。強制的に眷族を操り、奴隷と化す。

他の系統の主(マスター)に噛まれても、上書きできないため、苦しんでいる本人を滅ぼすしか道がないのも知っていた。


「もう大丈夫だよ。終わったよ、ベティー。ゆっくり休んで。」


「子どもの頃歌ってくれた子守唄を歌ってほしいの、伯父さん。」


ブラウン神父は涙を流し、姪に優しく子守唄を歌った。

ベティー笑顔を浮かんで、安堵した表情で燃えて、灰となった。


ブラウン神父は悲しみのあまり、思い切り叫んだ。




同時刻


彩美はフォーチュンと戦っていた。

フォーチュンは素早く攻撃をかわしながら思った。彩美はロングソードの使い手として超一流だった。


「ノスフェラトゥ卿の眷族にして中々やりますね。」


童顔男は笑顔で彩美に話した。


「貴様に何が分かるというのか?」


彩美は不機嫌そうに聞いた。


「ヨーロッパ連合内で大きな顔をして威張り散らしている人間(ウォーム)の機嫌取り集団だろうが、君たち。」


フォーチュンは嫌味たっぷりの笑顔で彩美に伝えた。


「なるほどね。男児殺しの眷族らしいね。貴様は。」


「我が主(マスター)を愚弄するな。」


「本当のことじゃないか。怒るなよ、名探偵さん。」


童顔男は怒りの表情を浮かべて、剣さばきが一瞬、雑となった。

彩美はそれを待っていた。

左拳で思い切り男の顔を殴った。男の鼻が折れるのを感じた。


フォーチュンは一瞬、後ろへ下がり、体勢を立て直そうとしたが、彩美がそうさせなかった。

今度は右脇腹を左足で蹴り、男を左横へ飛ばした。

ロングソードを下げた男を上から切りかかり、首元を右からロングソードで切ろうとした。

その瞬間、男はロングソードを捨て、両手で素早く彩美のロングソードを挟んで、折った。

彩美が後ろへ飛んで、距離を稼いだ。


「剣で私を滅ぼせると思ったのか?」


肥満体の男は皮肉った。


「思ってないね。ロングソードを手放すのを待っていた。」


彩美はそう言った後、個人の能力(スキル)である【幽霊(ゴースト)】を発動した。

体が半透明化し、素早く男の前に立ち、胸に手を突っ込み、中で手だけ実体化し男の心臓を掴み、潰そうとした。

男は笑顔を浮かべた。

心臓から鋭利な棘が生えて、彩美の手に刺さった。

彼女が悲鳴を上げ、再度手を幽霊化し、後ろへ飛んでまた距離を稼いだ。


「これがね、我が主(マスター)の系統・能力(スキル)、【鉄(アイアン)の心臓(ハート)】だよ。」


フォーチュンは皮肉たっぷりの笑顔で彩美に言い放った。


彩美は自分の手を見た、急速治癒再生でほぼ元に戻った。


「痛かったよ、名探偵さん。」


彩美は皮肉で返した。


「ホフマンさん、君の能力(スキル)は私に通じないよ。」


余裕のある笑顔でフォーチュンが彩美を挑発した。


「試してみないと分からないよ、名探偵さん。」


彩美は系統の能力(スキル)である【瞬間移動(ワープ)】でまたフォーチュンの前に立ち、

顔面を殴った。

個人の能力(スキル)で手のみ幽霊化し、男の頭蓋骨にある脳を潰そうとしたが、

そこにあるはずの脳がなかった。


「外れですね、ホフマンさん。」


フォーチュンは笑顔で驚いている彩美を両手で掴み、持ち上げて、投げた。


彩美は数メートル先に投げられ、木にぶつかり、背骨が折れるのを感じた。

童顔男は余裕の表情で彼女を見た。


「これが私の細胞からできたクローン体だよ。脳のあるべきところに受信機があり、本当の私は別の場所にいるよ。」


彩美がゆっくりと立ち上がり、男を見た。


「自分からばらしていいのか、名探偵さん?」


「問題ないよ。君はもうすぐ滅ぼされるのでね。」


彩美は微笑んだ。この男に勝つ方法が思いついたからだった。

また【瞬間移動(ワープ)】で男の前に立ち、また手だけに【幽霊(ゴースト)】を使用し、

男の頭に突っ込んだ。


「学習能力がないですね、ホフマンさん。」


男が不敵の笑みを浮かんでから余裕のある声で彩美を小ばかにした。

彩美の手が男の頭の中に置き土産を残した。


すぐに【瞬間移動(ワープ)】で20メートル先に行った彩美が男を見た。


「バイバイ、名探偵さん。」


彩美は自分の手を見た、その手には手りゅう弾の安全ピンが握られていた。


フォーチュンのクローン体は派手に爆発し、滅んだ。



同時刻

フランス共和国

ナント市


フォーチュンはクローン体との接続が切れたため、椅子から立ち上がり、接続ヘルメットを脱いだ。

接続ヘルメットはワトソン重工の本社で【物】になった元日本国の首相の実験で使ったものの初期試作品であり、主(マスター)のジル・ド・レ卿がワトソン重工の会長から譲り受けたものだった。


フォーチュンは志願し、ワトソン重工の技術部は彼のクローンを2体作り上げ、遠隔操作の実験のために渡した。そして今そのうちの1体が破壊された。


「レジナルドよ。貴様は負けた。罰を受けてもらうぞ。」


彼の頭の中に声(テレパス)が響いた。


「我が主(マスター)、申し訳ございません、どうかお許しください。」


フォーチュンが答えた後に体中に凄まじい痛みが走った。

ジル・ド・レ卿の【傀儡(パペット)】だった。

主(マスター)からの拷問は20分にも及んだ。


「一度だけ挽回のチャンスを貴様に与える。今すぐその巨体ともう1体のクローンを動かせ。合衆国へ行け、アーカード卿の妻のミレン姫を殺せ。」


「仰せの通り、我が主(マスター)。」


恐怖で震えるフォーチュンは弱々しく答えた。




同時刻

ミラノ市付近


畠田は民家から出て、ノスフェラトゥ卿ともう1人の男の眷族を無視し、

身を隠しながら、彩美の立っているところへ向かった。


「あの女吸血鬼とは楽しめそうだな。」


いやらしい笑顔を浮かんだ後、静かにつぶやいた。

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