第9話 入隊
タウレッド王国、首都・トレード市
ワトソン重工本社ビル地下
戦闘員訓練場
2025年3月某日 午後21時00分頃
小島は広大な地下訓練場をゆっくり見ていた。
席に座り、これから入隊を目指す新人者(ニューボーン)と転化希望者たちを待っていた。
前回の作戦で副官の田原を含めて、15名の隊員を失った。
その中でも、命令系統で上から3番目のゼンフィラ中尉の離反は痛手だった。
牙(ファング)小隊(プラトーン)を2012年当初の定員数の70名に戻さなければならないとノートルダム会長に直に命令されたことを考えていた。
これから闇の評議会とカトリック教会の戦いに向けて、凄腕の攻撃部隊が必要だった。
今回新隊員16名と副官候補1名を選ばなければならない。
訓練場に入って来たは80名の入隊希望者だった。
その内訳はジャブロー警備隊の転化人(インヒューマン)戦闘員24名、人工の主(マスター)で本日新人者(ニューボーン)になった33名、転化希望者11名の人間(ウォーム)の傭兵、各支部推薦の10名の人間(ウォーム)と一番の驚きだったのは断絶(オーファン)系統(レガシー)の長寿者(エルダー)1名。
最後に小島がスカウトした植田緑も訓練場に来ていた。
本日、会長が田森だった者の体を使って転化させた新人者(ニューボーン)たちについては、本当は90名だったが、大半は屍(アンデッド)化したのを小島は知っていた。
小島の左隣の席にパレスチナ人隊員、少尉のマフムードが座った。
大尉と中尉が相次ぎいなくなったので彼が事実上の命令系統上位2番目となった。
「希望者が多いですね、小島隊長。」
「そうですね、マフムードさん。思った以上に我が隊は人気があるね。」
蝋人形のような笑顔で小島が答えた。
その時、グレイ監査官が訓練場に入って来た。
彼は真っ直ぐ小島と部下のパレスチナ人少尉が座っているテーブルに向かい、
小島の右隣に座った。
「隊の採用基準を見に来た、小島君。」
「おやおや、監査官、お越しいただき、ありがとうございます。」
相変わらず蝋人形感のある笑顔で小島が答えた。
希望者全員は小島たちの前に規律正しく、10名ごと並んだ。
小島は立ち上がった後、彼らに声をかけた。
「ではこれから入隊テストを始めます。皆さんにはペアになっていただきます。1番と3番、2番と4番などでお願いしますね。」
全員ペアを組んだ。
「ここには転化人(インヒューマン)や人間(ウォーム)も関係ない。この部隊に入隊するのは強者のみ。このテストを受ける以上、滅ぼされても、死んでも、文句はないはずです。」
小島は珍しく強い声で希望者に伝えた。
「アイアイサー!」
全員が一斉に返答した。
「では戦ってください。生き残った者でまた絞ります。」
小島は真剣な眼差しで希望者に命令した。
戦いは一瞬で決まった。
小島とグレイは植田緑の組を見ていた。
彼女はサバイバルナイフでジャブロー警備隊の隊員が反応する前に首を刎ねた。
その隊員が燃えだして、灰となった。
「やはり戦いの才能があるね。」
小島は嬉しそうにつぶやいた。
1分後フィールドに植田緑を含む40名が残っていた。
支部推薦者の人間(ウォーム)は2名、転化希望の人間(ウォーム)は1人、その他、断絶(オーファン)系統(レガシー)の長寿者(エルダー)を含む転化人(インヒューマン)のみ生き残った。
支部推薦の1人は酷い怪我をしており、転化希望の人間(ウォーム)は片腕を切り落とされていた。
小島はもう1人の支部推薦の人間(ウォーム)を見た。
怪我一つなく、ジャブロー警備隊の転化人(インヒューマン)を一撃で滅ぼしていた。資料を思い出した。
畠田(はただ)弘義(こうぎ)という元自衛隊員で若い女性ばかりを狙った連続殺人鬼だった。
彼を推薦してきたのは日本支部の宮崎専務。
断絶(オーファン)系統(レガシー)の長寿者(エルダー)は右手の人差し指で人間(ウォーム)の傭兵を始末していた。
彼はずっと昔滅びた主(マスター)の末端の者で運良くずっと生き残って、900歳を超える長寿者(エルダー)となった。
小島は彼の名前を思い出した。20世紀初めからエドワード・C(シー)・バーク教授を名乗っていた。色白で強烈な外見と黒いトップハット、黒いスーツ。人をえぐるような大きな目をしていた。
「生き残った皆さん、前に集まってください。」
小島は希望者を呼んだ。
「またペアになっていただきます。右隣にいる方と組んでください。」
全員小島の命令に従った。
「ではこれから私たち、君たちの戦いをゆっくり見たいので、呼ばれたペアは前に出てくださいね。」
小島は不気味な笑顔で付け加えた。
「バーク候補生、レオン候補生は前に出ろ!」
マフムード少尉が叫んだ。
時代錯誤な服装と強烈な外見をしたバークと背の高いイタリア人隊長が前に出た。
「始め!!」
マフムード少尉が命令した。
バークは持っていた短剣を抜いて、隊長に切りかかった。
彼は最初の攻撃をかわして、サバイバルナイフで反撃し、トップハットを刺した。
2人はまた距離を取り、睨みあった。
今度、隊長が攻撃し、バークの頬を切ったが、バークは隊長の顔を殴り、後ろへ飛ばした。
飛ばされた隊長はすぐに立ち上がり、バークの腹部に強烈な前蹴りを入れた。
前へしゃがんだバークはサバイバルナイフで顔を刺されそうとなったが、間一髪のところ、短剣でサバイバルナイフを防いだ。
また2人距離を取り、構えた。
「能力(スキル)使用禁止してないのであるのなら、使いなさい。」
小島は2人を見ながら命令した。
隊長はあの南米人の元・主(マスター)の系統だったが、特別な能力(スキル)まだ持っていなかった。バークは恐ろしい笑顔となり、短剣を捨てた。
隊長の目を真っ直ぐに見て、つぶやいた。
「催眠(ヒプノーシス)発動。」
隊長は動かなくなり、目が白くなった。
バークは動かなくなった隊長を素手で胸を貫き、心臓を取り出して、手でつぶした。
レオン隊長は燃えだして、灰となった。
「勝者、バーク候補生!」
マフムード少尉が叫んだ。
「次、畠田候補生と植田候補生、前に出ろ!」
少尉は命令した。
緑と畠田が前に出て、構えた。
「始め!!」
少尉の怒号がかかった。
緑は素早く動いた。人間(ウォーム)の畠田が反応する前に心臓を刺した後、手刀でその首を刎ねた。
緑が彼の遺体に背中を向けようとした矢先に笑い声が聞こえて来た。
「気持ち良かった。もう一回やろう、緑ちゃん。」
彼女は驚きで目を大きく開け、畠田の遺体を見た。
「俺は人間(ウォーム)だが、ただの人間(ウォーム)ではないよ。」
再生しながら畠田は緑に伝えた。
1分後、また畠田が立っていた。服は破れていたものの、傷は治っており、頭がまた体と結合していた。
グレイ監査官はそのことを見逃さなかった。
「何者だ、あいつ?」
小島に聞いた。
小島も慌てて、彼の資料を見た。
畠田弘義、日本国元自衛隊員、岐阜県出身、階級は一等兵曹。20人の若い女性を強姦した後、惨殺し、2008年に捕まり、2012年に死刑実行された。去年32歳。
「転化人(インヒューマン)ではないとする、能力(スキル)持ちの人間(ウォーム)か?」
小島が驚きながら、グレイ監査官に話した。
畠田は緑を見ながら話しだした。
「もっと遊んでね、緑ちゃん。」
緑は彼を見て、嫌悪感が走った。
「断る、気持ち悪い。」
露骨に嫌な顔をしながら畠田に伝えた。
畠田は緑に襲いかかり、彼女は軽くかわした後、再び首を刎ねた。
頭を失った体が頭をまた拾い上げ、また首の上に付けた。
「待って、もっと遊んでよ、緑ちゃん。」
畠田は異常な笑顔で緑を見ていた。
その時、畠田の体に高濃度のアルコールがかかった。
グレイがかけたものだった。
彼はライターを片手に畠田の前に立った。
「貴様に聞きたいことがある。その能力(スキル)は何だ?今すぐ答えろ。」
グレイは怒りの顔で畠田に質問した。
「邪魔するなよ、僕は緑ちゃんと遊びたいよ。」
グレイは再度聞いた。
「燃えカスになりたくなければ、答えろ。」
「持って生まれた能力(スキル)だよ。」
「お前は死なない体だな?」
「はい。何をされても、必ず生き返ることはできる素晴らしい力だよ。」
「だが、火には弱いだろう?」
グレイは畠田を睨んだ。
「弱い、だからライターを近づけないで。」
「では、消えろ。」
軽蔑な眼差しで畠田に伝えた後、ライターを彼に投げた。
畠田の体は派手に燃えた。
入隊試験はそのまま継続した。
緑とバークを始め、隊員17名が決まった。
全員転化人(インヒューマン)だった。
入隊試験終わった後、グレイは緑を連れて、専用コンドミニアムに帰って行った。
火に焼かれ、灰となった候補生は再生することがなかった。
翌日 未明 1:15頃
訓練場の床に放置されていた灰がゆっくりと再生し始めた。
小島はそれを待っていた。
「あなたの能力はもったいないな、グレイ監査官に嫌われたら、採用できないけど、仕事を頼みたい。」
口と顔は再生されて、小島を見た。
「何だ?どんな仕事?」
「ノスフェラトゥ卿とその護衛の彩美・ホフマンを殺してほしい。」
「わかった。その彩美と遊んでいい?」
小島は軽蔑な目をして再生途中の畠田に伝えた。
「好きにするがいい。」
畠田は恐怖を感じた。先のグレイと呼ばれていた若い男性より、この小島が遥かに怖かった。
「わかった。」
小島は彼に質問した。
「能力(スキル)の名前は?」
「【復活(リバイバル)】です。」
「再生したら、イタリアに向かえ、使いの者を回すので付いていけ。服はここに置く、それを着ろ。」
「わかった。」
「最後の忠告。裏切るな、どんなに優れた能力(スキル)でもお前はまだ人間(ウォーム)だ。グレイと違い、火には弱いともわかった。私を敵に回したら、地獄の果てまで追いかけてやるからね。」
「わかった。約束する。」
小島は訓練場を後にし、コンドミニアムに向かった。
おそらくあの畠田は裏切るが、シャツのボタンに仕組んだ超小型熱爆弾が灰も残さないほど焼くだろうと思った。
最初からノスフェラトゥ卿を滅ぼすのではなく、弱体化させるのが狙いだった。
「これからの展開が楽しみだな。」
小島はつぶやいて、車を飛ばした。
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