第8話 渋谷駅

日本国 東京都

渋谷区 渋谷駅・ハチ公口近辺

2025年3月某日 午前中10時50頃


ジャックは渋谷駅前の交差点へ歩き始めた。

周りに機動隊員、警官、私服警官など慌ただしく動いていた。


「皆様、至急避難してください!テロ組織の攻撃が予告されました。駅から離れてください!」


メガホンで警官が誘導していた。

数百人の人間(ウォーム)が大急ぎで駅周辺から離れていてた。

一部の若者は誘導を無視し、ハチ公前に集まり、騒ぎだした。

ジャックにはこの行動は理解できなかった。明確に危機が訪れるのにそれをあえて無視し、逆らう人間(ウォーム)の習性は非論理的だと思った。


交差点を渡っている人間(ウォーム)を狙うか、集まり出した人間(ウォーム)を狙うかと状況を分析した結果。集まってきている若者を先に葬ることにした。

若者は国の未来を背負うため、減らせば、その分は近未来に国が衰退すると結論に至った。


ジャックは交番の前に立っている背の高い茶髪の男を見た。彼はアサルトスーツを着ており、明らかに人間(ウォーム)ではない雰囲気を出していた。

吸血鬼にして日光の下に堂々としていたため、分析の結果、半吸血鬼の中山新一であると結論付けた。

ジャックはハチ公像の前に騒いでいる若者と彼らに避難を促す警官の近くまで来て、両腕を前に伸ばして、そこにいる全員に向けた。


「ロックオン、発射。」


ジャックは静かに呟いた。


10本の指の先端から高温のレーザービームが発射され、容赦なく人間(ウォーム)を焼き切っていた。その場にいた約70名の若者、警官、私服警官は即座に死亡した。

ハチ公像が高温で溶けて、その下に隠れていた女性2人にかかって、即死させた。

駅前は一気にパニックになり、逃げ惑う人間(ウォーム)でいっぱいになった。


ジャックは両手のひらから細長い鋭利の刃を出して、パニックに陥った人間(ウォーム)を切り始めた。目の前にいた男性の頭を右手の刃で正面から刺して、左手の刃で男性の隣で叫んでいた若い女性の首を刎ねた。彼は容赦なく、近くに居た若者たちの頭、胴体、腕を素早く切り始めた。


ジャックは人間(ウォーム)を切りながら、正確に周りの状況を確認していた。

転化人(インヒューマン)の部隊が交番横の道から現れた。全員武器を持っていて、彼に近づいてきた。

人間(ウォーム)切りを一旦やめて、逃げ惑う連中を肉の壁として使いだした。

転化人(インヒューマン)部隊、機動隊とあの中山新一が一般人を巻き添えしないように攻撃をためらった。

ジャックは刃を手の中にしまい込んだ。胸と背中から肉の衣、スーツとシャツを破り、超小型ドローン20機を発射した。

10機ほどは逃げようとする人間(ウォーム)の若者たちに飛んで行き、接触と同時に爆発を起こした。更に100名以上の死傷者が出た。

残りの10機は機動隊と転化人(インヒューマン)部隊のところへ飛んでいき、爆破した。

機動隊は全滅、転化人(インヒューマン)部隊は半分以上の隊員を失った。


ジャックの周りは死体だらけと血の海になったので生き残ってた私服警官、私服自衛隊員、転化人(インヒューマン)部隊のメンバーは一斉にアサルトライフルと銃を発砲し、ジャックの体を蜂の巣にした。


急速治癒再生がある肉の衣はすぐに弾丸を体から排出し、怪我を塞ぎ始めた。

ジャックは傷ついた顔を剥がし、筋肉とインプラントだらけの頭になった。

後頭部にあった予備の2つの目が開き、彼の視界を360度のものにした。


彼の腹部が開き、小型空気銃のようなものを出した。

その空気銃でペレットを機関銃のように撃ちだした。そのペレットは超小型爆弾だった。

当たった人間(ウォーム)、転化人(インヒューマン)、駅の壁など爆発した。


ペレットを討ち終えた後、ジャックは周りをゆっくり見た。

煙、バラバラ死体と血だらけの駅前になっていた。


その時、上から素早く日本刀の刃がジャックの左手を切り落とした。

想定外の攻撃だった。

彼の目の前にボロボロになったアサルトスーツと顔の焼けた中山新一が立っていた。


「人造人間め、今度はこちらの番だ!!」


新一が怒りの滲む声で叫んだ。


ジャックは右手のひらと左手首からまた細長い鋭利な刃を出して、ギリギリのところで新一の日本刀を止めた。


「私の先制攻撃で滅ぼされる確率は95%だったはず。」


ジャックは思わず新一に話した。


「戦闘は数字だけじゃないよ。葬ってやる人形め。」


刃が混じり合い、ぶつかる音が大きく聞こえた。

新一とジャックは人間(ウォーム)の目で絶対に追えないスピードで戦い始めた。


ジャックは理解に苦しんだ。

どんなに強くても、所詮、新一は半吸血鬼だった。殺戮専用に造られた自分には絶対勝たないはず。計算上でも確率上でも不可能だった。


「何故だ?何故だ?何故だ?」


理解が追い付かないため、ジャックは同じことを繰り返してしゃべっていた。


新一の日本刀がジャックの左手首から出ている刃を叩き切った。

段々とスピードを上げていく新一の攻撃をかわすのが難しくなっていった。

ジャックは残っていた武器のうちを一番強力なものを使って、新一を葬ることにした。


ゆっくりと口を開けたジャック、新一を睨みとも受け取れる目で見た。

その後、口から世界でもっとも強い強酸、フルオロアンチモン酸を猛スピードで一気に吐き出した。


新一は驚いた。強酸をかわせないと思ったので目を閉じた。


「すまん、皆。」


その時だった。一瞬でジャックから30メーター以上離れているところに居た。


「遅くなったすまない、新一どの。」


ヘルムートだった。彼の系統の能力(スキル)、【瞬間移動(ワープ)】で新一を間一髪で助けた。


「すまない、ヘルムートどの。」


「気にするな。あの人造人間は相当厄介な存在なので全員で片づけよう。」


「全員?」


新一は周りを見た。ヘルムート以外、彼の恋人のミナ・ハーカーとその戦闘パートナー、マモールデ、そして信長の護衛、ゼンフィラがいた。


「皆さん。どうして?」


「大きな駅や駐屯地を警備していたが、こことわかった以上、援護に来たよ。」


ミナは笑顔で新一に伝えた。


「からくり人形を片づけて、早く帰りましょう。」


マモールデは陽気に話した。


「信長様がお待ちですよ、新一どの。」


笑顔のゼンフィラが新一に声をかけた。


全員ジャックを睨んだ。


ジャックが状況を分析し、今の状態で全員相手に勝つ確率は17%だけだった。戦略的撤退を選んだ。

元々今回の失敗はとっさにヒットアンドラン攻撃を変更したことにあった。

再度状況と敵の戦力を分析し、今度は警視庁を襲い、兄と日本国系統の吸血鬼ども、全員を滅ぼす計画に変更した。会長が彼が日本に着く数週間前に先に大きな荷物を送っていたのを思い出した。

空を飛べれば、キャッチされる可能性があるため、下水道を使って、撤退することを選んだ。

データも収集できたので完全な失敗と言えなかった。


ジャックは近くのマンホール蓋を素早く開けて、中に入った。


全員彼を追いかけたが、信長からゼンフィラ宛に声(テレパス)が届いた。


「戻れ。彼は警視庁を必ず襲撃する。」


ゼンフィラは全員にそれを伝えた。


それから全員周りを見た。半壊した駅と大量の死亡者、恐ろしい大惨事だった。

後の歴史はこの事件を【渋谷駅無差別攻撃】と名前付けられた。

死傷者数は計627名だった。




同日

江東区青海

旧ヴィーナスフォート跡地。

地下300メーター。

午後14時30分頃。



ジェフリー・ダーマー支社長と幹部の宮崎はジャックの治癒再生が終わるのを待っていた。

2人は会長にこの秘密アジトを作るように2年前に命令されていた。

約2週間前、通称ジャック宛に届いていた大型コンテナもここに保管していた。

これを作るため、上の施設を買い取り、壊し、更地にした。

表向きには新しいレジャー施設を作ることになっていたが、実際はワトソン重工の武器倉庫と予備の研究室が目的だった。


「あのコンテナに何か入っていると思いますか?ダーマー社長?」


「わからないね、知りたくないな、宮崎専務。」


ちょうどジャックの再生が終わって、彼は休眠用ポットから出た。


「どうですか?ジャックさん?」


宮崎が聞いてきた。


ジャックは彼を真っ直ぐ見た。

ゆっくりと口を開けて、強酸を吐き出した。

宮崎は悲鳴を上げたが、すぐに体が溶けて、悪臭が放つ液体になった。


「会長に彼を始末するように命令された。ダーマー博士、会長はあなたにはもう一度だけチャンスを与えると言っている。」


恐怖の目でダーマーはジャックを見た。


「はい。私は何でもします。」


ダーマーは恐怖のあまり、尿を漏らしたことに気づいた。


「では会長の命令はこのタブレットに入っています。必ず読んで、実行してください。失敗は許されん。失敗した場合、あなたと家族が宮崎と同じような結末になりますのでよく肝に銘じてください。」


ダーマーはタブレットを受け取った。その内容を見てあ然とした。


「必ず実行してください。会長の命令です。」


ジャックが機械的に命令した。


「はい。必ず実行します。」


「それと今すぐ出て、ズボンを履き替えてください。」


ダーマーが恥ずかしさ、恐怖と悔しさで赤面し、頭を下げて、部屋から出て行った。


ジャックはコンテナに手をかさして、ドアは自動的に開錠となった。

中に入っていたのは10体の新品人造人間だった。

ジャックより単純な作りだったが、脳の代わりに受信機が入っていた。


ジャックは親機であるため、残りの10体をドローンのように同時に動かせることができる性能をついに実践で試すことになり、また新しい戦闘データ増えると思った。


機能をオンにして、10体は目を開けた。


「明日未明3時、警視庁を攻撃する。」


ドローンはコンテナから出て、彼の前に並んだ。

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