第6話 切り裂き男

日本国 東京都

新宿区 歌舞伎町近辺

2025年3月某日 午前中10時頃


顔を変えた通称ジャックは歌舞伎町の裏道をゆっくりと歩いていた。

今使っている顔は仕事用のダミーで、ジャックが数年前に始末したイギリスの諜報員のものだった。その諜報員は凄腕で殺しの許可証(ダブル・オー)を持っている人間(ウォーム)だったが、所詮、彼は人間(ウォーム)だったため、人造人間のジャックには勝てなかった。


1888年4月1日に起動されてからずっと働き続けてた。

ノートルダム会長から正式名が与えられなかったものの、有名なホワイトチャペル連続殺人鬼の通称で呼ばれることになった。元々その連続殺人事件が彼にとって練習であり、最初の仕事だった。


元はと言えば、ジャックはノートルダム会長が注文した特別仕様の人造人間だった。

ジャックは名前など、自分にとって、不要なものだと認識していた。


今回の彼の任務は兄に当たる存在のアダムを始末することと会長からの命令だった。ジャックはアダムと違い、感情がなく、命令通りに動く。知識や経験から学ぶものの、彼には特別な思い出と思い入れがなかった。


兄のアダムは人間(ウォーム)ベースの人造人間であるに対して、ジャックは無から造られたものだった。人間(ウォーム)の骨と同じ密度と重さの衝撃に強い合金骨格の上に培養細胞で造られた人肉の衣、人工臓器と人間(ウォーム)そっくりの脱着式人工皮膚。脳は特別な神経系培養細胞で造られた上、機械インプラントで強化されたものだった。老化防止機能付きの上、人間(ウォーム)脳の通常数十倍の容量があった。そのおかげでジャックは学んだことを瞬時に覚え、すぐに実践することができた。

人工の心臓は兄同様、半永久的に動くもので、体中に機械インプラントが設置されていて、様々な武器を隠し持っていた。

衣の肉体は急速治癒再生機能、血管と筋肉が付いており、汗もかくことが可能だった。人間(ウォーム)同様に老い、数年に一度脳以外、全面的に置き換える必要があった。

人工臓器は衣に栄養を与えるためのもので、ジャックは毎日、高プロテイン、高タンパク質の味のない白い液体を飲まなければならないことになっていた。

父上に当たるヴィクター・フランケンシュタイン博士より感情を与えたいと数回提案されたが、感情は仕事の邪魔になるのと偏見を生むきっかけであると論理的に結論を出した結果、毎回断っていた。

経験を積んだ影響で様々な表情を真似ることができるものの、その表情に伴う感情を理解することはなかった。


ジャックはあるマンションの前に着いて、全体を一度ゆっくり見た後、入った。

その大きなマンションは有名で通称は【やくざマンション】と呼ばれていた。

先ず8階に入居しているある暴力団の構成員の部屋を訪れた。

ドアを強く叩き、中から怒鳴る声が聞こえた。


「誰だ!!」


「宅配業者です。」


ネイティブ並みの日本語でジャックが答えた。


「てめえ、苦情入れてやる!!」


怒鳴りながらジャージ姿の頭の禿げた中年男性がドアを開けた。


ジャックが素早く手刀でそいつの頭を貫いた。

悲鳴も痛みを感じることなく、中年男性は絶命した。


ジャックは素早く土足で上がり、部屋に入り、テレビの前に座っていた金髪の若い男の頭をもぎ取り、一瞬で殺して、その後トイレから出たパンチパーマの30代の男性の胸を貫き、心臓を手で潰した。


「1軒目完了。」


無表情のままで一言つぶやいて、3つ隣の部屋に向かった。

しつこくドアを叩いた後、中からまた怒鳴る声が聞こえた。


木刀を持った40代の男性が出たが、声を上げる前に首を180度曲げられたため、絶命した。

また土足で部屋の中に入ってそこに居た初老の男とヘルス嬢っぽい女性を悲鳴上げる前に手で斬首した。


「2軒目完了」


9階に上がったジャックは同じ暴力団の構成員の部屋を片っ端から潰し始めた。

4軒目終わった後、あまりにも簡単で無抵抗のままにやられていく暴力団員にチャンスを与えるべきと結論に至ったため、5軒目の部屋から人間(ウォーム)に反撃の機会を与えてから始末すると決めた。


5軒目の部屋は大きく、暴力団の事務所だった。

相変わらずしつこくドアとインターフォンを鳴らして、中から怒鳴って出てくる人間(ウォーム)を待った。

部屋のドアは勢いよく中から開けられた。ひげ面で禿げた若い構成員だった。

ジャックの血だらけの姿を見た構成員はあ然とした。


「何なんだ、てめえは!!?」


「君たち全員を殺しに来ました。抵抗試してから死んでください。」


記録されていた人懐こい笑顔で構成員に伝えた。

構成員はジャックの頭を木刀で叩いたが、皮膚と衣のみが少し切れた。ジャックは男の両腕を折り、

悲鳴を上げる男の喉を手刀で切り裂いた。

血が噴き出し、男が絶命した。


中から5人の男が出て来た。

2人は木刀、1人はドス、1人はなまくらの日本刀と最後の1人はトカレフを持っていた。

ドスを握っていた中年男性の構成員は走って、ジャックの腹部を深く刺した。

ジャックは片手で男の頭を掴み、180度を一気に曲げた後、脊椎付きで体から引き抜いた。

トカレフを握ってた若い男性が発砲した弾丸がジャックの胸と頭に当たったものの、急速治癒力再生ですぐまた体外に排出された。

ジャックはトカレフを握ってた男性の前に立ち、手刀で頭から睾丸まで真っ二つに切った。


木刀握っている2人は殴りかかってきたが、ジャックは1人を口から掴み、顎をもぎ取った後、残った頭を両手で潰した。

もう1人は逃げようとしたが、首を引っ張り頭蓋骨と脊椎を手で引き抜いた。

最後の1人は恐怖のあまり、尿を漏らし、泣き出した。


「何者だ!!何の恨みがある!」


泣きながらジャックに対して話した。


「恨み?そんなのない。あなたたちは目くらましのために犠牲になってもらうだけだ。」


泣いている男の腹部を手刀で刺した後、内臓を引きつり出した。

男は地面に落ちて、痛みで喚いていたが、ジャックは足で素早く男の頭を踏み潰した。


部屋の奥にもう1人の男が隠れていた。

金髪に染まった頭とピアスだらけの顔の若い男性だった。


「誰の差し金?」


トカレフを握りながら、男はジャックに質問した。


「誰も。私の仕事をカムフラージュするため、派手にやる必要があると結論に至っただけ。」


ジャックは機械的に答えた。


若い男性は怒りの表情を浮かび、発砲した。

ジャックは素早く弾丸をかわし、男の前に立った。

ピアスと傷だらけの顔を見て、論理的にマゾヒストであると結論に至り、痛み付けながら殺すことに決めた。

2分後、若い男性がバラバラになって、部屋に散らばっていた。顔の表情は笑顔だった。


それからジャックは10階に上がり、違う暴力団の部屋を潰し始めた。

先の発砲で近くで監視していた警察が動き、機動隊員が入り口に集まり始めた。


ジャックは彼らが突入する前まで合計35名を惨殺した。


機動隊がマンションに突入し、急いで階段とエレベーターで登り始めた。

ジャックは15階まで登り、デリバリーヘルスのプレイ部屋として使われている1室に入り、

中に居た下着姿の女性の頭を刎ねた後、ベットに居た裸の男性の頭を潰し、男性のスーツを着て、予備で持ってきた顔を付けて、窓から隣のマンションへジャンプした。


隣のマンションの屋上に着地した後、潰した部屋の中に置いてきた、脳と連動していた小さい発火措置のスイッチを入れた。

中に突入した機動隊員、近くに居た野次馬住民など一瞬で焼き尽くされた。


マンション全体が燃えだした。


消防車、パトカー、救急車のサイレンが鳴り、大勢の人が燃えるマンションを見に来た。


ジャックは新しい外見で普通に歩きだして、新宿駅に向かった。

新しい顔は旧ソ連の諜報員のものでそいつの相棒だった合衆国の諜報員の顔もジャックが持っていた。彼らは旧ソ連と合衆国が共同で運営していた特別機関の諜報員でワトソン重工の実態に迫ったため、両国の諜報機関のトップを含めて、数十年前にジャックが始末していた。


「次は渋谷。」


脳内で結論を出し、ゆっくりとその場から離れて行った。




日本国 東京都 

千代田区 警視庁

特別地下シェルター

2025年3月某日 午前中10時30分頃


森成利警視監の机の電話が鳴り、彼はすぐに出た。

新宿区の通称【やくざマンション】で襲撃と放火事件が発生した。


「その近くに居た機動隊は?」


「ほぼ全員やられています、森警視監。」


電話口の警視は大変動揺していた。


「今どんな状況になっている?」


「マンションは燃えています。空から各局がヘリコプターを飛ばして、テレビやインターネットで生中継しています。」


「始まったきっかけは?」


「生き残った目撃者によると、外国人風の男性が暴力団が入っている部屋を襲い始めた。」


森は思った、ついにあの人造人間が日本に到着した。


「わかった。近くの住民を避難させろ、今すぐだ。」


「承知しました警視正。」


5分後、森は冬眠の間へ行き、信長を起こした。

弥生とアダムもそちらに急行した。


「何事だ、成利?」


信長が聞いてきた。


「アダムどのを追っている人造人間が無差別攻撃を始めた、お館様。」


「何?犠牲者が出ているのか?」


「暴力団員、機動隊員、一般人を含めて、100名以上です。今の段階で。」


「恐ろしいな。アダムどの、どうすれば止められるのか?」


信長がアダムに質問した。


「今回は一般人より戦闘力の高い、暴力団員と機動隊員を狙った攻撃です。もう一度攻撃すると思う、次は一般人が多く集まるところを狙う。おそらく渋谷駅の交差点付近で無差別攻撃をする可能性が高いと思います。」


アダムは自分の見解を伝えた。


「なるほど。君の案で主要駅、都内の警察署警と自衛隊の駐屯地を戒していたが、あの歌舞伎町のマンションもいつも以上に厳重警備したけどそれを真っ先に狙われるとは不覚でした。渋谷にはどれぐらいの戦闘員がいる?」


「中山新一がいます。彼以外に人間(ウォーム)の機動隊員150名、私服警官30名、私服自衛隊員30名と転化人(インヒューマン)特殊部隊員が50名警戒している。」


森は信長に報告した。


「すぐに戦闘態勢させろ、駅を至急封鎖しろ。」


「はい。承知しました。」


「信長様、ジャックは電車で移動している、おそらくもうすぐ着くと思います。彼の耳は特別製なので今すぐ犬笛を鳴らして、動きを鈍らせることが大事。その間、できるだけ一般人を避難させる。」


「わかった。」


信長が頷いた後、森を見た。彼はすぐスマートフォンで命令を伝えた。

森の計らいによりヘルムートも急行した。

彼は秋葉原駅で警戒に当たっていた。


「信長様、率直に申し上げます。」


「何でしょう、アダムどの?」


「ジャックの最終目標は私です。おそらく渋谷はかく乱のための攻撃です。」


「なるほど。我の眷族が負けると思うのか?」


「違います。おそらく攻撃を開始したら、すぐ後に彼は逃げる。最大の被害者数を出しながら。」


「確かに君は前、弥生に同じことを言ったね。」


「はい。この攻撃の後、24時間以内に警視庁へ攻めてくると見ています。」


「なるほど。それで何かいい案あるのか?」


「その時、彼と戦いたい。あれでも同じ父上の子です。感情はない冷酷な殺人機械だが、私にとって弟に当たる存在です。この手で葬り去るべき。」


「それは危険過ぎる、私も共に戦う。」


弥生は心配そうにアダムに話した。


「弥生さん、申し訳ありません。あの人造人間は私の手で止めなきゃ。」


アダムはおどおどせず、弥生にはっきり自分の意見を述べた。


「わかった。」


弥生は答えた。


「ありがとうございます、弥生さん。」


「わかった。勝負の邪魔はしない。但し葬ると決めた以上、必ず勝って、アダムどの。」


信長も付け加えた。


「わかりました、ありがとうございます、信長様。」



同時刻


山手線に乗っていたジャックは渋谷駅に下りた。

駅が急遽封鎖されると案内放送されたが、閉められる前に急いでハチ公口の改札を出たところ、

急に耳が鳴り始めた。数百の犬笛の音だった。


彼の動きが少し鈍くなり、不快な音の遮断を試した。

新しくノートルダム会長が強化してくれたフィルターのおかげで普通に歩きだして、

交差点に向かった。


ジャックは先まで今回の攻撃をヒットアンドラン戦法の予定だったが、大勢の敵が待っているのを確認したため、日本の吸血鬼と戦うことが必要であるとの結論に至り、データ収集も含めて、この近辺にいる吸血鬼全員始末することに計画を変更した。

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