第5話 緊急対策会議
合衆国 首都 コロムビア特別区
通称 ワシントン・ディーシー。
ロック・クリーク連邦公園下 特別地下シェルター
2025年3月某日 午後15時30分頃
ジョニー・ヴラド・アーカード卿が大広間に設置されていた画面をゆっくり見ていた。
これから評議会の緊急対策会議が始まるのを待っていた。
「あなた、厳しい顔して、どうしたの?」
人間(ウォーム)だった頃の妻、ミレナ姫の生まれ変わりである、ミレンは優しく声をかけた。
「あれ?寝ていると思ったが、気にしないで、評議会の会議があるだけだよ。」
微笑みながらアーカード卿が優しく答えた。
「あまり無理しないでくださいね。」
「はい。まだ午後なので部屋に戻って休んでね。」
「わかった。待っているね、ジョニー。」
「待たなくて大丈夫だよ、先に休んでね。会議が終わったら行くよ、ミレン。」
優しい表情を浮かべながら寝室に戻る妻を目で見送った。
彼女が大広間を出た直後、スマートフォンに通知が届き、
大きな画面がオンになった後、20数の小さな四角い画面に分かれ、
各画面に一人の闇評議会の面々が映った。
「評議員の皆様、突然の緊急会議を呼びかけして、申し訳ない。」
日本の主(マスター)、織田信長公が深々と頭を下げながら、威厳のある声で話した。
「良い、良い、若造。冬眠から目覚めたようだね、で我々に何の用だ?」
最古メンバーの1人である女性、美しいコリント人のフィリノンが発言した。
「はい、2日前に目覚めました。今回は評議員の皆様に報告があります。その内容はワトソン重工を裏で操る円卓同盟という集団についてです。」
「親愛なる信長公、また話せて嬉しいと思うぞ。是非その内容は我々に教示してくださいませ。」
ルスヴン卿は笑顔で信長に伝えた。
「親愛なる親族同盟者、ルスヴン卿、久方ぶりです。」
信長が笑顔で答えた。
「またお姿が見れて光栄です、信長公。」
ノスフェラトゥ卿が親しげに声をかけた。
「ありがとうございます、久方ぶりですね、ノスフェラトゥ卿。」
「信長公、お久しぶりですね。20世紀初頭で大喧嘩して以来ですね。」
アーカード卿が捻ったユーモアで話した。
「確かにね。喧嘩は楽しかったですね、アーカード卿。あなたのところのミナとマモールデは中々素晴らしい人材ですよ。」
信長は笑顔でアーカード卿に答えた。
「とっておきの戦闘員だぞ、信長公。」
アーカード卿が笑顔で返した。
「挨拶と世間話は後にしろ、本題に入れ信長公。」
最古メンバー4人のうちの1人である、女性の主(マスター)、エジプトのセクメトが言いだした。
「失礼しました。それでは本題に入ります。円卓同盟の手が我が評議会内まで伸びてきている。」
信長がシリアスなトーンの声で告げた。
主(マスター)たち、ほぼ全員驚いた表情を浮かんだ。
それから全員は声(テレパス)でのやり取りに入った。
信長はアダムの亡命、彼を始末するための追手の存在、ヴィクター・フランケンシュタイン博士の研究資料、教会の総本山が近々この戦いに参加する可能性があること、評議会内に敵に通じている者が存在する可能性と最後に円卓同盟の主催者(オーガナイザー)であるノストラダムスの壮大な計画について説明した。
信長が説明を終えた後、それをただの考えすぎや根拠のない陰謀論であると唱えるものがいなかった。評議会設立以来の最大の危機という認識になった。
会議は声(テレパス)でも1時間半かかった。
大きな画面がオフとなり、アーカード卿が椅子に座ったまま、ため息をついた。
声(テレパス)でエイミー・水木とその娘、ハルナ・水木を呼び出した。
「水木保安官、副保安官、明日未明に日本へ向けて、出発してくれ。」
「仰せの通り、我が主(マスター)。」
起こされて、少し驚いた2人は同時に答えた。
「詳細は後で知らせる。」
「承知いたしました。我が主(マスター)。」
2人は起きて、出発の準備にかかった。
アーカード卿が自分のスマートフォンを確認した。
ノスフェラトゥと自分は共同戦線を張る必要があったと信長公からメッセージが届いていた。
対謎の組織、円卓同盟との第一戦は近日中に日本国で行われるとも書いてあった。
最初から一戦一戦を全力で戦わなければならない。
その理由はアダムの存在だった。
3人の主マスターだけで共有する情報と役割が細かく記されていて、
敵に通じている可能性のある者の名前も。
カトリック教会の総本山とも協力しなければならないと書いており、
その連絡と接触する役目は自分であった。
アーカード卿はあの教会が苦手だった。元教徒だったからではなく、
あの騎士団とその団長の枢機卿がいるためだった。
十字架の騎士団、そしてその団長、例の救世主の手によって、ほぼ2000年前に永遠の命を与えられた男、伝説の聖戦士、ラザロ枢機卿。
アーカード卿はスマートフォンを手に取り、電話した。
「はい。ブラウンです。」
回線の向こうで穏やかな声の持ち主が応答した。
「ブラウン神父、アーカードだ。君のボスと話がしたい。」
「お久しぶりですね、アーカード卿。約半世紀ぶりですね。」
ブラウン神父はシリアスな声に変わっていた。
「すまんが、急いでくれ。」
「アダムさんの話を聞いたようだね。」
ブラウン神父はアーカード卿に答えた。
「はあ。その通り。」
「ラザロ枢機卿がちょうど同じことで私にあなたと連絡取るように言われたところ。」
「そうか。君たちも知っているのか。」
「はい、存じています。30分後にこちらから連絡します。」
「わかった。待っている。」
アーカードが電話を切り、またため息をついた。
「ごめんミレン、今日はもう寝室には行かない。また会議がある。」
声(テレパス)で妻に伝えた。
「わかった。お願い、無理はしないで、愛しのジョニー。」
ミレンは心配そうに返答した。
「ありがとう、無理はしないさ、愛しのミレン。」
アーカード卿が優しく妻に伝えた。
日本国 東京都 千代田区
警視庁地下特別シェルター
2025年3月某日 朝方4時30分頃
評議員のやり取りを別の部屋で見ていたアダムが緊張していた。
「どうしたのですか、アダムさん?」
日本系統の長寿者(エルダー)の黒岩弥生が彼に質問した。
「円卓同盟に通じている者がわかった気がする。」
アダムはモニター画面から目を離さずに答えた。
「こんなに早く?」
「はい、弥生さん。これは私の能力(スキル)、観察者(ウォッチャー)です。」
「名前教えてください。我が主(マスター)にすぐ伝えます。」
「3名です。先ずは合衆国南部の主(マスター)、ヴァレック卿。カリブ海のマクシミリアン伯爵とフランスのジル・ド・レ卿です。」
「間違いない?」
「100%の確率です。信じてください。」
「わかった。主(マスター)に伝えます。」
アダムはあの3人の主(マスター)の微妙な目と表情の変化で今回の発表でまったく驚いてないことを見抜いた。闇の評議会の重大な局面なのに事前に知っていたことに違いない。
「信長様の話に全面協力してくれる主(マスター)もいます。」
「名前教えてください、アダムさん。」
「ノスフェラトゥ卿とアーカード卿です。あの2人はこの世界を守ることを前提としてしている。」
「わかった。それも伝える。」
弥生は素早くスマートフォンでメッセージを信長に送った。
アダムはまだじっとモニター画面を見ていた。
能力(スキル)で裏切り者と信長の助けとなる者を見抜いていたので役目が終わったのに、
恥ずかしくて隣に座っている弥生を見れないと思った。
また自分が赤面していることにも気づいた。
弥生も何となくそれに気付いたが、今は考えないことにした。
但しこの戦いが終われば、一度このアダムと言う大男とゆっくり話したいと思った。
同時期
信長がメッセージを見た。
個人の能力(スキル)、同時並行(マルチタスク)を発動し、
確実に味方であるノスフェラトゥ卿とアーカード卿にメッセージを送った。
ペルシア・シーア宗教国
首都・テヘラン市から約30キロ南の砂漠地帯
2025年3月某日 未明1時頃
男は地下の秘密の洞窟の中にいた。
長い冬眠がたった今終わりを向え、目覚めた。
声(テレパス)で眷族に呼びかけをしたが、
返答はなかった。
今回の冬眠で何年活動停止していたもわからなかった。
ゆっくりと立ち上がり、洞窟の出口を探し始めた。
数分彷徨った後、出口を見つけて、砂漠に出た。
近くに高速移動している人間(ウォーム)の気配を感じた。
冬眠に入る前、人間(ウォーム)たちは馬車や馬で高速移動していたが、
今回感じた気配はそれより高速で動いていた。
道らしいものを見つけ、そこへ歩き出した。
遠くから光る、2つ目のようなランプと大きな影が高速に近づいてきた。
男は道の真ん中に立った。
突然その大きなが物体が急に止まった。
武器を持った10人の男たちが中から出て来た。
男は彼らが兵士とわかった。
冬眠から目覚めたばかりで血が必要だった。
眷族から返答もなかったので至急、新しい眷族も作らねばならないとも思った。
兵士たちが男に向けて怒鳴ったが、
男の口が大きく開き、巨大な犬牙を出した。
兵士たちは一斉に銃を発砲したが、時既に遅く。
数秒で男の餌食となった。
男の名前は追放者(カイン)だった。
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