第3話 亡命者
日本国 東京都 千代田区
警視庁 特別地下シェルター
2025年3月某日 未明2時30分頃
アダムと名乗る大男が冬眠の間の前に立っていた。
2時間前にプライベートジェット機で羽田空港に到着し、入国する際、亡命を求めた。
入管職員が困惑し、彼は信長の名を出し、すぐに森成利警視監のところに連絡が入った。
間もなく、特別車両が彼を空港から出して、警視庁に連れてきた。
「アダム・フランケンシュタインどの、我が主(マスター)が会うと言っている。」
森がアダムに向けて伝えた。
「感謝します、森どの。」
森は頑丈な扉の前に立ち、その上部の真ん中辺りが開いて顔認証システムが静かに起動した。
「森成利警視監と確認。」
機械的な女性の声が言い、扉が開いた。
森、アダムと護衛2名の新人者(ニューボーン)が冬眠の間に入った。
新しく設置された玉座に信長が座っていた。
彼の隣に専用アサルトスーツを着た元、牙(ファング)小隊(プラトーン)のゼンフィラが立っていた。彼女は銀でコーティングされた日本刀と銃で武装していた。
主(マスター)の前で森と護衛たちはひざまずいて、顔を下げた。
アダムは彼らのまねをして、膝を着いた。
「顔を上げて良いぞ。」
信長が鋭い目でアダムを見ながら、声をかけた。
4人は立ち上がった。
「我に何の用だ?答えろアダムとやら。」
信長が真っ直ぐアダムの目を見ながら問いかけた。
「ワトソン重工を裏で操る円卓同盟の陰謀を知らせに来ました。」
「ワトソン重工を操る集団がいるのか?」
「はい、信長様。彼らは数百年前から裏で暗躍し、吸血鬼の主(マスター)の転生を待っていた。」
「なるほど。それであの南米の小童をかくまったわけね。」
「あの南米人の主(マスター)はただの実験体でした。円卓同盟が欲しかったのは制御可能な主(マスター)の能力(スキル)が持っている1体。自分たちの強化吸血鬼軍隊を作るため。」
「強化吸血鬼は何だ?」
「吸血鬼の様々能力(スキル)を持ちながら、日中活動可能な上、人工インプラントで肉体が強化されている者たちです。」
「何だと?」
「はい、信長様。彼らの狙いは世界の覇権を握ることです。私の予測では闇の評議会のメンバーで彼らに通じている者がいる。人間(ウォーム)の評議会は既に彼の手中にある。そして第三の勢力、カトリック教会の総本山でも彼らのため働いてる者がいる。」
「いつから?」
「数百年前からです。私の父上、ヴィクター・フランケンシュタインは彼らの一員でした。私を逃がすため、犠牲になり、今おそらく幽閉されている。彼らが普通の人間(ウォーム)ではない。数百年存在している、吸血鬼、喰種(グール)、屍(アンデッド)の特徴を持つ別の種族です。私は彼らを死神族(リーパーズ)と勝手に命名しました。」
「君は彼らの同類ではないのか?」
「私は簡単に言うと人間(ウォーム)ベースの人造人間です。死体の組み合わせの体と稲妻で得た力で動く半永久的な人工心臓で存在している。」
「なるほどね。そこの円卓同盟の主(マスター)は誰なのか?」
「彼は自分を主催者(オーガナイザー)と呼んでいる。正体はミシェル・ノストラダムスです。今はマイケル・アラン・ド・ノートルダムを名乗る、世界有数の億万長者。」
「預言者のあのノートルダム家の者なのか?」
「彼の子孫はずっと前に絶えました。彼が1人であの著名な一族を装いながら数百年存在している。」
「我が国にも円卓同盟の息きがかかっている者がいるか?」
「おそらくいます。どの国でも。彼らの企業の支社だけではなく、政府や一般市民にも紛れ込んでいる。」
「何故亡命を求めた?」
「彼らの野望を止めたい。円卓同盟のメンバーは人間(ウォーム)や吸血鬼をただの餌としか見てない。良心も慈悲もない。彼らに死神族(リーパーズ)の力を与えた存在は不可触民(パリヤ)と呼ばれている。私もその存在について、人間(ウォーム)の突然変異か吸血鬼の進化か、よくわかりません。」
「そなたの父上は彼らのメンバーだっただろう?何故今頃彼らを裏切り、あなたを逃がしたのか?」
「良心からです。彼らの理想とする世界は地獄です。父上の研究資料を全部持ってきました。対策を取らなければいけない。それと私を消すため、必ず彼らの追手が日本に来ます。」
「追手?」
「はい、信長様。私と同様の人造人間が来ます。最悪の怪物(モンスター)です。通称名はジャック・ザ・リッパーです。」
「ならば闇の評議会と連絡を取らなければ。彼らに通じている者がいるのはまことか?」
「はい、信長様。誰なのか正確にはわかりません。」
「それでも一大事なのですぐに会議を開く。そなたはどの主(マスター)が怪しいのは見抜くことは可能なのか?」
「断言はできないが、やってみます。」
その時、ゼンフィラが信長に囁いた。
「信長様、彼の言う事は信用できると思います。彼の父上は唯一私たち戦闘員を人扱いしてくれた。いつも苦悩の表情を浮かべていた。」
「わかった。ありがとう。」
信長が玉座から立ち上がり、アダムのところに下りた。
「そなたの亡命を許可する。護衛も付ける。成利、お願いできるか?」
「はい、お館様。手配します。」
森成利が答えた。
その時冬眠の間に弥生が入ってきた。
「伯父上どの、私にその役目を命じてください。」
「弥生?もう体は回復したのか?」
信長が心配そうに聞いた。
「はい。その追手とやらを必ず止めて見せる。」
アダムは振り向き、入って来た彼女を見た。スリムな体、豊かな胸と長い足、うねりのある長い黒髪、小麦色の肌と大きな黒い目、バランスが整っている高めの鼻、肉厚のある唇。アダムは専用アサルトスーツ姿の弥生を美しいと思った。
「アダムさん、よろしくお願いいたします。」
弥生は彼に伝えた。
「はい。」
とだけ答えて、言葉に詰まったアダム。自分が赤面していると気づいて、恥ずかしいと感じた。
弥生は彼をゆっくりと見た。2メーター以上の身長と長い茶髪、筋肉質な体、顔の右側に火傷の痕はあったが、男前だった。
「では行きましょう。部屋を案内します。」
アダムは弥生に案内され、冬眠の間から出て行った。
「あの者を信じて良いのでしょうか?」
森成利は信長に聞いてきた。
「まだわからないが、悪意ある者と思えないのだ。」
「信長様がそう思うのならば、様子見ましょう。至急会議を用意しますので準備完了次第、知らせます。」
森は信長に伝えて、護衛2人を連れて、冬眠の間を後にした。
「ゼンフィラ、あの者を知っている君はどう思う?」
信長は新しい護衛で恋人のチェチェン人女性に聞いた。
「善意の存在と感じている。」
「ならばそう信じよう。」
信長はゼンフィラにキスし、奥へ連れて行った。
日本国 東京都
羽田空港国際ターミナル
2025年3月某日 早朝6時頃
タウレッドエアのトレード空港発、羽田空港着の便は到着した。
ファストクラスに乗っていた、背の高い男性が入国管理局の窓口に着いた。
「観光ですか?ビジネスですか?」
女性職員は男のタウレッド王国旅券を見ながら機械的に聞いた。
「ビジネスです。」
男は人懐こい笑顔で答えた。
「滞在時間?」
「10日間ですね。帰りの便も見ての通り、あるので。」
「では日本国へようこそ、ミスター・デヴィッド・コーエン。」
「ありがとうございます。」
男は空港を出て、新宿駅近辺の外資系ビジネスホテルに向かった。
ホテルに着いて、スマートフォンを取り出して、電話した。
「ホテルに着きました、我が主(マスター)。」
「仕事にかかりなさい、必ずあの大男を始末しなさい、ジャック。」
「承知いたしました。ノートルダム会長。」
回線が切れ、男はバスルームの大きな鏡で顔の皮膚を外して、別の顔を付けた。
ホテルはワトソン重工の資本で動いているものだったのでスタッフが彼を待っていた。
チェックインした部屋で男が違う顔で出ても、スタッフは何も言わなかった。
ジャック・ザ・リッパーと呼ばれている人造人間が東京の街に解き放たれた。
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