第5話 膝より長く太いでござる

「ふぉおおおお! 凄い! 異世界でござる!!」


 勇は初めてみる王都に感激した。よくみたファンタジーの世界がそこにあった。

 しかし、城下町にいる全ての人々は、NPCではなく生きて意思を持つ人間だ。

 それぞれに人生があるのだ。家族連れや走り回る子供達、寄り添う若者と老夫婦を眺めているとスパイシーな香りが鼻をくすぐった。

 匂いを辿ると屋台があり、ケバブのような物が売られていた。 


「ピルーノピ殿! これを買ってはござらんか」


「ええ、勿論です。すみません、一つお願いします」


「はいよ!」 


「ありがたや!!!」


 ピルーノピ、ルナ、マリ、エリは認識阻害の魔法をかけてあるため、王都も市民のように歩けている。

 勇がピルーノピから買ってもらったケバブのようなものを頬張りながら進むと、王都の中心部分にあるお城の前についた。


「おい、ここから先は立ち入り禁止だ」


 守衛の2人が槍を構え、ピルーノピに話しかけた。


「お勤めご苦労様です」


 認識阻害を解除し守衛に声をかけると、大慌てで膝をついた。


「ピルーノピ様!? 大変失礼致しました」


 王城へ進み中に入ると、客間に案内された。洋菓子のようなお菓子がふるまわれ、勇はそれをバクバクと食べる。前の世界で亡くなる前に、若いうちにもっと食べておけばよかったなぁと思った記憶があるからだ。

 胃腸が強いうちに沢山食べようと食い意地を張っているのである。 


「うまし! うまし!」


 某炎柱のように食べ続けるため、次々と追加が運ばれてくる。それをピルーノピとエリとマリは嬉しそうに眺め、ルナは少しは遠慮せんかと震えていたが言わないでいた。ピルーノピが何も言っていないためである。

 城の在庫を食べ尽くしかけた頃にノックの音が響いた。

 

「お待たせ致しました。どうぞこちらへ」


 5人は立ち上がった。 


「勇殿、陛下の前ではくれぐれも失礼のないように頼むぞ」


「いえ、ありのままの勇様でいて下さいね」


 ルナのアドバイスをピルーノピは否定した。


「申し訳ありません、出過ぎた真似を」


「畏まらないでルナ、気にしないで下さいね」


「ござ、どうすれば良かろうか?」


「アホか! ピルーノピ様の指示に従え! 私の意見とで迷うなよ」


「ござ、ルナ殿がいぢめるでござるぅ」


 歩きながらエリとマリが勇を抱き寄せ頭を撫でた。左右の腕が胸に挟まれ、勇は鼻の下を伸ばす。


「エリとマリは勇殿を甘やかしすぎだ」


「ルナ様は厳しすぎます」


「そうです。もしや好きの裏返しでしょうか?」


「なんだと!」


「そうかもしれませんね」


 ピルーノピがのってきたため、ルナはぐぬぬと口をつぐんだ。しかし今となってはその通りである。


「どうぞ、王がお待ちです」


 案内人が頭を下げ、扉をあけた。 

 玉座の間だ。 


「ござ、テリーのワンダーランドと同じ作りでござる」


 ドラクエ1だ。違うのは、両サイドに武装した鎧兵がぎっしりと並び、玉座に座る王の前に2人の近衛が既に剣を抜きこちらを睨んでいることであった。

 名をマルスとカローラス。肉体強化をかけているのか、体はじんわりと発光している。

 しかし勇は気にも止めず玉座へと近づいていゆく。

 明らかな殺意を向けられ、ルナとエリとマリはいざというときのために臨戦体制に入る。3人は肉体強化をかけておかなかったことを後悔した。

 が、よくよく考えると今一緒にいる男が勇だということを思い出し、別に問題ないことに気付くと、この状況がおかしく思えてきた。それと同時に、この状況で危機を感じさせない勇の強さと安心感を再度認識し、胸をときめかせた。


 ピルーノピはその間もポーカーフェイスで勇をリードするように少し前を歩いた。

 立ち止まると勇も止まり、ルナ、エリ、マリは膝をつく。それをみて勇も膝をついた。


「お父様、お待たせ致しました。このお方がタルートリッヒ・勇様です」


「うむ。よく来たな。随分と腕に自信があるそうだが、王都の護衛にあたるについて条件があると聞いておる。今一度聞かせてはくれぬか」


 勇は立ち上がり王の顔を見た。

 王は脅しているのだ。鎧兵に囲まれ、王家最強の剣士の残り2人であるマルスとカローラスを前に、王妃を寄越せと言えるものなら言ってみろと。しかし、勇はそんなことには一切気付かず口を開いた。 


「ピルーノピ殿とルナ殿とマリ殿とエリ殿を拙者に下さいでござる」


 女性陣は突然のことに驚きながらも勇を見て頬を染めた。勢い余って実家への挨拶のような言い回しになっていることに勇はまだ気付いていない。


「うむ。死刑」


 王がそう返事をすると、待ってましたと言わんばかりにマルスとカローラスが襲いかかる。ルナとエリとマリが応戦するため立ち上がろうとしたが、勇が手でそれを制した。 


「身の程を知れ!【炎龍刃】」


「田舎者が!【水龍刃】」


 既に最大まで魔力を練り上げた剣士2人は、左右から自身の必殺技を繰り出す。刃に炎と水の龍が宿り、勇の首を両断すべく左右から切り落と____


「なんだと?!」


 マルスとカローラスは理解が追いつかなかった。肉体強化をして、剣にも魔力をこめた状態で得意のスキルを放ち、両サイドから弱所である首に打ち込んでいるにもかかわらず、勇の肉体強化をかけていない生首はビクともしていない。 


「危ないでござるなあ、ピルーノピ殿が近くにいるのに」


 勇はそういうと、ギリギリと体重を乗せ続けられてる剣の真ん中を人差し指と親指で挟み、クッキーのように砕き折った。


 マルスとカローラスは勢いのまま床に倒れ、勇を見上げる。目が合うと底知れぬ強さに恐怖し動けなくなった。

 ピルーノピとルナとエリとマリは笑いを堪えている様子だ。ルナの全力のエクスキューショナーで無傷の男を、ルナ以下の剣士が傷つけられるはずはないのだ。


「な、何をしている! 全員でかかれ!!」


 王は立ち上がり叫んだ。鎧兵達が一斉に襲いかかる。

 勇はピルーノピを抱き寄せると、腕を伸ばした状態で彼女を中心にくるっと回転した。


 すると、鎧の兵達は全員吹き飛び、動けなくなった。ルナとマリとエリは膝をついたままなのでその衝撃波は勿論当たっていない。


「はは! 王様は強さを試すのが好きでござるなあ。次はどんな手でござるか?」


 王はギャグ漫画のように顎が外れるほど口を落とし、目玉を飛び出させて驚いていた。魔王軍を退けてきた王直属の近衛兵達が、一瞬で制圧されたのだ。

 ピルーノピはメスの顔で勇を見つめていたが、気持ちを切り替え告げた。


「お父様、もう一度申し上げます。ピルーノピ、ルナ、エリ、マリは、勇様と婚姻し」


「あ、すまんでござる。つい口走ったで候。彼女のまちが___」


 ピルーノピは勇が言い間違いを訂正してしまう前に手をとった。


「勇様! 私達と結婚して下さるのですよね! こんなに嬉しいことはありません!」


 ピルーノピは抱きついた。逃してたまるかと。この恐らく世界最強かつ、私を可愛いと言い真っ直ぐ告白してくれた男と何がなんでも結婚してやると。 


「ご、ござ?!」


 勇が困惑していると、ピルーノピが女性陣に目配せをした。それに応え、エリとマリも後ろから抱きついた。


「嬉しいです勇様」


「ええ嬉しいです勇様」


「ござるぅ?!」


 エリとマリが後ろをみるとルナが乗り遅れている様子だ。すかさず煽りにいく。


「あら、ルナ様は嬉しくないのかしら? ではこの話はルナ様意外の3人と___」


「わ、私も嬉しいが?!?!」


 慌ててルナも抱きついた。エリとマリは目を合わせて笑った。 


「ええい! 認めん! 余は認めんぞ!!」


 王は地団駄を踏み怒り狂った。ピルーノピはそれを見ると微笑み告げる。


「……残念です。それでは私達は王家を離れ、勇様の自然あふれる郷土に嫁ぎます。さよならお父様」 


「な……! まてピルーノピ! そなたは第一王女なのだぞ? ピルーノピが継がなければ王家が途絶えてしまうではないか!」


「ござ?」


 勇が何かに勘づきそうな声をあげたので、エリとマリは即座におっぱいで顔を包みこんだ。


「ござぁああ」


 勇は鼻の下を伸ばしIQがサボテン以下まで低下した。愛おしそうにエリとマリはその惚けた顔を撫でる。キスしたい気持ちに駆られたが、ピルーノピがまだなので、何とか耐え忍んだ。


「このまま魔王軍との戦闘が続けば、どちらにせよそうなるでしょう。私は勇様がきっとこの国を守って下さると思い、お父様にご紹介したのに……ひどいです」


 ぴぇぴぇと泣き出した。エリとマリがわざとらしく王に向けて女子を泣かせた男子に送る冷えた視線を送る。

 王は産まれて初めてそのような態度をとられ傷ついたが、その言葉も態度も否定する力が、すでに自分にはないことを実感する。

 衛兵達は一撃で倒され、自慢の剣士2人は剣と心を折られている。これが襲い来る敵兵なら命を賭して戦うだろうが、しかけているのはマルスとカローラスだ。

 王にとって選択肢がない、というのは初めてのことだった。


「わ、わかった。余と勇を2人きりにしてくれ」


「勇様、宜しいですか?」


 エリとマリは押し付けていた胸を離した。勇の頭はゆっくりと回り出す。


「んん? 聞いてなかったでござるが、なんでもいいでござる」


 王には秘策があった。男には男の戦い方がある。王座の間は人払いがされ、シンと静まり返った。 


「おほん。勇よ、余が娘をやるには一つだけ条件がある。それを飲めるか?」


「勿論でござるよ。一体なんでござるか?」


 王は勝利を確信し笑った。 


「それは、余より大きなチンボウを持っていることじゃ!」


 そういうと王は自慢の下半身を露出した。平常時で18cmあるそれは、まさしく王の風格であった。 


「おお! これは立派なチンボウでござるな! では拙者の愚息も」


 ぼろん。


「なにぃいいいいいいいい?!?!?!?」


 王は下半身を露出したまま叫んだ。勇のチンボウは遥かに自分のイチモツよりも太く長かったからだ。 


「ま、まだだ!! 大切なのは膨張力!! 余のチンボウは肘から腕にかけてほどになるぞ!」


 王はヤケクソだ。膨張率の低さに一縷の望みをかけた。


「拙者のチンボウは膝より太く長くなるでござる。困っているでござるよ」


「ぐぅううううううう」


 確認するまでもない圧倒的な説得力が、そこにはあった。王は膝をついた。チンボウも床についた。 


「余の……敗北を認める」


「いやはや、王様のチンボウも流石でござった」


 王は服を履いた。勇もあわせて履いた。 


「入って良いぞ!!」


 王が叫ぶと、ピルーノピ、エリ、マリ、ルナが心配そうに入ってきた。 


「父上、男同士の話し合いは済んだのですか?」


「うん」


 うん? 国王の「うん」などというセリフを初めて聞いた。自信を失い、もう何も残っていないといわんばかりだとピルーノピは思ったが、話を続けた。


「では結婚しても?」


「うん」


「ありがとうございます父上!」


 ピルーノピは勇に抱きついて頬にキスをした。 


「ござーる!」


 勇はキスをされて舞い上がっている。

 この瞬間、自身が次期国王に決定しているとは、気づいていない勇であった。


 〇


 勇は、爺婆に事の顛末を伝えるために一度集落に戻った。

 ルナとマルスとカローラスは酒場で歓談している。3人そろってこうして飲めるのは久しぶりだったので、かなり酒が進み、3人とも酔っ払いだ。


「がはは! お前ら修行が足りんなぁ!」


 ルナが机を挟み対面するマルスとカローラスに手を伸ばし、ほほを抓った。


「うるせーよ、めちゃくちゃしてるっつの」


「そうだよ。大体あの勇って男の強さはなんなんだ」


 二人は言い返し、つねられた手を払う。


「ん~、私にもわからん。傷がついている所すら見たことがない。私のフルパワーのエクスキューショナーを勇殿が気絶中に打ち込んでも無傷だった」


 二人は目を丸くした。山を破壊するルナのフルパワーの大剣エクスキューショナーを食らって無傷など、あり得ない話だからだ。


「それは流石に冗談だろ。というか、王命でもないのになんでそんな酷いことしたんだ、とんでもない殺意じゃないか」


「い、いや! あれは不可抗力で___」


「なあ!……ルナも勇と結婚するってのは本気なのか?」


 ルナが勇の強さを説明しようとして思わぬ墓穴を掘り、弁解しようとしたのを、マルスは中断し問うた。


「……ああ、まあ。そういうことに、なるな。うん」


 ルナの女性らしい反応を始めてみた二人は愕然とした。

 マルスとカローラスはルナのことが好きだった。

 しかし、男二人はともに親友でもあった。告白をしていいのはルナを剣で越えた方だと決めていたのだ。両親を魔王軍との戦争で亡くし、孤児となったマルスとカローラスにとって、王直属の剣となるまでの道は過酷だった。そして、ルナの剣は3本剣の中でも、圧倒的な強さをしていた。

 娘を溺愛する王が、ルーインハイトへ出向くことを許可したのも、背に腹は代えられない面もあったが、ルナへの信用が大きい。

 二人が戦場で彼女に守られた数は数えきれない。いつか守ってやりたいと思い、二人は研鑽を積んでいた。

 それを、突然現れたあんなやつに……


「そっか……ううっ」


「おい、何泣いてんだよ! なんとか言ってやれカローラス、っておいおい」


 男二人はダバダバと酒を飲み、ルナを見ながら泣いた。


「ピルーノピ様が結婚するのがそんなに嫌か! わかる、わかるぞぉ。酒を追加だ、今夜は飲もう!」


「おう……」


「飲もうぅ……」


 ルナはマルスとカローラスと対面していた席から、二人の真ん中に割って入り座り、肩を抱いた。いつもなら嬉しいところだが、今夜だけは切なさを増させるだけだった。


「なんてしけたつらだァ! 酒がまだまだ必要そうだなあ! がはははは」


 〇


 次の日の朝。


「失礼します!」


 衛兵が息を切らし、ノックもなしに扉を勢いよく開き王の間へ入って来た。


「なに。いってみ」


 王はもう王としての自覚と尊厳を失っている。大事な大事な一人娘を限界集落の田舎者にとられただけでなく、一度も負けたことのない自慢のチンボウバトルでも負けたのだ。無理もない。


「は! 魔王軍がバイバムト、ドルーシャ、トルトン、ルーインハイト4か所を同時に侵攻したと情報が!」


「はぁ……え? な、なんじゃと! 至急戦士達を集めよ!」


 王は数刻のタイムラグと共に王としての責務と自覚を取り戻した。


【次回予告】

 ルナァアアア、こんなことなら告白だけでも先にしておけばよかったぁああ!

 いつまで泣いてるんだカローラスゥゥウ!

 お前も泣いてるじゃないかマルスゥゥゥウ!

 って、現実逃避している場合じゃないぞ!急いで水を飲め、戦闘配置命令だ!

 陛下からのご説明を拝聴するとピルーノピ様は青ざめたご様子でワープホールに向かわれてしまった。ルナとエリとマリもそれを追った。情報が入ってくるにはラグがある。もしや王都に勇を呼んでいる間に、勇の故郷が壊滅してたら……

 いや、どうだろうか、魔法での索敵だし、勇は夕方には戻っていたそうだぞ。

 だとしてもたった一人でルーインハイトを守りながら魔王軍と戦うなんて無茶だ!

 無事でいてくれよ、俺たちの大事なルナの旦那様になるんだからなぁ!


 次回!「城之内死す!!」


 絶対見てくれよ!

 待ってるからな!




 〇

 こんにちは、君のためなら生きられる。です!


 @darkoyabin様

 角鹿冬斗様

 @muzinn様

 @valota666様

 @kzrxk様


 星を賜りました!ありがとうございます!


 こちら新連載も始まっています! 

 是非合わせてお楽しみ下さい!


 推しのVtuberのために最強になったダンジョンゲームが現実に現れたんだが、モテすぎて困ってます

 https://kakuyomu.jp/works/16817330651469966249


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