第4話 ルナ殿は痴女でござる

 タルートリッヒ・まさるは、日の出の前にワープホール前でストレッチをしながら、ルナを待っていた。

 小鳥がさえずりはじめ、開脚した状態で無心を極める勇の肩に止まり羽を休めた。次第に山々の目覚めた小動物は勇の周りに集まり始める。気づけば足、腕、肩、頭、その周りは生き物であふれていた。

 勇はそれを気にもとめず、筋肉を伸ばした状態で静止し、精神集中を続ける。

 やがて、ワープホールが揺れたかと思うと、ルナが姿を現し、一斉に鳥たちが飛び立った。


「お、おはよう勇殿。お待たせしたようだな」


「ご、ござーる」


 ルナは純白のワンピースに身を包み、赤髪をカチューシャでとめていた。日の出の太陽と共に頬を染め、目を合わせずに挨拶をした。


「なあ、ござるってなんなんだ」


「敬語としての語尾にもなるし、感嘆詞にもなる便利なオタク語でござる。いや、本来は武士の道を極めた侍たちが」


「ああ、もういい。何言ってるのかまったくわからん」


「すまなんだ。それにしてもルナ殿、鎧姿とは打って変わって、ずいぶん可愛らしいおべべでござるね。拙者見惚れてしまったでござる」


「い、いやこれは、エリとマリが昨晩私をオモチャのように着せ替えてな、この格好で行けとうるさいから……」


「とっても似合ってるでござるよ」


「そ、そうか。筋肉質な太ももと腕が出ててな、私としてはあまり自信がないのだが」


「なんででござるか? 健康的で素晴らしいでござるよ」


「お、おう。そうか、そうか」


 只管にモジモジとするルナを勇はニコニコと見つめる。沈黙が流れた。


「……よ、よし! じゃあいくぞ修行に!」


 ルナは耐えきれず切り替えた。


「そうでござった。霊山に向かおうぞ」


 そういうと、勇は立ち上がり、クラウチングスタートで山頂へかけていった。


「な、速い! 速すぎるだろ! おーい待ってくれ勇殿!」


 ルナも勇に見習い肉体強化はかけずに走り出す。ワンピースは思いのほか動きやすく、それは不幸中の幸いだったが、勇の姿はとっくにみえなくなっていた。

 短距離での全力疾走と同じ速度をルナは維持するが、一向に山頂はみえてこない。すると、勇が音もたてずに下山して、突如目の前に現れた。顔と顔がぶつかりそうになる。


「うわあビックリした!!!」


「ルナ殿、遅いでござるよ。道に迷ったかと思い、迎えにきたでござる」


「悪かったな! すぐに行くから待っててくれ」


「いや、一緒にいくでござるよ。っほ」


 ルナは目を疑った。勇は小指で逆立ちをして、山を登り始めたのだ。


「さ、いくでござるよ~」


 勇はルナの背後に回り、進み始める。


「っく、負けてたまるかあああ!」


 ルナは己の限界を超えるべく、本気の全力疾走で山をかけ登る。


「ご、ござぁあ!」


 勇は気づいてしまった。逆立ちで背後に立つと、ルナのワンピースが翻る度に、ピンク色の可愛らしい下着がチラチラと見えることを。


「うおおおおおお!!」


「これは心の修行でござるね、心頭滅却色即是空」


 汗ばんだ太ももが交互に入れ替わり、ワンピースは踊る。段々とパンツは食い込んでいき、逞しく引きあがったがしっかりと脂肪のついた美しいお尻があらわになる。


「はぁ! はぁ! まだまだぁ!」


「こ、これは中々にキツイでござる!」


 やっとこのハンデをもってして根を上げてくれたかと思い、ルナは上機嫌になった。


「流石の勇殿もこの速度での逆立ち小指歩行はきつかろう!」


「い、いや、そんなことはないでござるよ!」


 ルナが振り返ろうとしていた。半勃ちでも異常な存在感を示す勇のエクスカリバーを見られそうになり、勇は一気にルナを追い越し、あっという間に見えなくなった。


「ぬぅぅぅうおおお!!」


 ルナは山頂に着くとひっくり返って呼吸を荒げた。山頂なので空気が薄い。いくら呼吸をしても、まったく酸素が足りない気がした。

 勇を見ると、日の出に向かい片足と片腕を上げ、微動だにせず静止していた。


「はあ……はあ……勇殿、お待たせした」


「ん? おお、お待ちしてもうした」


「はあ……はあ……悪かったな、遅くて」


 ルナは苦笑いをしながら、なんとかプライドで立ち上がった。膝に手をつくとワンピースの開けた胸元で、サラシから溢れるバストがみえた。下は褌ではなくパンツだったが、上は運動するためにサラシだったようだ。


「さあ次は感謝の正拳突きでござるよ。ちょっとやってみせるでござる」


「以外とシンプルな訓練なんだな」


 なんとか息を整えたルナは立ち上がり、腰をかがめ構えを取った。


「セイ! セイ! セイ! セイ!」


 ルナはライブの長渕剛のようにセイ!セイ!言いながら突きを出す。


「こうか?」


「うむ、悪くないでござる。だけど、速度と感謝が足りないでござる」


「何に感謝するんだ? この大自然か?」


「それもあるでござるが、やはり、武、そのものにでござるな」


「なるほど! そんな発想はなかった。素晴らしい教えだ、胸に刻もう」


 ルナは勇がH⚪︎NTER×HUN⚪︎ER、アイザック=ネ⚪︎ロからパクった名言を鵜呑みにした。


「ござござ。では、それを手始めに1万発するでござる」


「一万発?! 肉体強化をかけずにか?」


「ん? そうでござるよ。むしろ肉体強化のかけ方をしらんでござるから、教えてほしいでござる」


 ルナは冗談を言ってきていると思った。


「わかった。まずは勇殿の手本を見せてくれないか。勿論私の肉体強化術についても伝授しよう」


「いいでござるよ! 楽しみでござるなあ」


 勇はルナと少し距離をとり、深呼吸をすると、気組みを練った。ゆっくりと勇は正拳突きの構えをとった。


「ッッッッズァ!!」


 衝撃波が産まれ、山頂から大自然に拳圧が一万発はなたれる。ルナには毎秒165発放たれる拳は到底目視できず、ただ衝撃波が空を踊る様子を、茫然と口を開け眺めているしかできなかった。


「ふう、まあざっとこんなもんでござる、さあルナ殿も同じように」


「出来てたまるかぁあああああ!!」


 ルナはさわやかな汗を拭い当たり前かのように自分にもさせようとする勇の元にズンズンと歩み寄った。


「ござ!! な、なんで怒ってるでござるか?!」


 ルナはさらに顔を寄せ、勇の顔の近くで怒鳴る。


「あのな! 今のはな! 私だから! 本当に1万発打っているんだろうな~と! 推測出来ているだけで! ほかの者なら! 嘘つきだと! いわれている! ところだ!」


 人差し指で勇の顔をつつき、体を押し当てながらルナは激怒した。


「信じられる程度には動体視力のある私に、むしろ感謝してほしいくらいだぁああ」


 ルナは勇によじ登り体をギチギチと抱きしめながら怒りを表した。勇にダメージが入ることは勿論なく、ただくっつかれてドキドキするだけだった。


「ご、ござ。ではゆっくりやるでござるか?」


「……そうだな、頼む」


 冷静になるとルナは勇から飛び降り、腕を組んだ。いざ落ち着くと、抱き着いていたことが恥ずかしかったらしい。少しそっぽを向きながら勇を目線のみで見ている。


「では。 ズァ!!!」


 ノーモーションで打ち出される毎秒16発程度の正拳突きだ。10分の1まで速度を落としたそれは、今度はルナの目にもなんとか確認することが出来た。逆に現実感がわき、困惑する。


「ふう。ではルナ殿も今のを」


「だから出来ないっていってるだろぉおおお」


 またルナは後ろから組み付いた。


「ご、ござ! では何なら出来るでござるか?」


「……腹立たしいやつだ。 もういい、私の技をみて、指導してくれ!」


 ルナはええい!とワンピースを脱ぎ、地面に叩きつけた。


「ござる! 何をするでござるか」


 勇は手で顔を隠し、指の隙間からめちゃくちゃパンツを見た。


「ちょっとでも動きやすくしてるんだよ! 昨日もうサラシ姿は見ているだろう!」


「しかし、今日は下は褌ではないでござろう」


「……あ」


 ルナは忘れていた。可愛らしい下着を、どうせ見えないからとマリとエリに履かされていたことを。


「い、いや構わん。褌みたいなものだ」


 ルナは自分に言い聞かせるように早口で言った。

 私はピルーノピ様の剣。とっくに女は捨てた。昨日の恥じらいはむしろ恥。堂々と剣士らしくすれば、恥ずかしくなどないと。


「しっかり見て指導してくれよ!!」


 ルナは真っ赤に赤面しながら激怒するように言い、自分にとって最速の正拳突きを繰り返す。ふと勇を見ると、座禅を組み空をみていた。


「おい! 勇殿! 何してるんだ、ちゃんと見てくれ!!」


「ござ! いやそう言われても拙者には刺激が強すぎるでござるよ!」


「ならそういう修行だと思って、ちゃんとみてろ!」


 もはや痴女である。だがルナにとっては真剣であった。この恥じらいを捨てられなければ、ピルーノピ様の剣を名乗れないと本気で思っているのだ。


「むう、わかったでござる」


 勇は目をランランとさせ、眺め続けた。四肢を溢れる汗が白い筋肉質な体を流れ、太陽の光に反射しては散っていく。ワンピースを脱ぐとは思っておらず、着せ替えされていたためか、しっかりと固定できていなかったサラシが、スルスルと落ちていく。


「ご、ござ!」


「なんだ勇殿! もう音を上げたのか、私はこれっぽっちも恥ずかしくなんてないぞ! セイ! セイ!」


 半分ほどサラシが落ちると胸が一発撃つたびにぶるんぶるんと揺れ始めた。


「ご、ござーる!」


 勇は目玉が飛び出るほど揺れる乳房を刮目し続ける。その刺さるような視線に気づき、ルナは自らの体に目線を下げた。


「え? いやぁぁあん!!」


 もうサラシは乳首しか隠していなかった。ペタンと胸を抱えてしゃがみこんでしまう。そしてすぐにその行動をルナは恥じた。


「な、なにがいやんだ!! くそおおお」


 山をドシドシと殴り苦しみだす。とんでもない情緒と胸のゆれっぷりである。


「ござーる」


 先ほどから感嘆のござるしか言わなくなった勇を見ると、ルナは涙目で懇願した。


「勇殿、私のサラシを巻いてはくれないか!!」


「ご THE?!!?!?!?」


 勇は驚きのあまり、冠詞になってしまった。


「背中を向けるから、お願いだ。ほどけない程、きつくきつくまいてくれ」


 ルナはこのままでは、自分は乙女になってしまうと焦った。勇殿に力強く巻いてもらい、ほどけない状態でもう一度教えの通り正拳突きをしようと。


「頼む」


 ルナは立ち上がり背を向け、サラシを全て落とし、顔だけこちらに向けながら懇願した。


「いや、しかしそれは」


「私を剣士にしてくれ、勇殿」


 勇はルナの真剣さに負け、おずおずと近づき、サラシの端をとる。包帯のように細い生地で出来たそれを手に取った。


「そう、前に通してくれ」


 ルナは両手を上げた。勇は左手でサラシをわきの下に固定し、右手を背後からルナの前に出し、サラシを掴んだ。


「そうだ、鎖骨の下あたりから、きつくきつくまいてくれ」


 勇は興奮しすぎて返事を返すことはできず、ただ指示に従った。サラシを巻くときに、それごしにルナの爆乳の感触が伝わってくる。ルナの甘い汗の香りも混ざり、勇のエクスカリバーは天をついた。それはルナの食い込んだお尻と背中に押し当てられる。


「んん、勇殿まさか」


「す、すまぬでござる」


「……いや、いい。私が無茶を頼んでいるんだ。続けてくれ」


 勇はそのまま丁寧にかつ力強く巻き続ける。乳輪に触れた時に、ルナは小さな嬌声を上げる。


「んっ」


「はうあ!!」


「な、なんでもない! 続けてくれ」


 なんとか巻き終わったかと思ったが、きつく入念に巻いていたため、長さが足りなくなり、押しつぶされた下乳が丸見えになっていた。

 ルナはそれに気づいたが、勇がわざとやっていないこともわかっていたことと、これを恥ずかしがらないことが剣への道の一つだと思い、あえて堂々とした態度で振り向いた。


「勇殿、助かったって、おい。それ、大丈夫なのか」


 勇の股間はもう爆発するんじゃないか思うほど脈打っていた。収縮性のある服なので破れることはなかったが、股間から膝が生えているようだった。


「大丈夫じゃないでござる」


 下乳むき出しで風に揺れるルナの赤髪を見ると、勇はやはりこらえきれず鼻血を出し倒れた。


 〇


「っは! 知らない天井!」


「いや、自室だぞ勇殿」


 目覚めると勇は、エリとマリの交差膝枕で眠りについていた。


「おはようございます勇様。王への謁見にため、お迎えに参りました」


 ピルーノピが答えた。


「私たちが到着したら、ルナ様が鼻血を出した勇様を背負って山を下りてきてましたね、マリ」


「ええ、一体どんなことが起きていたのか、気になりますねエリ」


「ええい、静かにせい!」


「エリ殿、マリ殿、ルナ殿は痴女にござる」


 女性陣三人の目線が一気にルナに注がれた。


「ち、違う、私は剣の心を極めようと」


「ルナ、一体何をしたの? 正直におっしゃって怒らないから」


「ご、誤解ですピルーノピ様ぁああああああ」


 慌てるルナを、ピルーノピ、エリ、マリはクスクスと笑ったのだった。


【次回予告】

 皆さまごきげんいかがでしょうか、ピルーノピです。

 勇様とお会いできてから、近衛の皆との距離も近づいたみたいで本当に嬉しい毎日を送れています。勇様に感謝ですね。

 ですが、魔王軍との争いはなんら解決していないのは事実。勇様の妻となるべく努力することは当たり前として、まずはお父様に認めて頂かなくては。

 ですが、お父様ったら勇様早速斬首にしようとして、まあ大変!

 正式に勇様のお嫁様に私たちがなるか、勇様に王位を継いでいただかないと、この国の未来はありませんわ。傾くこの国を狙う他国の人類もいる状態で、私のことを一切みてくれない王子たちと政略結婚させられるなんてまっぴらごめんですの。

 なんとしても、勇様と結婚して愛し愛される人生をものにして見せますわ。


 次回!「城之内、死す!」


 絶対みてくださいませ。

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