第3話 彼女が4人に増えたでござる

「はっ! プリンセスハオ!」


 勇が目覚めると、そこは自室だった。服も着せられている。そしてなんだかいつもより枕が柔らかい。勇は枕を鷲掴んでみた。 


「ひゃん!」


「ござ! 枕が喋ったでござる!」


 飛び起き振り向くと、よだれを垂らしたメイド服姿の女性がいた。どうやら膝枕をしてくれていたらしい。


「あいや、そなたは馬車にいたメイドの氏!」


「おはようございます勇様。マリと申します」


 膝枕をしながらうたた寝をしていた時に出たよだれを拭きながら、マリは正座をなおし、頭を下げた。

 ボブの黒髪にツンと通った鼻筋。だが、目元はどこか幼く、そのギャップを引き立てるように主張しすぎないが豊満ではあるバストが、下げた頭の奥で揺れていた。 


「ござ〜〜〜る」


 鼻血の大量出血でショートしていた脳が、またもや下半身に血液が集まりかけることにより、勇はふらつき始めた。


「あらあら」


 勇がついに立ったまま倒れそうになると、何やら柔らかいものに顔が包まれた。


「勇様、まだ立ってはいけませんよ」


「ご、ござ〜る」


「エリと申します。お布団に戻りましょう」


 勃ってもいけないのだ。

 うつろな視界で手を伸ばす。バランスを取るつもりだったが、顔の横にある柔らかいものを掴んだ。


「あんっ」


「あ、エリ、ズルいですよ」


 マリはふらつく勇を後ろからおさえて、ゆっくりと布団に戻した。


「マリこそ、さっきまで膝枕をする権利を譲ってましたよね?」


 マリとエリは同じ見た目をしている。違いといえば、少しだけエリの方が胸が大きいことと、髪が長いことだ。

 双子の姉妹であり、こう見えて近衛兵に選ばれる戦闘力も高いメイドである。その証拠に、190cm筋骨隆々の勇を軽々と支えてみせていた。


「ピルーノピ様から最初に申しつかったのは私だったので。では、2人でさせて頂きましょう?」


「仕方ないですね。勇様、頭をあげますね」


 マリとエリは向かい合い、太ももと太ももを交互に挟み絡めて、4本の足で枕を作り、勇の頭をそこに乗せた。 


「いかがですか?」


「夢心地でござる……! しかし、なぜこのようなことをしてくれるんでござるか?」


「なぜって?」


 マリとエリは目を合わせてクスクスと笑った。 


「勇様が強いからですよ」


 上から覗き込まれる。甘い香りのする2人の息が当たる。 


「そういうものでござるか?」


「初めて敵じゃない方で、私達より強い男性にお会いできました。好きにならない理由はむしろ見当たりません」


 左右から手が伸び、優の頬に触れた。


「私たちにして欲しいことがあれば、何でもおっしゃって下さいね」


「な、なんでもでござるか?」


 勇は唾を飲んだ。7回ほど。 


「ええ。どんなことでも」


 勇の鼻息が荒くなっていく。勇が何かを要求しようとした時、家の扉がガラガラと開く音がした。


「エリ、マリ、何してるんだ?」


「珍しいこともあるものですね」


 ルナとピルーノピだった。ルナが破壊した土地の修復を終え、戻ってきたのだった。ルナは鎧を装着している。


「おかえりなさいませピルーノピ様、ルナ様。ご指示の通り献身的に看病をさせて頂いております」 


「太ももを絡ませた膝枕をしろとは言ってないがなあ??」


「これは、どちらがするかで喧嘩が起きそうだったので仕方なく」


「そう仕方なく」


 エリの弁解にマリが乗っかった。 


「どちらがするか? しなくちゃいけないかではなく? はっ、まあいい」


 ピルーノピとルナも勇の両サイドに座る。ルナが勇の手を取った。 


「勇殿、本当にどこも痛くないのか? 見た限りじゃ信じられないことに、完全に無傷ではあるが」


「大丈夫でござるよ。鼻血で血を失いすぎただけでござる」


「そうか……とにかく無事でよかった。本来許されるはずのない失態だ。勇殿の規格外の頑丈さに助けられたよ。ありがとう」


「いやはや、もうすでに良いものを見せて頂いたで候。礼には及ばんでござる」


「そ、そうか。出来れば忘れてくれ」


「ルナ、顔が真っ赤ですよ」


 ピルーノピが小さく指を差し笑った。マリとエリも口元を隠し、目を伏せて笑っている。 


「おい、マリ、エリ、笑うな!」


「ルナ様の乙女な面、初めて見ましたので」


「ええ、初めて見ましたので」


「そんなに普段は男勝りなんでござるか?」


「それはもう。でも、私は嬉しいのですよ勇様。ルナが私の剣士と決まった8歳の頃から女を捨て剣に生きて、いや生きさせてしまっていたので。それが……胸を見られて、きゃ、キャーッて」


 ピルーノピはもう最後まで話せないくらいに笑っていた。マリとエリはプルプルと震えている。 


「ピルーノピ様! もうお許し下さい!」


「何を言うのルナ、これからも沢山可愛いところ見せてくださいね」


 勇は双子のメイドに膝枕をされながら、キャッキャウフフする乙女たちの会話をボケーっと聞いていた。


「そ、それで勇様」


 ピルーノピが足をもじもじとさせながら、勇に話しかけた。


「なんでござるか?」


「私との交際を条件に王都に護衛に来てくださる、というお話でしたが、父上、つまり国王陛下に許可を取らなければ斬首になってしまうかと思われます」


「はー、それは大変でござるな」


「まあ、勇殿の首を切れる者は王都に居ないんだがな」


「ええ、ルナの剣がまったく通らないので間違い無いかと。しかし父上は大変堅物な方。常識を壊すようなことを伝えないと、謁見の機会さえお与え下さらないと思うんです」


「ほほう」


「ですので……ルナ、マリ、エリ、もし貴方達がよければ、4人全員でお付き合いをする、というのはどうでしょう?」


「ござ?!」


「ピルーノピ様!? いや、私は女を捨て剣になった身!そのようなことは」


「私は歓迎です」


「私も」


 マリとエリが手を挙げ、目を閉じ答えた。 


「あら、随分前向きなこと! 珍しいですね、男嫌いのお二人が」


「弱い男が嫌いだっただけです。ルナ様の奥義を気絶した状態で受けても無傷の男性より、強い方が今後現れることはないでしょう」


「お前達は馬車で待たせてたから見てないだろう!」


「ピルーノピ様から直接伺っております。自分の目で確かめるより信じるに値します」


「っぐ」


 ピルーノピへの信頼と、ルナの強さを認めた上での判断ということである。ルナは墓穴を掘ってしまい、言い返せなかった。


「では、ルナ以外の3人と」


「私もぉ!!……私も問題ありません」


 茹でたタコよりも赤く染まりながら、大声のち、小声でルナも答えた。


「ふふふ。では、決まりですね。勇様、よろしいでしょうか?」


「ピルーノピ氏は良いのでござるか?」


「ルナとマリとエリのことを私は自分のことのように大切に思ってますの。3人を大切にして頂けるなら、こんなに嬉しいことはありません」


 ルナ、マリ、エリがピルーノピを神を見るような視線で拝んだ。過去にここまでの人格者の王女が居ただろうか。命を賭してお守りすることを、再度胸に誓った。 


「みなが幸せであるなら、拙者は勿論いいでござるが……やはり基本的には拙者はこの集落に残るでござる。何か問題があればすぐにワープホールとやらで駆けつけるし、定期的に4人に会いに行くでござるよ」


「勇殿! しかしそれでは」


「ルナ!」


 ピルーノピは毅然とした態度でルナを制した。


「ありがとうございます、勇様。そうして頂けるだけで充分ピルーノピは幸せです」


「すまんでござるな。村の皆がやはり心配で、常に空けることは難しいでござる。わかっていただけて嬉しいでござる」


「ピルーノピ様は心配じゃないと言うのか?」


「ルナ殿が常にそばに居るでござろう」


 ボッと顔が赤くなる音が聞こえるようだった。


「ふふふ、勇様には敵いませんね」


「ルナ様、今ので完全に落ちましたね」


「強者と認めた者から任されることがルナ様に一番効きますものね」


「ええいうるさいぞエリ、マリ! 私はまだピルーノピ様と勇殿の交際も認めてはいないからな! 形式上は仕方ないとはいえ!」


「まあ、強情ですこと」


「まだ私は戦いに負けてはいませんから!」


「その通りでござる。ルナ殿は強いでござるよ」


 勇は本気でそう思って伝えたが、ルナの乙女心と剣士としてのプライドの両面をくすぐるだけだった。


「きー!!! 修行だ! 修行に付き合わせて頂こう! 勇殿よりキツい修行に耐えて見せようではないか」


「ござ! それは嬉しいでござる、いつも1人でしていたので。早速明日の朝、ご一緒しようでござる」


「ああ、望むところだ!」


 ピルーノピとマリとエリはやれやれ、と顔を見合わせた。 


 ○


 予め王国側で開いていたワープホールを限界集落の入り口に繋がる形で開いた。 

 ルナは明日夜明け前にここに来ると言い残し、4人は王国へ戻ったのだった。 


 王都につくと、急ぎ国王陛下の元に向かう。


「お父様、ピルーノピ只今戻りました」


 玉座に王が座り、正面にピルーノピ、その後ろにルナ、エリ、マリが膝をつき顔を下げた。


「よくぞ戻った、ピルーノピ。古代龍の協力は得られたのだろうな?」


「いえ、残念ながら古代龍にはお会いすることが出来ませんでした」


「で、あるか」


「しかし、強き者が集落を守護し、たった1人で周りの魔物を全滅させていました。名を勇と申しました」


「なんと! では、すぐに王都に呼び寄せるのだ」


「私もそう思い、王都に来ていただけないかお話したところ、条件があると」


「ほほう。褒美か? 金銀財宝なら好きなだけくれてやろうではないか」 


「いえ、私です」


「は?」


「勇様は、私との交際を条件としました」


「……ありえん。限界集落の田舎者が、余を愚弄しておるのか。王家をなんと心得ている……その者はもうよい、居ないものとせよ。今は魔王軍との戦争でそんな小物を相手にしている暇はない」


「いえ、私だけではなく、私とルナ、エリとマリも同時に付き合わせろと。そして私達は、そうしたいと考えております」


 ブチッ 


 王の堪忍袋の尾が切れる音が、確かに聞こえた。


「ピルーノピ、そのものを連れてこい。余が相応しいか直接確かめようではないか。もし相応しくない場合は即刻斬首とする。よいな」 


「はい。全ては国王陛下の御心のままに」


 作戦通り。ピルーノピは満面の笑みを返したのだった。


【次回予告】

 マリです。

 エリです。

 やっと私達の出番が来ましたね。

 そうですね。

 それにしてもルナ様のエクスキューショナーを生身で食らって無傷だなんて、勇様はなんとお強いのでしょうか。

 ええ、是非勇様の子をしこたま産みたいですね。

 こらこらエリ、ピルーノピ様とルナ様が先ですよ。

 わかっていますよマリ。二人を沢山勇様と接近させたり嫉妬させて、早く私達の番が回ってくるようにしましょう。

 そうしましょう。

 それにしても国王陛下をピルーノピ様は手のひらで転がしていて流石としか言いようがありませんね。

 ええ。それに引き換えルナ様は修行を共にして打ち負かすと言って夜明け前に飛び立ちましたが、明らかにメスの顔をしていましたね。

 ええ。お召し物もなんやかんや可愛らしいものを着て行きましたね。ピルーノピ様との行為の前に勢いでしてしまわないか心配です。

 ルナ様は勢いがあるお方ですからね。以外とグイグイ行くかもしれません。

 あらあら。

 おやおや。


 次回。


「城之内、死す!」


 絶対見に来てくださいね。

 約束ですからね。


 〇 

 クレジット

 第2話で

 @yp95様 @tamura0928様 北乃試練様 はづき様

 @Yuri_a23様 つかさ様 はちみつ様 @juugatu様

 alicia様 ぽぞ様 あけちゃん様


 から星を賜りました!ありがとうございます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る