第2話 国宝大剣 エクスキューショナーでござる

「勇様、この国が今どのような危機に瀕しているのか、御存じでしょうか?」


 ピルーノピは手を取ったまま目を見て話す。その上目遣いと手に触れる胸の感触で、勇の心臓は張り裂けそうなほど高鳴った。


「い、いや、拙者生まれてこの方ここから出たこともなく、国のことなんてまったく。いやはや申し訳ない」


「自分を責めないでくださいませ。むしろ国の加護が行き届いていなかったルーインハイトを守護して下さったこと、感謝申し上げます」


 ここ、ルーインハイトって言うんじゃな。と爺がぼやき、婆に黙っとれと肩を叩かれる声が聞こえた。

 勇を含め、限界集落の人間は森の中で孤立した部族のようになり、この場所がどのような地区に含まれ、それがどんな名前なのかも忘れ去られていた。

 取られていた勇の手は、さらにピルーノピの豊満かつ露出した谷間に押し付けられる。

 勇の鼻息は上がり続けていた。


「っあ。なにか当たってらっしゃるわ、なにかしら。 まあ!!」


 ピルーノピはにドレスが捲し上げられ、薄ピンク色した太ももの間、つまり股間に何かが当たり、小さな喘ぎ声をあげ、それをギュっと掴んだのである。


「天上天下唯我独尊!!!!!!」


 勇は体を反らし、おでこを手でおさえ、唇を尖らせ天に叫んだ。

 〇頭2:50が腕で作ったソレのを越えるそびえったバベルの塔の先端を、ピルーノピが掴んだからだ。


「ピルーノピ様ァ!!! その手を御放しください!」


 ルナはソレに気づくと一気に青ざめ、バベルの根元を掴みピルーノピから引きはがそうとした。


「おうふ!!!!」


 そびえ立つ男の勲章は、ルナに根元を握り押し込まれ、ピルーノピに頭を握られる。


「そんな薄情な! お召し物の中に大蛇が潜まれていたんですよ、私が手を離したら噛まれちゃいますわ!」


 ピルーノピは勇敢にもソレを掴み続け、引っ張る。ルナは説明するわけにも、ピルーノピを突き飛ばすわけにもいかず、ひざまづいたままソレの根元を押して距離を取らせようとするが、勇は緊張からか硬直し、微動だにしない。


「ええい、不敬である!! 勇殿、お覚悟を」


 ルナは背負っていた大剣を引き抜き、その根元近くに振り下ろした。が。


「なん___だと……!」


 ルナは目の前で起きていることを理解できなかった。

 体重を乗せず、魔法で強化したわけでもスキルを使ったわけでもなく、片手とはいえ、人体の急所と言える男性器が切断されることはおろか、鎧を砕く国宝である大剣、エクスキューショナーと鍔競り合ったのだ。


「FOOOO!! こ、これ以上の刺激はまずいでござる! さらば!」


 勇はそう言うと、慌てて霊山に走っていった。


 〇

 勇は滝に打たれ心頭滅却を終えると、集落に戻った。人だかりは勇の家の外に移っている。気まずい勇は扉を薄く開けて覗いているとアマンに怒鳴られた。


「あんたバカァ? お姫様がお待ちよ、早く入りなさい!」


「ござ!」


 背中をバシっと叩かれ、勇は家に入ってしまう。ピルーノピを上座、その隣にルナが座り、勇の作ったイノシシのスープと、集落自慢のお茶が振舞われていた。


 「勇様! 大蛇は逃がせたのですね、心配していました」


 「あいやピルーノピ氏、あれはアナコンダではなく穴知らずでござる」


 ピルーノピは首を傾げた。ルナは強く睨みつけてから告げる。


「それ以上何も言うな……まあ座れ」


「よいのでござるか?」


「よいもなにも、私たちがおじゃましているのですよ」


 ピルーノピは無邪気に笑った。勇のために用意されていた座布団の前に手を伸ばして誘導した。ルナは怒ってはいた。しかし、勇の男根の脅威の耐久力から戦闘力の高さを読み、図らずとも一目置かれるきっかけを得ているのだった。

 勇はなぜ一国の王女に勃起した陰茎を押し付けたにも関わらず許されているのか理解できないまま、指示に従った。


「それにしても美味しいですね、ここのお食事は」

 

 ピルーノピはホロホロになったイノシシを頬張った。


「お口にあって何よりでござる」


「ああ、うまい。悔しいがな。勇殿が霊山の湧き水を汲んでいるらしいな」


 ルナも茶をすすり言った。爺と婆がどうやら説明してくれていたらしい。その湧き水で育てた野菜と、煮込んだスープとお茶は、王家の肥えた舌をも唸らせた。婆がお茶とスープを勇の前にも運んだ。


「いやはやお恥ずかしい。婆様、ありがとうでござる」


「うんにゃうんにゃ。あとは若いもんで、ひひひひ」


 婆は怪しく笑い、お盆を持って下がった。また扉の隙間から爺と覗いている。勇はスープを一口で飲み干した。その豪快さにピルーノピは驚いた。


「まあ凄い勢い!」


「ピルーノピ様、真似してはいけませんよ」


「わかっていますよ、ルナ。勇様、それでは本題をお話させて頂いても?」


「お、そうでござった」


 ピルーノピは背筋を伸ばし、真剣なまなざしで告げる。


「まず、状況の説明をさせて頂きます。このルーインハイトを除いて、残る3つの拠点と王都以外の国土は、すでに魔王軍に占領されてしまいました」


「なんですと! それは誠でござるか?」


 勇は驚き立ち上がった。

 この集落の平穏ぶりからは想像できないほどの危機具合だったからだ。

 長ズボンのルナが大剣で作ってしまった切れ目から、勇の陰部の一部が見えていた。ルナはそれをチラチラと見ながら言う。


「ああ。むしろこの集落が無事だったことが信じられないくらいだ。ここの霊山は太古龍が守護しているとの噂でな。藁にもすがる思いでその龍の元へ来たのだ」


「ですが、人々に聞き込みをすると、魔物を倒しているのは勇様だと伺って、今に至るわけです。そこでお願いがあるのです!」


「ござ!!」


 ピルーノピはまたまた無自覚に勇の手を取り胸に押し当てた。


「勇様、王都にお越しいただけませんでしょうか?」


「ござ~、しかしここの皆の生活の手伝いもあるし、すぐにお返事は___」


「この集落と王都を結ぶワープホールを設置しますので、いつでもお帰り頂けるようにします! 他にもわたくしに出来ることがあれば、なんでも致します」


 強く強く手を握られる。


「なんでも、でござるか?」


「はい、どんなことでも」


 二人は見つめ合う。ピルーノピはどんな要求が来るだろうかと唾を飲んだ。


「では拙者、可愛いピルーノピ氏とお付き合いしたいでござる」


「……え?」


 ピルーノピは少しの沈黙の後、手を離し後ずさった。耳まで顔を真っ赤に染めて、頬に手を当てている。

 王家の第一王女にとって、人生で初めて告白された瞬間、それどころか好意を向けられた瞬間だった。

 国家同士に必要な政治がらみの、他国の王子たちとの面識はあったが、どれも欲に満ちた権威から好意のフリを向けているだけだった。それがわかる程度にはピルーノピは鋭く、そしてそれゆえに、勇の言葉に権威を欲しいがままにするためにピルーノピを利用したいという心が一切ないこともわかってしまった。


「おい貴様ァ!! ふざけるのも大概にしろ!!」


 驚いたルナはもはや半笑いで剣を抜き勇に向けた。それだけ在り得ないことなのだ。限界集落の田舎者が、第一王女への交際を申し込むことは。


「ひえ! だってなんでもするって言ったから……やっぱり嫌でござるよね」


「嫌じゃ……ありません」


 シュンと項垂れる勇に、顔を染め両手を頬を当てたまま、目を大きく見開きピルーノピは呟いた。


「ピルーノピ様!?」


「私、初めてなんです。可愛いと仰られて、嘘偽りない好意を向けた殿方は」


 もうピルーノピは照れから勇を直視できずに、横眼で答えた。


「くぅううう! 勇殿、外に出ろ! 本気の私に勝てないようでは断じて認めんからな!!」


「そんな! ルナは王国でトップ3の剣士なんですよ!」


「私に勝てないようでは国を守ることはできません! いいな勇殿!」


「ご、ござ~る」


「ござるってなんだ! はいか、いいえで答えろ!」


「ふぉ! は、はいでござる」


 勇はあまりのルナの剣幕に恐怖し、つい、はいと言ってしまった。


 〇

 ピューと風が吹く。勇は心でジャガーとつぶやいた。

 集落の広場で勇とルナは対面した。人だかりができ、さながら闘技場だ。ピルーノピはハラハラと二人を見つめている。


「おい、剣と防具はどうした」


「え? ないでござるよ」

 

 ルナは怒りから顔を痙攣させ、ヒクヒクと笑った。


「随分となめられたものだな」


「本当にないんでござるよルナ氏~!」


 勇は両手を前に突き出し、IKK〇のようにどんだけした。


「もういい、合わせてやる」


 ルナは大剣を置き、鎧を脱いだ。なんということでしょう。先ほどまでゴツい印象だったルナは、たくみの脱ぎっぷりを見せた。包帯のようなサラシで胸は締め付けられ、ふんどしとポニーテールの赤髪が風に踊る。外野の爺達から茶色い歓声があがった。


「ルナ殿?! なんと卑猥な格好をするでござるか! 目のやり場がありすぎるでござる」


「お前がいけないんだろうが! それに私はとっくに女は捨て、ピルーノピ様を守る剣となったのだ! 構えろ!」


「ご、ござ!」


「研ぎ澄ませ英霊よ、わが声に応えその威を示せ! 【剣舞・乱れ咲】」


 ルナが詠唱をすると、全身が発光し、その周りを花びらが舞い始めた。

 肉体強化の呪文だ。


「ふぉおおおおおお! 魔法! すごいでござる!」


 勇が初めて見る魔法にはしゃいでいると、ルナはたった一歩で距離を詰め、全体重を乗せた拳を振り上げ___


「……なぜ避けない」


 寸止めだった。いくら大剣エクスキューショナーで切れない強靭な男性器の持ち主とはいえ、短詠唱の中では最上級の肉体強化をかけた状態で、一般人を殴ることは、ルナにはできなかった。


「なんでって、当てるつもりござらんかったから避けなかっただけでござる」


 勇はキョトンとしていた。勇の野生動物との戦闘と魔物との死闘で養われた殺気を感じ取る能力は、常人のそれをはるかに超えていた。ルナは渾身の殺気をのせていたつもりだ。それを避けもせず、寸止めであることをわかって避けないなど、到底信じられない芸当だった。


「……甘く見ていたのは私の方だったようだな。次は当てる。勇殿も早く肉体強化を」


 ルナは拳を収め、勇を一人の戦士と認めた。


「いや、そんな凄いこと出来ないでござるよ」


「なに?! ええい、まあいい」


 ルナは肉体強化も解いた。


「これでいいな?」


「なんでもいいでござるよ!」


 勇はファンタジーの世界にこれたことを実感出来て、心を躍らせた。しかし、ルナはその言葉に逆なでされる。


「後悔させてやる……行くぞ! ダァ! ぐあああああああ」


 ボキ、っと骨が折れる音がした。ルナが本気で打ち込んだ拳は勇の鋼鉄よりも固く重い腹筋に直撃し、逆にルナの拳と腕の骨を折ったのだ。


「ルナ氏~! 大丈夫でござるか」


 勇はひょこひょこ飛んで慌てふためいた。


「【治癒の風】」


 ピルーノピが詠唱すると、ルナの体を風が吹き抜ける。骨折はすでに完治していた。


「も、申し訳ありませんピルーノピ様」


「ふぉおおおお!! 治癒魔法! すごいでござる!」


「もう辞めましょうルナ」


「……私は剣士だということを思い知らされました」


「ルナ!」


「これでダメなら諦めます。殺しはしません」


 ルナは大剣を抜いた。ピルーノピは心配そうに勇を見つめる。勇はワクワクしている様子を隠すことなく見つめていた。


「研ぎ澄ませ英霊よ、わが声に応えその威を示せ!! 【剣舞・乱れ咲】」


 ルナは鎧を身にまとわずに剣を振り上げ肉体強化を詠唱した。明らかに先ほどよりも込められた魔力量が違い、花びらは竜巻のように体の周りを舞っていた。さらに大剣にも魔力は込められたようで、黒かった巨大な刀身は赤く染まっている。

 ピルーノピは集落そのものが破壊される心配から、老人達の前に、戦う二人を囲む防御壁を張った。


「勇殿、これまでの非礼を詫び、我が最強の剣技の一つでお答えしよう! 腕一本は持っていかれる覚悟を!」


「では拙者も、一つ技をお見せするでござる!」


「ほほう! ならば先を譲ろう! その技ごと叩き切ってやる」


 風が吹きすさび大地は揺れる。大きく腕を顔より上げ大剣を構えるルナに対し、勇は揺らぎ、構えを取った。


「ではお言葉に甘えて。こぉぉおおおおおお___ズァア!!」


 拳に気を練り込み、集中力が重なったところで打ち出した。つまるところ、毎日1万発、朝に打ち込んでいる正拳突きの一発である。その拳圧はルナの全身を襲った。


「ぐっ! なんという威力ッ! 腕が動かん!」


 振り上がった腕が、拳圧で振り下ろすことが出来なくなり、ルナは驚愕した。身を守るための緩衝材となっている肉体強化の障壁と、花びらたちが舞い上がっていく。ついには両腕は真上に振り上げられてしまう。

 それでもルナは渾身の力を込めて剣を振り下ろそうとする。何かがブチブチとちぎれる音がした。


「ああああ! 勇殿ぉ! しかと目に焼き付けよ!」


 ルナは笑った。もう勇は格下ではなかった。その力を認め合い、いや、認められたいと思えるほどの相手だった。ルナは見せたいと思い、そう叫んだ。


「ルナ!」


 ピルーノピは口を抑え叫んだ。勇はアナコンダをおっ立てながら鼻血を噴いて倒れていた。


 ルナが皆の視線のあたり、自分の体に目を落とすと、拳と自らの肉体強化術に耐えきれなくなったサラシが千切れ、隠された張りの良い爆乳を曝け出していたのだ。

 それを認識したと同時に、拳圧が収まった。


「キャー!!!」


 ルナは女の子らしい悲鳴を上げ、刀身からあふれ出すほどの魔力を無意識に注ぐ。天に白目を向け超勃起する勇の顔面に、勢いのまま最強状態のエクスキューショナーを打ち込んでしまった。


「はっ! しまった!!」


 ルナは打ち込んだ大剣が勇と接触すると、正気を取り戻した。が、時すでに遅し。数多くの魔王軍を一振りで破壊してきた王家の剣は、最大魔力を持って勇の顔面で爆発した。


「勇殿ぉおおお」


 自らおこした爆発で吹き飛ばされ、転がる途中に大地に剣を突き立てなんとか耐えたルナは、片腕で胸を抑え女の子座りで叫んだ。


 爆発が止んだ。隕石が落ちたあとのようにえぐれた大地の中心に勇は裸で倒れていた。


「ああ、勇殿、私はなんてことを!」


 ルナとピルーノピは駆け降り頬に触れた。反応がなかった。


「勇様……申し訳ありません、私が止めなかったせいで」


 ピルーノピはルナを責めることなく涙を流し天を仰いだ。ルナは何も言えずに血の気を引かせ、後悔に打ち震えて目を瞑り同じく涙を流した。


「……ルナ殿、ピルーノピ殿」


「勇様?!」


「勇殿?!」


 二人は声をそろえた。勇を見ると親指を立てていた。


「ルナ殿、そなたの爆乳、言われた通り、しかと目に焼き付けたで候」


 そういうと、よくみるとの勇は、もう一度鼻血を流し気絶するのだった。



【次回予告】

一体なんだというのだ、勇殿のあの強さは!

私の全身全霊を込めた奥義を鎧も肉体強化もかけずに受け、まったくの無傷だと?

ピルーノピ様はより勇殿にお熱のようで、困ったものだ。

こ、これは私が勇殿が、強さだけでなくいい男なのかを確認する必要がありそうだ。

まずは武術の訓練と称して、いやいや、それは本当に目的として。

鍛錬に参加させてもらおうじゃないか。

決して勇殿の強さに惹かれたとかではないからな!

っておい、馬車で待たせておいたマリとエリまで興味津々じゃないか、私は認めないからなあああ!


次回!


「城之内、死す!」


絶対見てくれ!


クレジット

donguri様 久史家市恵様 赤城ハル様 キウイ/マルマル様 @No_name_1978様

@OMURAISU04様

第一話までに☆を賜りました、ありがとうございました!

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