限界集落で育った童帝オタク、王都の美女達に毎日口説かれるけどスローライフを送りたい

君のためなら生きられる。

第1話 デュフフ、若いおなごでござる

 タルートリッヒ・まさるは鳥が鳴くより早く起きる男であった。

 特段理由はなく、生前の癖が転生後も抜けないためである。


 勇はせっかく目覚めたので日課を始めることにする。

 爺と婆が息をしているのを確認した後、上の服を脱ぐ。

 そしてそのまま霊山の頂上へ駆け上り、感謝の正拳突き、上段突き、下段突き1万発をこなす。

 その後、滝に打たれ汗を流しながら若いおなごにモテたいと大自然に祈る。

 乾燥した木を手刀で割り薪を作り、朝食の木の実を摘まみ食いしながら下山した。


 95年間アニメ漫画オタク一筋で大往生した魂は、今世では魔族と人間が争うファンタジーの世界に産み落とされていた。

 しかし、それはスキルを与えられ俺TUEEE出来るものではなかった。

 限界集落に捨て子され、両親の代わりに育ててくれたタルートリッヒ家の爺様と婆様への恩を返すべく、今日も汗を流すのだった。


 とはいえ、大自然に囲まれ、水や食事はおいしく、田んぼが広がるこの集落での生活を、勇は大変気に入っていた。

 魔法のある世界のようだが、こんな田舎の極みに魔導士やそれを指導してくれる者はいない。勇の友達と教師は、大自然の全てと前世のアニメ知識だった。

 自ら思いつく限りの範囲で魔法と気の研究を重ね、山で当時みたアニメの技が再現できないか訓練し続ける。

 もう集落には戦える者がいないからだ。定期的に魔物が侵入しては、単騎で撃退してきた。ここ数年は、一切そういった襲撃もなく安全なのが不幸中の幸いだが、常に備えのため、趣味と実益を兼ねて鍛錬は怠らなかった。


 そんな勇も、気付けば35歳になっていた。とはいえ、限界集落では最年少。率先して災害で壊れた家の修復や、必要な薪や食料などを皆に配っては感謝される日々に、生き甲斐と充足感を得ていた。


 問題があるとすると、若い女性が居ないことくらいだろうか。

 勇が思春期を迎える12歳の年の頃、女性の最年少は隣の家に住む、57歳のアマン・アママンだった。現在御年80歳。120歳が平均寿命の世界とはいえ、なかなかに厳しいものがあった。


「ちょっと勇! あんた私の下着盗んだでしょ?」


 アスカ・〇ングレーのようなテンション感で、薪を持ち帰宅した勇に、アマン(80)は言った。見た目は腰の曲がっていない日本の80歳と同じである。


「ア、アマン氏! 拙者はそんなことしてないでござるよ?! 濡れ衣でござる!」


 勇の前世は断じて武士ではない。太古のオタク口調が抜けないだけである。

 二人の様子を育ての爺婆は、若い者はいいわねーあらあら、と言わんばかりに草葉の陰と言う名の家の扉を半開きにして、ほくそ笑んでいる。それが勇にはつらかった。


「ああ、もう太陽がこんなにも昇っているでござる! 拙者、感謝の下段蹴り、中段蹴り、上段蹴り、ドロップキックをしに霊山に向かうので、いざさらば!」


「あ! 待ちなさいよ勇! 毎日毎日、何に感謝してるのよぉ?」


 無論、武への感謝である。

 薪と集落全員分の朝食になりそうな木の実や果実を置くと、体操選手のようにバク転とひねりを加えながら、霊山を登っていく。

 山頂から見渡す景色は、1日に何度みても、一生飽きないであろう絶景だった。

 深呼吸をして気組みを練る。全身の筋肉を鋼のように練り上げ、熱した飴細工の如く繊細に、そして静かに集中力を高めていく。


「ッッッッダァ!」


 一瞬時が止まったかと思うと、毎秒165発の蹴りが放たれる。約1分間で1万発。徐々に早くなる勇の無手は、人の限界を超えていた。全工程を4分で終えると、若いおなごにもてたいと祈りながら滝に打たれ汗を流した。

 

下山時にイノシシを見つけた勇は、山の恵に感謝しながら痛みを感じる間も与えずに手刀で狩り、血抜きした。


「今日は特大のイノシシが獲れたから、皆喜ぶでござるなあ」


 勇は逆立ちをして、人差し指のみで下山した。足にイノシシを乗せ運ぶ。


「爺様、婆様、イノシシが獲れたでござるよ」


 自宅の前に着き声をかける。いつもなら孫を可愛がるようにすぐ出てきて調理を始めてくれるが、返事がない。勇はイノシシを置き、逆立ちを辞め空中で翻り立ち上がった。


「爺様? 婆様?」

 

 家の中を探すが、どこにもいない。


「まさか、魔物の襲撃!?」


 勇は外に出ると、限界までかがみこみ、一気に跳躍した。

 50Mほどの高さまで一瞬で到達し、集落を見下ろす。

 すると、入口に人だかりがあり、馬車がみえた。

 何やら来客があるようだ。この世界にきて35年、初めての外界との交流だ。集落はお祭り騒ぎなのか、ほぼ全員が客人の元に集まっていた。

 空中で気組みを練り直し、そこに停滞し状況を確認する。

 すると馬車のそばに、大剣を背負った鎧を着た者と、メイド服のような服をきた20代前半に見える女の子が2人居た。


 「お、おなごでござる!!! 初めて見た、この世界にも若い女子は存在したんでござるねデュフフフフフ」


 こんな田舎の限界集落に来るような子だ、下流貴族か何かかもしれない。

 とはいえ歓待になるに違いないと勇は考え、薪をくべ、鍋に水を移し、中に野菜とイノシシを入れ煮込み始めた。竹筒を通して息を送り火の強さを調整していると


「ちょっと、何してるのよー! あんたバカァ?」


 アマンが息を切らし話しかけてきた。


「おお、アマン氏。何やら皆騒がしいご様子なので、食事の準備をしているで候」


「そんなことしなくていいわよ! あんたに会いに200年ぶりに集落の外から、お客様が来てるのよ! 早く上の服を着て会いに行きなさい!」


「ええ? でも拙者この集落からでたことないでござるよ? なのに拙者に会いにきたなんて」


「いいから早くいきなさーい!」


 アマンは勝手に家に入り、シャツを取ると勇に無理やり着せた。年さえ離れていなければ、幼馴染とのイチャつきに見えるシーンも、35歳と80歳では中々にキツイものがある。

 無理やり着替えさせられた勇は背中を叩かれる。勇はアマンをお姫様だっこし、急いで現場に向かった。アマンは雌の顔をしている。細かい描写はよしておこう。


 二人はたどり着き、アマンを下ろすと、勇は集落の人々をかき分け前にでた。

 すると、先ほど馬車から出てきていた二人の女性が勇を見ると、馬車の中に声をかけた。


「デュフ」


 今世では初めてみる若い女性にくぎ付けになった。うしろからアマンの視線を感じるが、気付かないフリをする。

 大きく胸元のはだけたメイド服を着ている女性二人の谷間を見ていると、鎧を着た者がヘルムを脱いだ。朱い長髪が風に揺れる。凛々しいが、どこかあどけなさが残る女性だった。

 190cm筋骨隆々の勇の前に立つ。165cmほどだろうか。それでも圧されることはなく、堂々と声を発した。


「私はリュシード王国 ピルーノピ様専属近衛隊隊長 アルムンド・ルナである。あなたが人々の言うこの集落の守り人、タルートリッヒ・勇でまちがいないだろうか」


「デュフ。守り人なんで大仰なもんじゃござらんが、拙者がタルートリッヒ・勇であることは確かでござる」


「この辺り一帯の魔物が完全に淘汰されていますが、勇様が御一人で討伐されたんですの?」


 馬車から女性が出てきて、挨拶もなしにそういった。メイド服を着た女性2名と剣士ルナは慌てて膝をつき目を伏せた。


 女性は18歳ほどだろうか。金髪を赤いリボンで結い、青い瞳をしていた。顔は小さく氷のように透明感があり色白だ。胸元の開いた服装であることは他2名の女性と同じだが、メイド服というよりかはドレスのようだった。


「はあ。そうでござるが。最近魔物がいないと思ってござったが、もう皆倒していたとは知らなかったでござる、デュフフ」


 それを聞き終わるか否か、その女性は勇に駆け寄り、手を取った。


「ふぉお?!」


 その手を女性は自らの胸を無自覚に押し当てた。息が顔に触れる距離だ。

 勇は前世でも女性経験がなかった。合算130年の童貞である。まさしく童帝と言えよう。

 女性の手ごしに感じる女体は、直接触れていなくとも、激しく興奮を覚えるには十分すぎる材料だった。


「勇様! どうかこの国をお救いいただけないでしょうか?」


 背伸びをして顔を近づけられ、若い女性に免疫のない勇は押されている。


「あいや、その拙者何が何だか」


 女性はその言葉にはっと冷静になると一歩さがり、胸に手を当てドレスの端をつまみ持ち上げ、膝を軽く曲げて頭をさげた。


「ピ、ピルーノピ様! このような田舎者に___」


「ルナ! なんて失礼なことを! 恥を知りなさい!」


「申し訳……ございません」


 ルナはピルーノピが行った挨拶の作法を見ると慌てて声を上げたが、食い気味に一喝され勇の前に慌てて跪いた。

 ピルーノピは再度勇の目を見ると、同じように先ほどの挨拶の作法を見せ告げる。


「ルナの非礼をお許しください。わたくしリュシード王国 第一王女 リュシード・ピッピ・ピルーノピと申します」


 周りで見ていた村人たちが、その言葉に驚き声を上げ、一斉に膝をついた。

 

 死ぬ前に王女様を拝める日が来るとは、わしゃ幸せ者じゃぁ、と泣き出してしまうものもいた。

 それをみて勇も慌てて膝をつき、顔を伏せる。


「お、お姫様とはつゆしらず、失礼しましたでござる」


「おやめください勇様!」


 再度手を取り勇を立ち上がらせると、同じように胸に手を当てた。今度は指に直接胸が触れている。勇は全神経が指先に集中し、今世初めての女体の柔らかさに感動していた。


 目と目が合う。近くで見れば見るほど、前世のテレビ上でも見たことのないような美少女だった。


【次回予告】

 ッファーーーーー!!!!(HiC)

 突然現れたお姫様に胸を押し付けられたかと思ったら、この集落以外の全ての領地が侵攻されて滅亡寸前だから、王都にきてほしいなんて言われて拙者驚き桃の木山椒の木でござるぅぅうう!!

 でもでも集落の爺様婆様のことも心配だし、お断りしようと思ったら、なんでも願いを聞いてくれるというではないでござるか!

 これは若いおなごを祈り続けた拙者へ、大自然からのアンサー?!

「ピルーノピ氏が付き合ってくれるなら」なんて言ってみたら、剣士のルナ氏が激おこプンプン丸で決闘に?!

 拙者の人生、これからどうなっちゃうんでござるぅぅうう??!


 次回!


「城之内、死す」 


 絶対読んでくれでござるぅう!!!



 〇

 作者挨拶

 4300文字もある第一話のご愛読、まことにありがとうございます!

 君のためなら生きられる。と申します。

 少しでも面白い、続きが気になると思っていただけた方は、小説のフォローと星で応援いただけると幸いです!


 そしてそして! こちらも合わせてお楽しみ頂けると作者が踊って喜びます。

【今世ではもう騙されな……凄いおっぱいと尻だ〜童貞おっさん、ハーレム無双出来るまでタイムリープして王になる〜】

 https://kakuyomu.jp/works/16817330649446361153


 それでは第二話をお楽しみくださいませ。

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