Interlude

 絶叫を背景に電話を掛ける。一コールが切れる前に相手は電話にすぐに出た。


「もしもし、血脇です」

「お疲れ様です。彼の様子は?」

「明日には退院するそうです。レポートの存在を知らなかったようで絶叫が聞こえてきます」

「それは良かった。言わないでいた甲斐がありました」

「しかし、本当に良かったんですか? 

「ええ、何も問題はありません。教育委員会もどんな手段を使ってでも彼を巻き込めという指示でしたし、そもそも今回の事件の発端は彼が去年起こした事件のせいだ。その後始末は彼がしなければね」

「だから小倉天音に個人情報を盗んだのをわざと見逃したと。あの時止めていれば被害者を守れていたんですよ!!」


 確かに事件の始まりは去年に和島が引き起こした事件がきっかけだが、事件が進展したのは小倉が個人情報を盗んだことが原因だ。生徒の個人情報を盗まれるのを阻止していればこんな事件は起こらなかった。被害が出る前に止めることが出来た事件だった。


「勘違いしているようですが、今回の被害者は去年色々暴れてくれた生徒たちだけですよ。手伝いをさせられた子たちにはカウンセリングが必要ですが、今回の被害者は去年のツケが回ってきたんだ。自業自得だ」

「それでも俺たち教師が守るべき生徒です」

「違います。私たち大人の手を振り払い、自由を求めた人間です。生徒じゃない。自由を求めるならそれなりの対価が必要で、彼らはその対価を払っただけ。守るも何も無い」

「しかし」

「誰のお陰で和島君を助けられたと思っているんですか? あのまま放置していれば彼は間違いなく死んでいた。それは私も避けたかった。だから、貴方に和島君の位置情報を教えたのです。私は貴方に情報を教えた。ならばその対価として貴方は私の意見を尊重する義務がある。これ以上貴方が何かを言う権利は何処にもありません。――ガラケーは後で貴方が回収しといてください。彼が気づいたら面倒だ」

「……」

「何はともあれ、小倉君と和島君のお陰で去年の後始末に全て肩がつきました」

「……どこまでが貴方の思い通りに? 警察も今回の一件を防げなかったとして署長は辞任。末広町のパトロールに当たっていた警察官も数名降格、もしくは異動になったと聞きました。これも予想通りですか?」

「ええ」

「何故警察まで? 貴方に関係があるとは思えませんが」

「君にそれを知る権利はない。です。話は以上ですか? なら今日はそのまま直帰して頂いて構いません。お気をつけて」

「……失礼します」


 電話はすぐに途切れた。


 事件は確かに解決した。小倉を止めることが出来、和島は去年の後始末をした。文句の言いようがない結末だ。だが、何とも言えない後味の悪さがあるのは何故だろう。


 病院から出ると外は霧が辺り一面を白く支配している。その先はまだ見通せない。霧から抜け出すのはまだ先のようだ。

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