10.5 Who is he?

 台風の芽がいなくなり、店に残ったのは揚げ物の香りだけ。他に居たお客さんもその香りに中てられ、すっかりと酒と京楽を忘れ大人から腹を空かせるただの人間に戻ってしまっていた。


 次々と俺も食べたいな?という注文が続々と入り、今この時間だけ霧灯はスナックから食堂に様変わりしてしまった。


 注文が続々と入り、ママ一人では裁き切れなくなったこともあり、美紅にも調理補助を頼むことにする。この子の手際には目を見張るものがある。だからこそ、この店を任せられるわけだけど。


「こうなるから嫌だったのに……」

「ごめんね。けど、お客さんが食べたいって言ってるんだ。申し訳ないけど、ちょっと付き合って?」

「もう」


 文句を垂れながらも美紅は手慣れたスピードで調理をしていく。その手際を見て、ママはやっぱり拾って良かったと自分も手を動かしながらそれ以上のスピードで調理してく。まだまだ若輩者には負けられない。美紅はミートソースを時折鍋の底で焦がさぬように時々混ぜながら少し興味のある表情でこちらを見てきた。


「ねぇママ、聞いても良いか分からないけど……」

「あの子のことかい?」

「うん。あの子とママはどんな関係なの? 失礼かもしれないけど、ママが高校生の男の子とその……普通に話すなんて絶対にしないでしょ。だから、普通に話しているのを見て、ビックリした」

「そう? 結構話してると思うけど……」

「普段のあれは話してるとは言わないの。あれは金を引っ張るための半ば脅しだよ」

「……そっちの方が失礼じゃないかい?」

「それにしか見えないもの」

「あれは脅しじゃなくて、お姉さんのアドバイスだよ」

「ううん、魔女の甘言だね」

「魔女ねぇ……」


 その言葉も久しぶりに言われた。前なら言われた時点で叩きのめしていたが、今はそんな事もあったなぁくらいで受け止められる。私も丸くなったものだ。


「それで? どんな関係なの?」

「被害者と加害者。これ以上でもこれ以下でもないね」


 雄介と私の関係はシンプルなこの言葉で表せる関係だ。この言葉以上に表現しているものはないし、お互いの認識としてもこの言葉が一番適している。


 それを聞いて美紅は顔をしかめて


「……余計分からなくなってきた」


 と説明を欲する言葉を投げてきた。けど、私としてはこれ以上説明する気はない。そんなに手軽に話せる話でもないし、私も軽々と話したくはない。


 言葉を続かせない私を見て、説明する気はないと悟った美紅は


「じゃあ一番気になっているんだけど、あの子は一体何なの? 内情とかそういうのを分かってて聞いてくるって普通じゃない。話をほんの少し聞いてただけで意味深な単語がいっぱい出て来てたし……」


 これだけは答えてもらうと少し声圧を高めて聞いてきた。その質問を聞いて思わず笑みがこぼれてしまう。この町にまだそんな質問をする人がまだいるとは思わなかったからだ。


「美紅が末広に来たのは半年前だっけ? なら知らないのも無理はないね」

「?」

「雄介はただの高校生だよ。ほんの少し巻き込まれ体質な……ね」


 そして、守りたかったものを守れず、それ以外全てを守ってしまったあまりにも救われない男の子。

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