1-4 Help someone else.

 講座が始まって約四時間が経過した。今のところ滅茶苦茶にキツイ。講座内容は何とかついていけている。問題は雰囲気だ。ギラギラと誰かを打ち負かすための勉強をしているという雰囲気が教室中に充満しているせいか、妙に疲れるうえ、気分が乗らない。勉強することは大事だ。だけど、それは誰かを負かすための勉強じゃない。受験勉強と学校の勉強は全く違う。それを改めて実感させられた。


「疲れた……」


 筆記用具を持ち、精神に鞭を打って自分の教室に戻る。今は昼休憩の時間。疲弊した脳に栄養を補給する大事な時間で、リラックスするべき時間だ。対策講座の教室では絶対にリラックスできない。むしろ疲れを溜めてしまいそうだ。それは休憩とは言わない。ただの拷問と言うのだ。


「あんなところで飯なんて食べたらどんなに上手くても味は感じられないし、そんな所で飯を食うなんて俺にも、飯にも可哀そうだ」


 飯といっても今日の俺の飯は購買のパンだ。早起き出来たら弁当でも作ったんだが、今日はそんな時間は無かった。久しぶりに購買で楽しもう。


 スラックスのポケットにはいつも小銭入れを入れている。いちいち財布を取り出すのが面倒臭いからよほど大きな買い物をしない限り俺は財布を持ち歩かない。小銭入れは財布よりスペースを取らないし、何より持ち運びが便利だ。


 中身が入っているかどうかを確認するために小銭入れを開けるとそこには大量の百円玉が入っていた。これだけあればパンの一つや二つは余裕で買える。


「よし」


 ピーク前に購買へ行けたら本当は良かったが、講師はきっかりと時間を使って授業を終わらせた。購買へのスタートダッシュが遅れたらその時点で終わり。一瞬で購買は長蛇の列が出来上がる。こうなってしまったら時間を開けてから購買へ向かうしかない。


 というのも購買のおばちゃんが一人で昼飯を求め野生化した高校生を相手にしているのだ。多少時間がかかるのも無理はない。それに文句を言う奴は一度接客業を体験した方が良い。


 少し時間を遅らせて向かった購買には数人が列を作っていた。この人数ならすぐに買えるはずだ。列に並んで待っておこう。


 購買は教室の空きスペースを使ってパンや弁当、飲み物を販売している。食品は大抵の物は売っているが、文房具とかは一回も見かけたことが無い。あったら売れそうなもんだけどな。


 列は少しずつ短くなっていき、気が付けばもう俺の番。今日の気分は甘いものが食べたい。此処の購買はオーソドックスなパンだけでなく、シフォンケーキやブラウニー等のスイーツ系も販売している。しかも値段もそこまでしない。学生にとってありがたい話だ。コンビニでスイーツを買おうとすると大体一個三〇〇円くらいはする。けれど、購買で買えば一個一五〇円か二〇〇円ほどで手に入る。学生にとって値段は安ければ安いほど良い。浮いた分は遊び代に回せるからな。


 久しぶりに会った購買のおばちゃんは変わらず明るい笑顔で接客に勤しんでいる。おばちゃんは俺が見えたのか、明るい笑顔を一層眩しくして俺に接客を始めた。


「いらっしゃい! 久しぶりに来てくれたのかい?」

「どうも、最近はあんまりお金が無くて、弁当を持参してたんです。でも、久しぶりに此処のパンが食べたくなったんで」

「あら、そうなの?嬉しい話だね。最近はどうなの?」

「ぼちぼちですよ。そこまで忙しいって訳じゃないんで」

「そうかい」


 俺の言葉を聞いて、購買のおばちゃんはさっきまでの笑顔を徐々に曇らせて浮かない顔を浮かべた。明るさの化身のおばちゃんがそんな顔をするのは初めて見た。その顔に違和感を覚えた俺は聞かずにはいられなかった。


「どうしたんです?」

「いや、その……聞きたいことがあるんだけど今時間は大丈夫かい?」

「まぁ、話聞くくらいなら大丈夫ですけど……」

「良かった……。お礼にパンを一つご馳走するよ」

「ありがとうございます。それで? 話って?」

「最近ね、息子が妙な連中と絡んでるみたいでね……。学校も最近は行ってないの。行かせようとしたんだけど、息子ももう高校一年生。力で追い払われちゃった。そんな事をする子じゃ無かったんだけどなぁ」

「反抗期に入ったって事ですか?」

「ううん、話は聞いてくれるの。反抗期なら話も聞いてくれないでしょ? 話は聞いてくれるんだけど、それ以上に何だろう、切羽詰まってるみたいなそんな感じだったの」

「切羽詰まってるって……一体何に?」

「それが分からないの。だから最近何かあったのかなって」

「……俺が何かしたみたいじゃないですか……」

「一応聞いておこうと思って」

「えぇ……」

「だって、こうも聞きたくなるよ」

「勘弁してくださいよ……。もうただの学生ですよ」

「本当に?」

「ほんとですよ。最近は何にもしてません。家にいるか、バイトに行くかのどっちかです」

「じゃあ何も知らないの?」

「ええ、残念ながら」

「そっか。まっ、仕方ない。もうちょっと息子に話しかけてみるよ」

「頑張ってください」


 少し冷たいかもしれないが、俺に直接関わることじゃない。切羽詰まってるって言っても勉強だったり、友達作りかもしれない。それらは赤の他人の俺には解決できないものだ。家族に相談するか、自分で相談相手を見つけるしか解決方法は無い。それに、購買のおばちゃんとは面識があるものの、その息子さんは話でしか聞いたことが無い。そんな俺が急に会いに行って


「やぁ、一体どうしたんだい?」


 とは聞けない。そんな歯を輝かせて他人を颯爽と助けるアホにはなりたくない。想像も出来ないし、考えたくもない。その役割は俺ではない。


「時間取らせちゃったね。パン何食べるんだい?」

「じゃあシフォンケーキとカボチャあんパン。あっ、あとザンギバーガー」

「はいよ。一番高いザンギバーガーはサービスにするから、三五〇円ね」

「これで」

「一五〇円のお返しね。また話を聞いて欲しくなるかも知れないけど、大丈夫?」

「聞きたいことの間違いでしょう……。まぁ、時間あるときなら全然良いですよ」

「優しいねぇ。それじゃあね」

「はい、また来ます」


 思わぬ戦利品が手に入った。食べたかった甘いパンが手に入るだけでなく、五〇〇円という高校生から見たら充分に高級で、滅多に買えないザンギバーガーまで手に入った。これがまた美味いんだよなぁ。


 しかし、息子さんの話は少しだけ気になる。高校に入って妙な連中と絡みだしたか……。それだけ聞くと嫌な予感しかしないな。それに、話は聞くが、それ以上に切羽詰まってるってのはあまり良くない状態かもしれない。そういう時は大抵……。


「待て待て、何考えてるんだ俺? そういうのはもう辞めたろうが」


 今俺がするべきことは手に入った戦利品を楽しむことだ。断じて悩むことじゃない。そんなことを考えてパンを食べるのはパンに失礼だ。


 余計な寄り道をしかけた頭にリセットをかけ、本来の目的である食事に思考を戻す。思考を戻すと腹は空っぽなのを思い出したかのように、自分でも驚くくらいの音を廊下中に響き渡らせた。


「……早く食おう……」


 これ以上の我慢は無理だ。このままだと床のコンクリートにでもかじりついてしまう。ワックスが塗られていてマズいのに、わざわざかじりつきたくなんてない。口にコンクリートを詰めてしまう前に早くパンを詰め込もう。


 教室に戻ると半分ほどが教室に戻ってきていて、それぞれ弁当や菓子パンを食べていた。その中には友達と談笑しながら弁当を食べている学の姿もあった。


「よっ。一時間目には間に合ったのか?」

「うん? あぁ、雄介か。間に合ったよ。お前は?」

「余裕のよっちゃんだよ」


 パンを開封しながら学たちの近くの席に座る。道中にカフェオレも買っておいた。飯の準備に抜かりはない。近くに座ると、学と話していた坊主頭が笑いながらこちらを見た。


「おいおい、進学組がこっちに来て良いのかよ?」

「何だよ五十里いかり、こっちに来ちゃダメなんてルールはないだろ?」

「いやいや、てっきりこの時間もお勉強してるんじゃないかなと」

「勘弁してくれ。あんなのが昼休みも続いたらノイローゼになっちまうよ。気軽に飯が食えるような雰囲気じゃないし、なんか知んないけどバチバチ火花が散ってるし」

「バチバチって……そんなに張り詰めてるのか?」

「張り詰めてるというか、同じ空間にいるから分かるんだけど、皆真剣に取り組んでるんだよ。それを近くで見てたら、何だろうな。教室にいるのが気まずくなってな」

「気まずくなるって……。寒いギャグでもかましたか?」

「お前は俺をそんな奴だと思ってるのか?」

「お前ならやるだろ」

「確かにそうだな」

「学まで……」

「能天気なお前が気まずくなるってことは、何かしら引け目を感じてるんじゃないか?」

「負い目? 雄介が? 何で?」

「それは雄介の方が分かってるだろ? まさか、分からないとは言わないよな?」


 俺の心を読んだかのように学はさらりと俺の気持ちを言い当てた。長年の付き合いがなせる業なんだろうな。俺が言い当てられたくないことも学にはすぐバレてしまう。


 口が余計な事を話してしまう前に、カボチャあんパンを口に詰め込む。そうでもしないと、丸裸の心が口からそのまま出てしまいそうだ。


 かぼちゃアンパンは舌を砂糖で支配するのではなく、かぼちゃ本来の甘みで舌を支配した。砂糖単体では決して表れない深い甘みが舌にじんわりと広がっていく。舌に広がっていく感覚を感じながら、学の指摘に対してどう答えようか考える。


 自分でも分かっている。分かっているからこそ質が悪い。引け目を感じているという事は自分自身が持っていない物を自覚しているという事だ。少人数教室だったからこそ余計に強く感じてしまった。これが大人数の就職組ではきっと何も感じずに終わっていた。血脇は俺に引け目を感じさせるために進学組の講座に俺を入れたのではないかとつい邪推してしまう。もしそんな狙いがあって俺を講座に参加させたのだとしたら性格を矯正した方が良い。そんなことは無いだろうが、それでもつい考えてしまう。


 口にしたパンをカフェオレで胃に流し込む。舌に残る甘さはカフェオレで流され、マイルドな苦みが舌に匂いとともに残る。


「分かってる。分かってるけど、あいつらみたいに一生懸命になって他人を蹴落とすために勉強なんて俺には出来ない。それをするだけの理由がないし、第一失礼だよ」

「誰に対してだ?」

「勿論、一生懸命に勉強している人に対して。まだ俺は何も決めてないんだぜ。そんな俺が自分の進路を決めてる奴らの中に入ってたらそりゃ気まずく感じても可笑しくはないだろ」

「じゃあさっさと決めてしまえよ」

「そうだよ。要するにまだ進路が見定まってないからそんな引け目を感じてるんだ。雄介なら進学で就職でも選べるだろ?」

「選べるけどさ……」

「なら」

「ストップ。今は昼飯の時間だろ? 今の時間にこの話は止めようぜ。色々とキツイもんがある」


 休憩しに来たのになんでわざわざ自分の精神に鞭を打たなきゃならないんだ。自分でも考えないといけないのは分かってる。けど、それは何も今じゃなくても良いはず。


 今はただ飯が食いたい。それ以外何も考えたくない。


「まぁ、最終的には雄介が決めることだし、お前が今は良いっていうなら俺たちは何も言わないけどさ」

「助かる」

「でも、お前も分かってると思うけど何時までも逃げられないぞ」

「ああ、あと一週間で何とかするさ」


 俺がそういうと五十里と学は互いに顔を見合わせ、二人同時にそれぞれの鞄から財布を取り出した。


「五十里。焼肉食べ放題なんてどうだ?」

「焼肉食べ放題か……。結構ヒリつくな」

「こっちの方が面白くなるだろ?」

「なるけどさ」

「???」


 焼肉食べ放題? なぜ急に出てきた? 俺がいない間に今日の帰りに寄ってく飯屋の場所でも決めてたのか? しかし、焼肉は流石に帰り道に寄る店としては重いと思うんだが。


「帰りに焼肉でも食って帰るのか? お前ら元気過ぎるだろ」

「いんや」

「じゃあなんだよ?」

「賭けに決まってるだろ」

「賭け? なんの?」

「五十里。お前どっちが良い?」

「無視かい」

「迷ってるんだよな……。工藤は決めてるのか?」

「ああ、こいつの性格的にはこっちしかないと思う」

「それじゃあ工藤の反対側に賭けようかな」

「じゃあ五十里は決められるだな」

「お前それって雄介は決められないと思ってるのかよ。ひでぇな。長年の付き合いなんだろ」

「いやいや、長年の付き合いだからだよ。こいつがたかが一週間で決められるとは思わないな」

「お前ら失礼って言葉知ってるか?」

「失礼? 習ったか?」

「いや? そもそもそんな日本語あったっけ?」


 学と五十里はそれぞれの理解できないと言った顔で首をかしげている。


「……お前らのクリスマスプレゼントは辞書で決まりだな」

「クリスマスにそんな余裕があるのか?」

「……それは言うなよ……」


 シフォンケーキの封を開け、手に取る。シフォンケーキはしっとりと柔らかく焼きあがっており、軽く指で押すと俺の指を微かに押し返してくる。


 それを見てそのまま口に詰め込むのが勿体なく感じてしまってシフォンケーキをちぎって食べることにした。かすかに砂糖のべたつきが手に残るが、後で洗えばいい。


 ちぎって感触を楽しみながら口に放り込むと舌の上でふんわりとした食感と卵と砂糖の甘さがちょうど良い具合で広がる。この柔らかさと甘さのバランスがちょうど良く仕上がっているのが流石としか言いようがない。一度家で再現してみようと頑張ったんだが、このクォリティにまでどうしても近づけない。柔らかすぎるとベチャりとしてしまい、甘すぎると卵の甘さが消え、砂糖だけを食べているような味になってしまう。今度おばちゃんに作り方聞いてみよう。


 シフォンケーキを楽しんでいると五十里がそう言えばと前置きを置いて気になる話をしてきた。


「そういえば、最近末広の方が騒がしくなってるらしいぞ」

「末広町が? またかよ」


 学は辟易とした様子で顔を面倒臭そうな表情で染めている。学の表情がそうなってしまうのも分かる。末広町は俺たち学生にとってあまり寄り付きたくない街なのだ。商店街等があるエリアから一本道を間違えると末広町はアンダーグラウンドな雰囲気が広がっている。その落差が末広町そのものを表している。学生が末広町についてあまり良い印象を抱かないのはそれもあるが、あそこは怖い先輩が沢山いるのだ。それも色んな方面に顔が聞くそれはそれは怖い先輩が。


「しかし、何でまた騒がしくなってるんだ? 一年前くらいに起きた不良共の乱闘騒ぎで大方末広町を仕切ってた奴らは捕まったはずだ」

「らしいんだけどね。また警察が忙しくなってるみたいだ。そして奇妙なことも起こっててるみたいで、事件自体は起きてるんだけど警察が現場に来る頃には被害者も、被疑者も全員消えてるんだって」

「消えてるって……。確かにそれは変だな。末広町は乱闘騒ぎの件から警察が常時パトロールしている。その目を潜り抜けるのは不可能だということはありがたい馬鹿が証明してくれただろ」


 一年前に起きた乱闘騒ぎ。きっかけはほんの些細な物だった。末広町は商店街がある末広町1丁目を除くとおおよそ三エリアに分けられる。


 水商売が集中しているKエリア。飲み屋が集中しているSエリア。そして、末広町を支配していた大人が経営している事務所があるRエリア。これらのエリアはそれぞれ均衡を保っていたが、突如Rエリアの首長がK、Sエリアのみかじめ料の徴収を始めた。当然K、Sエリアの首長たちは納得が出来ないから拒否をする。その結果始まったのが公には乱闘騒ぎと発表されている三エリア同士の抗争が始まった。


 K、S同盟対Rエリア。それはもう凄かった。言葉に表しても良いのかと思うほどだ。見渡す限り全員が殴りあったり、絵空事だと思っていた銃で撃ち合っている。辺り一面は血に汚れ、汚れていない場所を探す方が難しいほどだった。結局、警察がK,Sの首長を逮捕、Rエリアのボスは死亡。最後には機動隊が乱闘を止め抗争は終わりを迎えた。


 その後、警察が末広町のパトロールを常時行う事になり、幾らか治安は良くなっていった。この抗争のせいかもしくは、抗争のおかげかお互いにお互いの領域には踏み込まないといった暗黙の了解が広まっていった。


 そんな事件があったため末広町はあまり寄り付きたくないのだ。幾分か治安は良くなったとはいえ、警察はそこら中にいるし、遊ぶ場所もない。あるとすれば事件性がありそうな問題だけ。学生は近づかない方が利口だ。


「そう。おかしいんだよ。警察がそこら中にいるはずなのに、何かしらの問題が起こっていて気づけない。変な話だろ?」


 シフォンケーキを咀嚼し、飲み込む。またカフェオレを一口飲み、胃に流し込む。空っぽになった口で気になったことを五十里に聞いてみる。


「監視カメラは? 乱闘騒ぎで結構な台数のカメラが設置されたって聞いたけど」

「おっ!! 良い所に気が付くね。俺もおんなじことを思って親父に聞いてみたよ」


 五十里の親父さんは警察に勤めている。始め五十里と会ったときは親父さんと親子関係が悪かったみたいだが、最近はその関係も修繕されているみたいだ。良かった、それなら俺も骨を折ったかいがあるってもんだ。


「けど、これまた奇妙なことに監視カメラは全部視界外から破壊されてたんだ。それで監視カメラは全部お釈迦になったみたい」

「全部?」

「そう。全部。視界外から破壊されたもんだから犯人は分からずじまい。税金の無駄遣いになって親父は来年の予算が恐ろしいと震えていたよ」

「それは何時破壊されたんだ?」

「おいおい、結構機密を話しちゃってるんだけどまだ聞くか?」

「話始めたのはお前だし、今更だろ?」

「それもそうか。今更だが他言無用だぞ。学もな」

「勝手に話しといて勝手に約束かよ……」

「五十里がこういう奴だってお前も知ってるだろ?」

「知ってるけどよ……」


 肩をがっくりと下げて学はやれやれと言った顔で約束は守るよと言う風に首を頷かせた。


「じゃあ話せる部分としては最後な。それで何時破壊されただっけ?」

「ああ」

「なんとビックリ一か月前」

「……嘘だろ?」

「事実だよ」

「信じたくねぇ……」

「同じく。安全保障どうなってんだよ」


 予想としてはつい最近三日前とか遅くても一週間前だと勝手に予想していたが、一か月前か。大分マズい状況だな。この件がニュースにもなっていないという事は警察が必死に隠し通そうとしているという事だ。ガチの機密じゃん。


 学も同じことを思ったのかぐったりとした顔で学をジッと見つめていた。


 その視線を感じたのか五十里は両手を挙げて


「おいおい。聞いてきたのは雄介だろ。俺にそんな視線を向けないでくれよ」

「俺に責任転嫁するな。だったら話さなきゃよかったろ」

「いや、聞かれたら答えなきゃな。それにお前ら約束は守るだろ?」

「まぁな。というかこんな話教室でしていいのかよ?」

「まぁ、良いんじゃね。どうせ知ったところで出来ることなんてたかが知れてる。他の人が友達とのおしゃべりに夢中になってることを祈ろう」

「運任せかよ……」


 とんだ休憩時間だ。教室に設置されている時計を見ると時刻は一三時二五分。そろそろ昼休憩も終わりそうだ。ザンギバーガーは家に帰ってから食べよう。鞄に突っ込んでカフェオレを飲み切る。空っぽになったカフェオレをゴミ箱に捨てて準備を始める。


「もう行くのか?」

「流石にな。遅れては行きたくないし」

「そうか、じゃあ頑張れ。気まずくなっても逃げるなよ?」

「頑張る」


 準備を終わらせ、学と五十里に手で挨拶だけして教室を飛び出す。あと二時間だけ頑張れば帰れる。気力を振り絞ろう。心の中でそう決意する。

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