第11話
- ネクロ11話 -
白蛇の両手に握る木刀に自然に力がこもる。
緊張の中、集中力の糸を紡ぎ魔力を探知する。
少女の一挙手一投足が手に取りようにわかった。
(絶対ここで斬り倒す)
魔力を探知すると少女は左手を腰の方へと伸ばし、片手で何かのポケットを開けて円筒形の何かを取り出した。
(一切の魔力を放っていない……なんでしょう……握る手の形からして筒状のもの……リレーのバトンの様なものでしょうか?)
形状はある程度推測できるが一切の魔力を放っていないため正確な形はわからない。
少女はそれをペンを回すような動きで、回転させしっかりと握る。
(何をする気なのでしょうか……あの道具はなんでしょう、爆弾でしょうか?)
少女はそのまま握った円筒形のてっぺんに親指を押し付けた。
油を刺した機械のような金属同士のぶつかる小さな音ととも強烈な魔力が放たれた。
その魔力はこの世界に来てから感じたどの魔力よりも上である。
(ッ!! あんなに大量の魔力をどこから!?)
直後考えるより先に白蛇は走る。
白蛇の少ない経験から言うと、魔力の量と魔法の威力は比例しており、ここまで膨大な魔力が爆発などのエネルギーに変換されるとおそらく白蛇は跡形もなく消え去ってしまう。
そうなれば再生することは出来ないかもしれない。
(チャンスを手放すことは惜しいですが、命さえあれば新たな勝機も見出せるでしょう。命あっての勝利ですからね)
少女は膨大な魔法を放つ筒をライフルに挿入し、ドアに向かって構える。
限界まで体に魔力を流す。
「ぶっ飛べにゃ!」
カチリと引かれた引き金と、同時に放たれたのは閃光、続いて圧倒的な熱量。
円筒形の物体が所持していた魔力は一瞬で直径2メートルのビームへと変換され白蛇の居る会議室を消しとばす。
発射の衝撃で少女か壁に打ち付けられるが、魔法で強化された肉体には大きなダメージは無さそうだ。
「また逃したにゃぁ」
壁から離れて、部屋を覗きながら少女は呟いた。
高温に包まれたその部屋の扉はなくなっておりドロドロに溶けた金属は真っ赤な輝きを放っている。
それを見た者はそこが会議室だったとは到底思えないだろう。
そんな部屋を眺めながら、ライフルの側面に取り付けられたレバーをコッキングするかのように低く。
チンッという高い音と共に、光を失った紅のカケラが入ったガラス管が射出される。
熱を持ったシリンダーが地面に落ちると、そのガラス管の蓋部分から小型のシャッターのようなものがおりる。
少女はそれを拾ってポーチにしまった。
◇
危なかった、判断が遅ければ確実に死んでいた。
胸を撫で下ろし、次の行動を考える。
膨大な魔力を察知して窓から飛び降りた、ここはビルの2階部分。
身体強化魔法と鬼の眼を使い下の階の窓の淵に掴まってなんとか2階に転がり込んだのだ。
この部屋は事務室だろうか、程よい広さに、大量に置いてある個人用のデスク、それに上にあったものと同じデザインの椅子が置かれている。
(しかし……どうすれば……二度も同じ手が通用するとは思えない。それにあの攻撃……向こうも決着をつけにきたんでしょう……数が足りなさ過ぎますね)
とりあえずの手数を確保するため屋上の骸骨らを、非常階段から外回りのルートで呼び寄せようと指示を与える。
(どうにかこの戦力で勝つ方法は……ああもう! もっと僕が強ければ! まだだ! まだ負けたくないんですよ!)
感情につられてわずかに白蛇の魔力が乱れた。
自分の非力さを悔やみ歯を食いしばる。
次の手を探してみるが有効な手は見つからず、非情な現実はどんどん白蛇を追い詰めていく。
不安をかき消すため、少しの間思考を放棄し骸骨の方に視界を移した。
(何を……何をやってるんだ!?)
視界を覗き見するとそこでは目を疑うような光景が広がっていた。
同士討ち。
骸骨達が互いの武器で殺し合いを始めている。
すでに複数の骸骨は倒れ魔力に変わり始めている。
(なんで!? どうしてこんなことになっているのでしょうか? コレがアンデッドの性質なのでしょうか? そんなことよりまずい……この状況はかなりまずい……ここで数を減らされると数少ない勝ち筋が、さらに少なくなってしまう)
止まるように指示するが奴らはそれを聞かない。
直後、天井から高出力の魔力を感知する。
「まずい」
机の上を手をついて飛んで渡り、最短経路で事務室らしき部屋を飛び出す。
直後、熱風と同時に強い光が降り注いだ。
天井には直径2メートル程の大きな穴ができている。
(追ってきたのか……)
「やっほー、きちゃったにゃ」
おどけた声で出来たての穴から少女が舞い降りた。
直後ライフルをこの部屋の出口に向かって構える。
その動きとほぼ同時に白蛇は横に転がった。
特徴的な金属音で放たれる圧縮された魔力。
先程白蛇がいたところにはハンドボール程のクレーターが生まれる。
「熱で銃身が曲がっちゃったかにゃ? 帰ったら謝らにゃいとにゃぁ」
少女は銃身を見つめた後、光り輝くシリンダーを、ライフルについたレバーを弾いて側面に押し込む。
一連の動作を終えると少女はそのライフルを背中に担いだ。
その後、ホルスターからハンドガンタイプの魔法銃とナイフを引き抜く。
「早めに倒さにゃいとにゃ」
廊下を駆け抜けて、白蛇に飛びかかった。
それを小太刀で凌ぐと後ろに飛び距離を取る。
(まずい……とっさに下がったのはいいものの……さて、どうしましょうか)
始まったのは一方的な攻め。
高速で迫る斬撃をなんとかいなして戦闘を続ける。
もしここで手や足を失い、再生出来るまでの一時的な戦闘不能に追い込まれたのなら、さっきの砲撃で焼かれて死ぬだろう。
そのせいで攻撃に転じらず、押され続けている。
「消極的だにゃぁ、そんにゃことしても少しの間命が伸びるだけにゃ」
狭い廊下の中では太刀を振るうことは出来ず、白蛇は小太刀のみで戦う事となっている。
そんな白蛇を相手に少女は踊るような鮮やかな動きで白蛇を攻め立て、押し込んでいく。
足に触れる固い感触。
階段である。
白蛇に生まれた一瞬の隙を少女は見逃さなかった。
鋭い痛みと共に、白蛇の体勢がぐらりと揺らぐ。
揺らいだ視界の中で見えたのはライフルに手をかける少女の姿。
死を直感し、目を瞑る。
死に直面した状態の時間の流れはこんなにも長いのかと思わされる。
だが、白蛇は死ぬことはなかった。
一撃は放たれない。
恐る恐る目を開けると、驚いた表情で固まる少女の顔が見えた。
戦闘中だということも忘れて、白蛇も少女の視線を追った。
「にゃ……」
現れた2メートル強の巨体を持つ骸骨。
頭には錆びた兜を被り、ボロ布を腰に巻きつけている。
右手には赤茶の波打つ剣、左手には金属製らしいシンプルな丸い盾を持っている化け物。
「なんだ……これ」
白蛇と少女を頭にぽっかりと開いた2つの窪みから獲物を品定めすると、ゆったりと動き出した。
白蛇の横を素通りし少女に向かって歩き出す。
「にゃんでこんにゃ奴がいるんだにゃ!」
二人が呆然とする中、少女の前に立った死の剣士は大きく剣を振りあげた。
天井をパワーで破壊して無理やり振り上げたそれを少女は見届けた。
(にゃッ! まずい!!)
我に帰った少女は後ろに飛び退いた。
風を切り裂き、技もクソもない力だけの剣が振り下ろされる。
振り下ろされた刃は床を砕く。
(凄まじ威力ですね)
少女は床に手をついて勢いを殺す。
そして、なれた手つきでライフルを捨てると、拳銃を構えた。
狙いもろくにつけぬまま、その巨体に向かって何度もトリガーを引く。
連続で発射された閃光は、円形の盾に弾かれ無数の光のチリに変わった。
(そろそろ僕も戦いましょうか)
白蛇は楽しそうな表情を浮かべて、少女の前に躍り出た。
少女は真剣な目つきでナイフを逆手に構えて出方を伺っている。
白蛇は助走をつけ思い切りの突きを放つ。
一人なら大きな隙のできる大胆な攻撃だ、だがその攻撃に躊躇はなかった。
その後隙を埋めるような抜群の連携で力任せの横凪が走る。
二人の連携攻撃に押されつつも応戦する。
(勝てる! 勝てる! だが今度は油断しない、確実に仕留める!)
細心の注意を払い、攻撃一手一手を正確に追い詰めるように打ち込んでいく。
なんとか少女は二人の連携攻撃をいなしているものの表情は曇っていく。
(このままじゃ押し切られるにゃ)
少女は後ろに飛び退き、呼吸を整える。
やはり白蛇は少女を追って前に出た。
(かかった、ここで仕留めるにゃ!)
突如、少女は両手に持つナイフと銃、それぞれを床に捨てた。
あまりにも唐突な行動に白蛇の視線は落とされた武器に釘付けとなる。
少女は全身の魔力を注いで身体強化魔法を強めると、自分の出せるトップスピードで白蛇の方へ走る。
(まずい武器に気を取られたせいで、迎撃が間に合わない!)
白蛇は木刀を振ろうとするが、鬼の眼で引き伸ばされた時間でそれを察知する。
(今できることは、被弾時のダメージを最小限に、そしてカウンターを合わせる! 相手は武器を捨てた状態だ素手で自分を殺せるとは思えない)
少女が向かってくるなかで、思考をまとめる。
だが、その計画が甘かったとすぐさま思い知らされた。
そもそも思い込みとは怖いもので、よく見れば気づけたはずの可能性を除外してしまうものだ。
白蛇はその無意識を呪った。
少女の武装はナイフと魔法銃それぞれ一つのみだと無意識のうちに思い込んでいたのである。
少女がショルダーストラップに右手をかけた。
手をかけたのはプラスチック製10センチほどの直方体を握りやすいように削ったような見た目をしているもの、ナイフのグリップである。
走りながらグリップを掴んでナイフを引き抜いた。
ナイフの銀色に輝く刀身には何やらこちらの世界の文字が刻まれている。
切先を白蛇に向け少女は全速力で走る。
「タァ!」
右手から繰り出したナイフを、白蛇は胸で受けた。
本来ならば致命傷となるはずの傷もこの体の前では戦闘不能になるようなダメージにならない。
肺に血が流れている事に対する不快感と強烈な鋭い痛みに目を瞑れば、両手両足が動くので反撃が可能である。
(このまま、倒させて貰いますよ!)
次の瞬間、少女はナイフに魔力を注ぎ出した。
注ぎ込まれた魔力は、刀身に刻まれた文字をなぞっていく。
この短いナイフに刻まれた文字には、シンプルな術式が込められている。
(これは!?)
刹那の間に術式は少女の魔力と反応し、小さな爆発を引き起こした。
鳩尾から発生した爆発は白蛇の体に大きな穴を開けて、胴体と腕と頭を別れさせるには十分な威力だった。
爆風で崩れ落ちた白蛇には気を止めず、そのまま大柄な骸骨の方へと走り出す。
(ここでこいつを殺させてもらうにゃ)
少女は走りながら左手を腰に下げたホルスターへと伸ばし、先ほど捨てた物より一回り小さな魔法銃を引き抜く。
骸骨は少女を迎え撃つため、左手の盾を構え右手を引いた。
魔法銃を連射し距離を詰めていく少女と自身のリーチギリギリまで引きつけるため動かない剣士。
この二人が交わるのに1秒の時間も必要としなかった。
剣士の射程圏内に少女が入った瞬間、右手に溜められていたエネルギーが鋭い平突きとなって解放される。
(仕留めた!)
同調した視界を見る白蛇は確信した。
突き少女に中心を貫くように進んでおり、少女も左右に躱す素振りを見せていない。
だが、そんな状況で少女は笑った。
少女は踏切り、宙を舞って剣士の剣の上に着地したのである。
そのまま剣の上を走りながら、剣士の頭に何度も銃弾を打ち込んでいく。
剣士は打ち込まれるたびに、頭蓋骨はひび割れ破片を散らす。
少女を振り落とそうとした時にはもう遅く体には力が入らず、膝から崩れ落ちた。
形を保てなくなった剣士は、骨の端から魔力へと変わっていく。
「どうやらレミは君を見くびってたみたいだにゃ」
自分のことをレミと呼んだ少女は白蛇の方を向く。
「今可能な最大の手段で君を殺すにゃ、もう出し惜しみもできにゃいしにゃ」
レミはポーチに手を伸ばし、光をそのまま閉じ込めたような輝く石を取り出した。
その石をレミは思い切り床に叩きつける。
蛍の群れように光は辺りに散り、浮遊した。
(この光、大量の魔力が含まれていますね)
白蛇の体の傷はまだ治り切っていないため、地面に倒れたまま分析を始める。
膨大な魔力を含んだ光達は一点に集まり人型を築いた。
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あと、星くれてもええんやで? ちょこっと押してくれるだけでええんやで
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