彼女は分かり合う。

何日生死を彷徨っていたのか、いや、

何日寝ていたのだろう。


意識が戻った頃には、同時に、朝の寝たりなさを彷彿させる

心地よい空気を、ほんの少し感じた。


感じただけかもしれない。きっと、そうだ。


気だるさは、まだ消えない。あと5分なら、

寝ても構わないかもしれない。


誰も、止める人はいない。


もう寝てしまおうかと、少し敗北感を味わっていた時、

まだ生気のあふれた声が、耳をざわつかせる。


僕は、その声を欲しがっていたのだろうか。

とても鮮明に聞こえてしまう。


奇妙な程、その声は耳を、頭を全身を駆け巡り、

そして、心にすうっと届いた気がした。


特別綺麗なんかじゃない。

普通の、ありふれていると錯覚させてくる人間の声。


「生きてるの、周!」


「!」


思わず目を開けた。いや、こんな大声を目の前にしてなお

目を開けない程、人生諦めてなんかいない。


彼女は涙を流していた。皮肉にも綺麗で美しく、

悲しみなのに、何故かずっと、見ていたくなった。


もともと涙もろい彼女だったが、同じ涙なのに

新鮮な表情に思えた。


ただ感動的なものを見た時の、思わず流れる涙と

本質的には同じなのに、


世界の終わりを前にして、それでも生きたいと思った者の、

絶望に近い涙だった。


そのことを理解するとさらに、彼女の得体のしれない悲しみが、僕の心に絡みついてくる。


彼女のそんな姿を、俺は見たくない。


でも、そう思ってしまった自分が憎い。傲慢が過ぎる。


自分で自分を許せなくなってしまう。


しかし、彼女の涙がリミッターだったのか、ただの現実逃避なのか。


俺はまた、意識を手放していった。でも、安心感のような何かで心は満ちていて、


それどころか、あふれだしていた。


それぐらい、俺とは到底釣り合っていない気持ちが彼女にはこもっていた。






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