第34話 ご令嬢探しは前途多難

「無理よ」


 泣き疲れて弱り切ったナイーダに、追い打ちをかけるようにメレディスがきっぱり言い放った。


「何を考えているのかわからないけど、わたしの身分でアルバート様の婚約を破断させるなんてこと、不可能でしかないわ」


 それに、と言いかけて、メレディスはナイーダに視線を移す。


「ナイーダ、泣いたの?」


「な、泣いてねぇっ!」


 あまりの即答に、メレディスは困ったように溜息をついた。


「それに、わたしはリリアーナ様の侍女の一人よ。いつでもお世話ができるようにお側を離れることは許されないの。わかるわよね?」


 そう続け、未だに少し赤らむ瞳を悲しそうに揺らすナイーダに心底同情した。


「わたしの前では何も隠すことなんてないのよ」


 いつも言ってるでしょ?と、メレディスは自分より少し背の高いナイーダを優しく包み込む。


「一つも我慢することなんてないんだから」


 その行動に、ナイーダはまた気がゆるみ泣き出してしまいそうになったが、それでも必死に堪え、メレディスの言葉に耳を貸した。


「ショックだったの?」


「……え?」


「アルバート様に婚約者がいたこと」


 そこでウッと顔をしかめたナイーダに、メレディスはクスクス笑う。


「それで、何かしようと思ったわけだ。可愛いじゃない、ナイーダ」


 明らかにからかわれていることに気づき、ナイーダは目に見えて不機嫌な顔をした。


「ア、アルは想いを寄せている人がいるんだ」


 振り絞るようにそう言うと、やっぱり胸の辺りがちくりと痛んだ。


「ええ、そうね」


「そ、そうねって、おまえも知ってたのか?」


「何となく、見ていたらわかるわ」


「そ、それじゃあ、そ、そんなにわかりやすく……あいつは、あ、あの方のこと……」


 まずいだろ……と、また話を脱線させて頭を抱えるナイーダに、呆れたようにメレディスは話題を変えた。


「でも、助けたいんでしょ」


「あ、ああ。俺はあいつにいつも助けられてきたからな。できることがあるなら、何でも協力したい」


「また、泣くことになるかもしれないのに?」


「え……」


「もし今、あんたが彼を助けた所で、彼はあんたが思うその想い人に少し近づくことになるかもしれない。それでも、平気なの?」


 意味ありげなメレディスの瞳がナイーダを映す。


「お、俺……」


「きっと、これ以上につらくなる」


「つらく……?」


(俺が……?)


「それでも構わないって言うのなら、わたしは協力する。どうする?」


 これは、賭けだとメレディスは言った。


 でも……


「きょ、協力してくれ!」


 それで彼が笑える未来があるのなら、何だってする。


 たとえ自分がまた、今日のように悲しまなければいけない日があったとしても。


 なぜならナイーダは、リリアーナもアルバートも大好きだったのだから。


「で、でもメレディス。さっきは仕事があるって……」


「ええ、あるわよ」


「え? じゃあ……」


「あるのは名案よ。どこのご令嬢よりも美しく輝いているわたしのご自慢のご令嬢を思い出したのよ。頼んできたらどうかしら?」


 そして不敵に微笑んだメレディスに、ナイーダも深く頷いた。


 よく考えたら、ブェノスティー家には、メレディスに匹敵する妖艶な美女が揃うと有名な六姉妹がいることに、ナイーダもその時、初めて気が付いたのだから。

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