34 秋祭り

「そっか……。そんなことがあったのか……」


 お祭りの屋台の間を練り歩いているとき、瞬は僕の話を聞いてしみじみ言った。瞬と藍花は浴衣を羽織っているが、僕はあえてTシャツにパーカー、そしてズボンというラフな私服だ。


「好きな子に嫌われるって……つらいよな」


 瞬が僕をちらりと見る。僕のことを心配している顔だった。


「確かに最近、蝦宇としゃべってないなとは思ってたけど……。蝦宇がそこまで言うくらいになっていたとは」


「まあ僕が人から好かれる人間ではないことくらい知ってたんだけどね……。そもそも、こんなことを言われるのは僕の態度が原因でもあるみたいだし」


「態度? どういうことだ?」


 僕が思わず黙ってしまうと、藍花が「あのね」と僕の代わりに話してくれた。内容を聞いた瞬はひどく驚いたように目を見開く。


「え? 何だよ、それ。好きな人を訊かれて、別の言葉を言いそうになったって……。それで登の方から避けてたのかよ? マジか」


「ね、変だよね。あんだけ玲未好き好きの登が」


「ちょ、何言ってんの、藍花……」


 藍花の発言に僕は口を挟むが、どうしてもテンションの低いものになってしまう。僕は慌てて「と、とにかくさ」と明るい声質をつくった。


「今はお祭りを楽しみたいから、そのことは忘れて! 僕は大丈夫だし。ね、頼むから」


 僕が手を合わせると、瞬は「……うん……」と髪をかき上げた。


「でもさ、俺前から思ってたけど、登って自己評価低すぎ。何でそんなに自分に自信がないの」


「え、そうかな……。自分に自信がないのは合ってるけど、自己評価が低いって言われても」


「低いよ、逆に馬鹿なんじゃないか」


 そう言う瞬と、「そうそう」と真面目な顔をして頷く藍花に対して、僕は弱々しく微笑んだ。


「まあ、蝦宇さんに嫌われるくらいの評価の人ではあるよ」


 二人は黙り込んでしまった。余計な事言った気がする。こんなんだから自分に対する評価なんて上がるわけないんだ。


 僕は雰囲気を盛り上げようと、「ちょっと待ってて」と言うと、近くにあった屋台でたこ焼きを一パック買い、二人に差し出した。ちゃんと爪楊枝も二人分もらってきた。


「どうぞ」


「え、いいの?」と瞬。少し大袈裟なリアクションに見えた。


「サンキュ! いただきまーす」


「藍花もどうぞ」


「本当? ありがとう!」


 二人の顔に笑顔が戻ってきて僕はほっとした。たこ焼きが熱かったのか、瞬は口を押えながらハフハフ言っている。藍花は瞬の様子を見ながらとても楽しそうにケラケラ笑っている。照れを隠しているようにも見える。


 よかった、僕が二人の雰囲気を盛り下げてちゃ最悪だ。


 僕らは世間話をしながら、屋台を練り歩いた。射的とかは本当に久しぶりで、全く当たらなかったが、瞬はばっちり的に当てていて、藍花にウサギのぬいぐるみをプレゼントしていた。藍花の顔は真っ赤になっていた。


 しばらく歩いていると、藍花の歩き方が少しよろよろとしてきた。僕が声をかけようとした一秒早く、瞬が「梨橋? 足痛いのか?」と尋ねた。


「ごめん……。浴衣なんて着なけりゃよかったかな」


 藍花は申し訳なさそうに言った。確かに足先が擦れたように赤くなっていて、非常に痛そうだ。


「下駄がこんなに擦れるなんて思ってなかったよ」


「瞬は大丈夫?」と僕は訊く。


「ああ、俺はもう動きやすい靴にしたから。浴衣にこの靴なんて格好悪いけどな」


「私何も考えてなかった……。もう本当ごめん……」


 とりあえず近くにベンチがあったのでそこまで藍花を誘導し、座らせた。


「これ、いるか?」


 瞬が絆創膏を差し出す。心配性な瞬らしい用意周到さだ。藍花は頬を一段と赤くしながら「あ、ありがとう」と上ずった声を出した。そしてしばらくして落ち着いたのか、ふぅーっと息を吐く。


「立ち止まっちゃってごめんね。貼ったら大丈夫だから、歩けるよ」


「梨橋、お前疲れてるだろ。しばらく休んだほうがいい」


 瞬が藍花を気遣うようにそう言い、藍花の隣に座った。藍花がどきどきしているのが伝わってくる。これはいい感じなのではないだろうか。


「あ、じゃあ僕向こうで水買ってくるよ。疲れてるならしっかり水分取った方がいいと思うし、さっき向こうに自動販売機あったの見たから。待ってて、藍花」


 少しの間だけでも二人でいさせてあげようと、僕は気を利かせた。


「え、登……。いいのに、本当」


「遠慮しないで」


「じゃなくて、ちょっ、ばか、の、登……!」


「ちょっと梨橋、そんなに俺と二人になるのが嫌?」


 瞬が頬に手をついて笑った。瞬の筋肉質だがすらっとした足が組まれ、ふくらはぎが露わになる。藍花はあからさまに目を逸らした。


「い、嫌なわけない……。ただ、登に申し訳ないなって、そう思……」


「梨橋のその浴衣、めっちゃ似合ってるね」


「ええ!?」


 前触れもない唐突な褒め言葉に、藍花が慌てふためいている。瞬、まさか藍花が自分のことが好きだって分かってて、意地悪をしているんじゃないか……なんて思ってしまった。その証拠に、瞬は藍花の真っ赤な顔を見て嬉しそうにニヤニヤしている。まあどうであれ、二人が幸せなら何でもいいけれど。


 そんな光景を横目で見ながら、僕は二人の元から離れた。


           ・・・


 水を買って戻るとき、階段に座っている長身の女性が目に入った。大きなふちの白い帽子をかぶっている。髪の毛はすべて帽子のなかに収められていた。俯いているので顔は見えない。


 その人の足元にハンカチのようなものが落ちているのが見えた。風に飛ばされそうにはためいている。僕は近寄りそれを拾い上げた。桜の柄のハンカチだ。


「すみません。落ちてましたよ、これ。あなたのですか?」


 女性が顔をあげる。僕はその女性の顔を見てびっくりした。青色の瞳の下にはくっきりと隈が浮かんでおり、顔全体は蒼白だった。明らかに体調が悪そうだ。女性も話しかけられたことに驚いたのか目を大きく見開いていた。


「だ、大丈夫ですか?」


「え……」


 呻くような声に聞こえた。喉から無理やりつくられた、でも意図せず漏れてしまったような声。


「顔色悪いですよ。あ、水ありますけどいりますか。これ……」


 慌ててさっき買った水を手渡そうとするが、女性は驚いた眼のまま受け取ろうとしない。女性は金魚のように口をパクパクと動かして何かしゃべったようだった。


「え? 何ですか?」


 聞き取れなかったので僕は顔を近づけた。次第に声がはっきりと聞こえてきた。


「かじ……せ……の……ぼる……どう……し……て……」


 えっ、と僕は思わず身を引いた。


 ……今、この女性は確かに「梶世登」と言った。


 どうしてこの見知らぬ女性が僕のことを知っているんだろうか。それとも……空白の一年間の間に、会っているのか?


「あ、あの、僕のこと知ってるんですか。もしかして以前にお会いしたことでも……」


 はやる気持ちになり、僕は早口になる。しかし、途中で僕は言葉を切った。


 なんと、女性の目から大粒の涙が一粒零れ落ちたのだ。


 しゃくりあげることはせず、僕の顔を見つめていた。涙は静かにすっと真っすぐ、青白すぎる頬を伝った。


 僕はおろおろしてしまい、とりあえず先ほど拾ったハンカチを差し出し、女性のひざ元に置いた。しかし、さすがに落としたハンカチを使いたくはないだろう、とズボンのポケットから自分のハンカチを取り出すと女性の目の前に出した。


「どうぞ」


「……」


「えっと、まだ使ってないし、汚くはないと思うので、遠慮なく……」


 しかし女性は受け取ろうとしない。どうしたものかと困っていると、急に彼女は僕の腕をがっしりと掴んだ。予想外のことに僕は目を白黒させる。


「え?」


「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」


 透明な声が耳を貫く。「えっ、何がですか?」と反射的に言葉が出た。何のことを言っているのかさっぱり分からない。でも腕を掴む力の強さから、必死さは伝わってきた。彼女の震えた口が動く。


「明日……あの子が、あなたに」


「え?」


「……」


 その続きを女性は言わない。悲痛な沈黙が彼女の指先から流れる。辺りのざわめきはその沈黙に掻き消されていく。


「あ、あの……」


 どうしよう。何かあるなら話は訊きたいけれど、向こうが何も言ってくれないと、こっちとしても対応に困る。


 そんなことを思っていると、女性は俄かにポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。僕の手を包み込むようにして、取り出した小さいものを一粒渡してくる。疑問に思って手を開いて見てみると、それは丸い小石のようなものだった。石にしては形が整いすぎているが、真珠ほどの輝きはなく、ただ白い。


「何ですか、これ」


 当然ながら僕は尋ねる。しかし女性は首を細かく振った。帽子からはみ出している数本の髪も、それに伴って揺れる。


「……あたしにも、詳しくは分からない。知らない」


「知らない?」


「でも、いつか役に立つ……そんな気がするから、持ってて」


 風のように駆け抜ける声だった。彼女の瞳は濡れて煌めき、夜空の星のようになっている。僕の戸惑いは最高潮に達して、「ありがとうございます」も「そんなものいただけません」も何も言えなかった。


 すると唐突に女性はその青い目を見開いた。僕の後ろ側を見ている気がしたので、僕も振り向く。しかし特に何もなかった。ただ人の波が流れているだけだ。笑顔で楽しそうな人たちが、おしゃべりをしながら僕の横を歩いていく。


 手にあった感覚が、すっと消えた。それに伴い顔を戻す。


 僕は息を飲まざるをえなかった。


 目の前にはもう誰もいなかった。ただ灰色の階段がそこにあるだけ。あまりの逃げ足の速さに、僕は突然彼女が消えてしまったように感じた。


 風が僕の前を通り過ぎる。


 僕は、目の前から人が消えた情景を、ただぼんやり見つめていた。


           ・・・


 とぼとぼ歩いていると「登!」とベンチの方から瞬の声が聞こえてきた。


「……ああ、瞬……。ごめん、遅くなって」


 僕が藍花に水を手渡すと「ありがとう」と藍花は微笑んだ。相変わらず赤い顔だ。


「ちょっと遅かったから、登が道に迷ってるんじゃないかって心配だったよ」


 藍花の言葉に僕はふふっと笑みを浮かべて返事をし、頭を掻いた。藍花は「はい、これお金。足りるよね?」と硬貨二枚を差し出す。


「足りるけど、多い」


「感謝料だから受け取ってよ」


 そもそもこの水は僕が勝手に買ってきたのだ。そのためお金なんて受け取るつもりはなかったが、藍花が率先して出してくれたので僕は素直に受け取った。


「……久保木くんも登もありがとね、今日一緒にいてくれて」


 少しの静寂の後、藍花はペットボトルの蓋を開けながら、ポツリとそう言った。いつの間にか表情が暗いものに一変している。睫毛の影が、彼女の瞳に落ちた。


「言われた通り、私ちょっと疲れてる。いっぱい歩いたのもあるけど、……玲未のこと」


「……」


 僕は動きを止めた。考えてしまうのも当然だ。僕だって、頭の片隅にずっとそのことが残っている。


「ごめんね、登が忘れてって言ったのに。でも明日、私は玲未にどう接すればいいのかな……ってそのことがやっぱり頭の中ぐるぐるして……」


 藍花は不意に泣きそうな顔をして微笑んだ。今にも糸が切れてしまいそうな顔だ。


「絶対玲未、あんなこと思ってないのに。多分玲未は、登に避けられてるのが分かって悲しくて、でも認めたくなくて、強がってつい思ってもないことを言っちゃったんだと思う。そうだと思う」


「……そうかなあ」


 心の中で、そんなことはないんだろうな、と付け足した。藍花が僕を庇ってくれているのが痛いくらいに伝わってくるが、僕は果たしてそこまでして庇われる価値のある人間なのだろうか。……何度でも、そう思う。


「……俺が思うに」


 すると瞬が顎に手を当てて斜め上を見る。何かを考察するような、鋭い瞳だ。


「蝦宇は、登が樋高と話しているそのシーンを見たんじゃないのか?」


 僕は「え」と瞬のほうに一歩踏み出した。瞬のその顔を凝視する。


「見てた?」


「あくまで予想だけどさ。なあ登、もしかして樋高に告白された?」


「えっ」


 いきなりすぎて誤魔化す言葉を何も思いつかなかった。誤魔化しても見透かされることが多いのに、それすらできなかったのだから、もうどうしようもない。僕は「え」の口のまま固まるばかりだった。


 藍花がとても腑に落ちたように「ああ、なるほど!」と頷く。悲しげな表情から和らいだのは良かったが、意気込みすぎにも見える。


「その流れで千夢ちゃんに自分の好きな人を言うってなったんだね。どうして登が千夢ちゃんに好きな人を言う状況になったのかがすごく気になってたんだけど、そういうことだったんだ。まあ千夢ちゃんの気持ちは何となく分かってたけど、そっか、告白までしてたんだね」


「え、分かってたの? 僕は、てっきり嫌われてると思ってたけど……」


「だって千夢ちゃん、登と仲良くしてた私に対して敵意むきだしだったから。正直この前の可術地方でのいざこざのとき、登の記憶を操作して自分のことを好きにさせようとした、くらいのシナリオまで私は考えちゃってたよ。本当に失礼すぎて申し訳ない話だけど」


「そ、そっか……。……とにかく、黙っててごめん……。でも、そのことを僕が勝手に他人に言うわけにはいかないでしょ」


「悪いな、言わせる流れにしちゃって。誰にも言わないから安心しろ」


 瞬が言い、ふう、と息を吐いた。


「でも、そういうことだろ。その事実があったのなら、蝦宇の様子がおかしくなったのも頷ける」


 その言葉に藍花は首を縦に振り、同意を示した。


「うん、そのとき登と千夢ちゃんは二人きりだったんだもんね。玲未がそのシーンの一部だけを見てて、登と千夢ちゃんに何かあったって勘違いして、それで不貞腐れるのかも……」


「まさか」


 僕は苦笑いする。もう正直、懲り懲りなのだ。少しは仲良くなったのではと自惚れて、後で勝手に心が痛くなるのは。僕は小心者なのだ。


 唐突に藍花が立ち上がった。痛いと言っていた足を若干ふらつかせながら、僕に詰め寄る。そして胸の前で拳を握った。


「登、もう告白しかないよ!」


「……え?」


「玲未に告白!」


「そ、そんな無茶な……」


 大胆な提案に、僕は勢いのままに頭を掻く。僕は小心者なんだって。芯も何もない、ただ流されて生きていく感じの人なんだって。


 藍花は落ち込んだみたいに唇を窄めた。握りしめている手が震えている。


「……無責任だと思われるのも分かってる。でも私、どうしても二人を応援したい」


「……考えとくよ」


 俯く藍花から目を逸らし、僕は呟くように言った。真っ黒な夜空を見上げる。屋台の灯りが空まで届いて煌めいている。


 すると笛のようなけたたましい音がしたかと思うと、その黒いキャンバスに大きな光が広がった。円形に、真っ赤に散らばる巨大打ち上げ花火だ。


「あ、花火始まったね……」


 藍花が空に向かって指を差した。声には覇気があまりない。


 ドン、ドン、ドーンと地を揺らしながら鳴る花火を見つめる。花火の音は、心臓を直接叩くみたいだ。周りの人たちは、少し重くなってしまった僕らの雰囲気なんてお構いなしに、夜空を見上げて歓声を上げている。


 そこでふと気になるものがあった。


「ねえ、あの奥に見える長い影……何?」


 僕はぼんやり遠くを眺めながら言う。隣にいた瞬が「え?」と僕の顔を覗き込む。すると藍花は僕の言っていることが分かったようで、「あれのこと?」と花火を差していた指の位置をずらした。


 花火の光が背景になり、真っ黒なシルエットが浮かび上がっているのだ。細く長い、先の尖った塔みたいなもの。ポツンと建っていて目立っている。この秋祭りには去年も来たけど、そのときは気づかなかった。


「いつの間にこんな建造物がつくられてたんだろ……。二人とも知ってる?」


「私も分かんない……。確かに何だろうね、あれ」


「ああ、あそこの塔のことを言ってるのか」


 瞬も、僕が何のことを言っていたのかようやく分かったらしく、顎に手を当てた。不意にそよ風が吹いて、どこからか綿菓子の甘ったるい匂いがやってきて鼻孔を掠める。僕は鼻を触りながら「瞬、何か知ってるの?」と尋ねた。


「いや、全然。でも方角的に、可術地方の中の可能性もあるんじゃないか? そうだったら建ったの知らなくても変じゃない」


「ああ……。でも、可術地方行ったとき、こんな塔見たっけ」


「相手は術使いだぞ? 一夜にして建ててもおかしくないだろ」


「……確かにそうだね」


 妙に納得し、僕は塔から目を逸らした。


 どうして気になってしまったんだろう。ただの建物じゃないか、と自分に言い聞かせる。でも、どうにも胸がざわついてしまうのはなぜだろう。


 僕は考えるのをやめたくて、打ちあがる花火に注目した。カラフルな光が次々に広がり、僕の心臓を鳴らしていく。


「綺麗だね」


 藍花の声に、瞬が「そうだな」と同意した。僕もゆっくり頷き、ただ無言で空を見つめ続ける。花火の大音量の中で、カラーンという下駄の風情ある音が、どこからか聞こえた。


 蝦宇さん……。


 ふと唐突に、彼女への想いが溢れ出してきた。蝦宇さんは、お祭りには来るつもりだとは言っていた。彼女と僕は、同じ空を見ているだろうか。彼女は、今どんなことを思っているのだろうか。


 けれど何となく、蝦宇さんはこの花火を見てはいない気がした。


 僕と彼女は、違う方向を向いている。


 急に、胸のあたりがモヤモヤし始めた。唾の味が苦くなり、じっとしてはいられなくなる。気持ち悪い。頭の奥に、何かが燃えている映像が写る。何かを思い出したというよりは、この前見た嫌な動画がフラッシュバックした感じだ。


 ……ああ、そっか。花火も炎だ。いくら美しくても、嫌な記憶に残っている、あの炎と同じだ。僕なんかが、安易に見てはいけないものだ。


 でも瞬と藍花に心配はかけたくなかった。二人は夜空に釘付けだ。少し重かった雰囲気も、いつのまにか溶けている。だから余計に隠したかった。花火が終われば、きっとこの症状は治まるはず、と僕は爪が食い込むほど手を握りしめる。


 僕は美しい景色から視線を外していた。儚い炎が消えるのを待って、ただひたすら耐えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る