31 とある日常⑤

 女性は扉に手をかけ、勢いよく開けた。その瞬間、パァンと破裂音がこだまする。女性は驚いたように体を震わせた。


 扉の向こうにいたのは、クラッカーを持った子供だった。


「え……何? びっくりしたじゃない」


「お帰り。こっち来て!」


 子供が女性の腕をぐいぐい引っ張る。着いた先には小さいイチゴのケーキがあった。


「え……っと、これは……?」


「誕生日おめでとう!」


 その言葉に女性の瞳が見開かれる。突然のことに驚きを隠せない様子だ。子供は澄んだ真っすぐな瞳で微笑み、それに対して女性は目を逸らした。


 突然、女性の瞳から雫がこぼれ落ちていった。


 その様子に子供は固まり、慌てたようにあっちへ行ったりこっちへ行ったりする。女性は自分に何が起こったのか気づかなかったのか、目元を触って指に着いた水滴を見て、びっくりしているようだ。


「あ、ごめん。今までそういうのなかったから、あたしちょっと感動しちゃって……」


 女性は慌てたように言う。嫌だったわけではないことを全力で伝えているように見受けられる。


 すると子供は頬をピンク色に染め、嬉しそうに笑った。

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