13 とある日常②

「どう? 楽しい?」


 とあるショッピングセンターにある洋服店の中で、女性は子供の目の高さに視線を合わせて微笑んだ。子供の背が低いわけではないが女性が高身長なので、視線を合わせようとするとそうなる。


「……うん」


「そう、ならよかったわ」


 女性はそう言うと、「そういえばこっち……非術地方のお店でよかったの? 可術地方のところでも良かったんだけど」と不思議そうに首を傾けた。服を物色する手は止まらない。


「……ここがいい」


「そう? ま、買い物ならまたいつでも連れて行ってあげるから、行きたいところあったら教えてくれればいいのよ」


 女性はふふっと微笑みながら、中学生サイズの服を流れるように探していく。一方の子供は、気持ち程度に服の生地に触るが、その度に難しい顔をしている。その様子を見て女性は口を開いた。


「ねえ、好みの服とかないの?」


「……あんまり服に興味がなくて。着心地の良い服なら何でも……」


「そうなの? じゃああたしが色々見繕ってもいい?」


「うん……ありがとう。ごめん」


「こういうときに、ごめん、はいらない。分かった?」


「……うん」


 子供は頷くと、一応自分でも良い衣服を探す素振りは見せようとしたのか、店内をキョロキョロ見渡した。女性が「これなんかどう?」と子供を引っ張り、服を鏡の前で合わせる。鏡に店のオリジナルキャラクターのシールがペタペタ貼ってあるので全体像が若干見づらいが、子供は「いいね、かっこいい」と微笑んだ。


「どう? 気に入った? これ買っていい?」


 女性が尋ねる。子供は、服には満足そうな様子だったが、ふと気づいたように「でも……お金が……」と目を伏せた。女性は子供の頭を軽く小突く。


「馬鹿ね、本当。あたしが払うわよ。あんたを拾った時からそうする覚悟はあるわよ、とっくに」


「……でも」


「それに、今なら商品をいくつか買うと抽選に参加できるみたいだし。ね、やりたくない?」


 女性の笑顔に押され、子供は俯きながらも嬉しそうな表情をし、首を縦に振った。


 その服を買った後、二人は並んで歩く。


「あと欲しいものある?」


 女性は白くて大きい帽子の縁を触りながら言った。その中に髪が全て収められている。後れ毛がふわふわと揺れた。


 子供は少し迷ったような素振りを見せたが、顔を上げると「文具売り場に行きたい」と言った。女性の瞳を見つめる。


 女性はにっこりした表情で「分かったわ」と子供の肩をポンと叩いた。

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