8 とある日常①

「これからはあたしの家で暮らすといいわ」


 とある女性の言葉に、中学生くらいの子供はびっくりしたように目を開いた。半開きの口から、「え、でも」という言葉が漏れる。女性はくっと首を傾けた。


「他に何か、ここから生きていける当てでもあるの?」


「……ないです」


「でしょ。おいで、帰るよ」


 女性は歩き出した。彼女の優しい言葉に心を打たれたのか、その子供は瞳から次々と涙を流しながら、家に向かう彼女の後ろをついていく。


 しばらく歩いた先に、木々に囲まれた屋敷が見えた。殺風景な壁面だが、そこそこの大きさである。


「……お邪魔します」


「そんなに固くならないでよ。今日からあなたの家よ」


 女性はそう言うと、おどおどしている子供の額に人差し指を当てた。子供は目を伏せたまま「……はい」と言う。


「……本当にごめんなさい。迷惑しかかけてなくて」


「馬鹿ね、悪いのはあなたじゃないんだから、あなたが謝る必要なんてないのよ」


 女性はそう言い、にっこり微笑んだ。子供は彼女を、強い眼差しで見ていた。

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