4章 原作開始
1話 クズ悪役の生存戦略
「いい天気だな」
爽やかな風が吹く、ヴェーヴェルン男爵領。
そこにあるランドール公爵家の別荘にて、俺は鏡をマジマジと見つめていた。
鏡の中には、15歳ほどの青年がいた。
切れ長な目つき。少々偉そうに見える顔。
身長は数年前から伸びており、修行のおかげでそれなりに身体も鍛えてある。
見た感じ、ちょっとイケメン風の単なる普通の貴族の青年といった感じである。
つまり、クズトスの要素は1つも残っていない。
自分の顔を総点検した上で、俺は合格点を出した。
「これならいけるな」
そのまま旅支度を整える。
◇
あれから、5年が経った。
俺がなぜか原作開始前にエルドと戦い、ボロボロになって田舎に逃避行してから5年である。
俺は今年で15歳になる。
つまり、学園へ入学する歳であり、『ラスアカ』本編が始動する年だ。
とはいえ俺は学園に入学しても、「ジーク君と一緒に世界を救おう!」とか、「原作にカッコよく介入だ!」なんて、お花畑なことは、1ミリたりとも思ったことはなかった。
俺tueeeなんてものは無理に決まっている。
――それはなぜか。
控えめに言って、この『ラスアカ』世界が修羅の世界だからである。
このゲームは、もちろん可愛い女の子ときゃっきゃうふふを楽しめる。
だが、18禁で対象年齢を絞っただけはあり、かなり殺伐とした世界なのである。
選択肢を間違えたら、主人公のジーク君とてすぐに死ぬ。
バットエンドまっしぐら。
主人公やヒロインでもその扱いなのだから、嫌われ者のクズ悪役であるクズトスなんてひどいものだった。アンデット化して敵にこき使われたり、もっとひどいときは蟲系の苗床エンドという救い用の無さすぎる死に方もあった。
ゲームとして見ていたときには、調子に乗っていた悪役がやられて楽しめたが、それが自分なので、本当にどうしようもない。
そして、後半になればなるほど動き出す倫理観の狂った強者たちに、一見平和そうだが、裏では暗躍を繰り返す権力者たち。
そう。
『ラスアカ』は表の可愛い世界はどこへ行ったのやら、プレイヤーたちから「転生するにしても、ここだけはごめん」とか「一見マトモそうに見える分、よりたちが悪い」などと賞される、崩壊寸前の魔境なのである。
タダでさえそんな世界で、しかも殺されるのが既定路線なクズトスが、自分から話の中心に飛び込むなど愚の骨頂。
というわけで、原作にカッコよく介入だ!なんて妄言はパス。
かと言って、俺は過去の経験から、まったく原作を無視するのもリスクがあるだろうと思っていた。
そもそも、『ラスアカ』世界のストーリーなんてものは、薄氷の上に、微妙なバランスの上になりたっているに過ぎない。
ジーク君だって、俺がなんとか友情を築き上げなかったら、未だに修行もせず、村で農家をやっていたかもしれない。
なので、あまりにも放っておきすぎて、気がつけば世界が終わっていました、なんて状況も避けたい。
「さて、行きますか」
そうして、準備を終えた俺は扉の前に立った。
だからこそ、『クズレス・オブリージュ』。
それなりに原作に沿いつつも、あくまでモブに徹し、ジーク君たちとはそこまで深い関係になりすぎない。
目指すのは、ジーク君と仲が良いモブA位の距離感である。
エラステアで仲良くしていたので、もちろんそれは継続する。普通に話すし、一般的な交際はして良いだろう。
が、深入りしすぎない。一緒に戦ってくれ、とか。一緒に世界を救おう、なんてのはNGである。
そういうヤバいのは、ぜひ主人公&ヒロインズでやってほしい。
俺はあくまでもモブとして、ジーク君の活躍を周りで一喜一憂する普通の一般的男子生徒。
――そう。もはや、嫌われ者のクズ悪役・クズトスは存在しない。
数年前から俺の『クズレス・オブリージュ計画』は始まっていたのである。
主人公ジーク君とは男同士の友情を築き上げているし、好感度管理も万全。
ヒロインたちとも適切な距離を保っている。
さらにエンリケ・グレゴリオなどの不穏分子たちとは完全に手を切ってある。
まさしく、完璧なる布陣。
にやり、と笑う。
俺は確信を持って、扉を開けた。
待ってろよ。
「――理想のモブ生活」
――――――――――――――――――――――――
クズトス
→俺yabeeee系主人公。(口を開かなければ)イケメン。
クズレス・オブリージュ計画
→ガバガバ主人公による楽観的な計画。だいたい前提が破綻していることが多いので決して信じてはならない。
※クズレス・オブリージュ第2巻を買って僕と握手!!!!
買ってくれた方々ありがとうございます。
2章と3章の間は半年間休んでいましたが、コメント欄で「今月始めてね♥」という圧を感じたので今月中に4章始めます。
プロットは大丈夫か??? ……知らない子ですねえ。
というわけで、4章開始です!!
コミカライズも絶賛2話配信中!!!!
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