第61話 表舞台に引きずられ始めるクズ


 結局、一夜にして事件は終わった。

 ゲーム知識をフル活用した俺の第10位階魔法によりアンデットも浄化され、街もすっかり元通りに。


 まあ、エラステアのシンボルたる『大聖堂』が完全に崩壊しているのを見て街の人たちは絶句していたが、街を救ったことだし、それくらい許してほしい。

 当然、責任を問われた帝国側だったが、エルドが自主的に始めたことだと主張して、早速尻尾切りを始めているとか。


 そんな中。俺は、またまたホテルの一室で、寝かしつけられていた。

 我ながらここ一週間、ベッドの上にいる率が異常に高いと思うが、仕方ない。


 しかし、これまでのベッド生活とは唯一違う点がある。

 それは――


「ねえ、ウルトス。もっと寝なきゃだめだよ」

「いやもう十分というか、10時間以上寝ているんですけど……」

「ダメだよそんなんじゃ……!」

「えぇ……」


 絶対にベッドから出さない、と強く意思表示をするのが、俺の友達ジーク君である。


 彼は俺が敵に罠にハメられ、挙句の果てに操られた哀れな少年だとちゃんと理解してくれた。だから、もうすべてが終わり。大した傷もないし、放っておいてくれても構わない。


 ……はずだったのだが。


「いや、本当にいいんだよ? 放っておいてくれてもさ」

「またそう言うこと言って……!」


 と、なぜか、俺が「俺のことなんて放っておいて遊びに行ってきなよ。俺なんて、どうでもいいでしょ(意訳)」と伝えると、悲痛そうな顔をするのである。

 さらに、俺は違和感を感じていた。


「熱出てないよね?」と言いながら、こっちの額に手を押し付けてくるジーク君。


「……割と調子はいいかな。うん……ほんとに悪いし、そんな触らなくても」


 こいつマジか、と思いながら返事。

 看病自体はありがたいのだが、なんか異様に距離が近い。


 なんだこの、看護する彼女みたいな距離の近さ……!

 いや、たしかに作中でもヒロインが怪我をした時などに、ジーク君は距離が近く、ヒロインが顔を真っ赤にしたり……みたいなイケメンムーブをこれでもかというほどやっていたが、「え、それ俺にも適用されるの?」と言った感じである。


 とんでもない。

 やはり、イケメンハーレム型主人公は一味違うらしい。クズトスのような男に対しても、この力の入れっぷり。

 

 俺が異性だったら、このまま惚れていたかもしれない。

 恐るべし、美形主人公の献身的な看病………。


 ちなみに、リエラも「ウルトス様を看病させてください!! ウルトス様の看病をするためにこの世に生まれてきたのです!」と熱弁をふるってきたのだが、もちろん別の仕事をさせてある。

 リエラはジーク君と顔を合わせるたびに、「この……! 泥棒猫……!」とバチバチになっているし、余計な争いはしないに限るのである。


「いい? ウルトス。ほらちゃんと食べて。あ~ん」

「………………」


 そう言いながら、ジーク君の彼女みたいな看護は続き、しまいには食べ物が『あ~ん』されるまでになっている。


 いくら面が良くても、何で俺は男から『あ~ん』をしてもらわなきゃいけないのか。

 泣けてくる。嫌がらせか????


「……お、美味しい?」

「うん……泣くほどおいしい……」


 こうなると、若干心配になってくる。

 もしかしてジーク君、俺のこともハーレム要因として見ているんじゃないだろうな……。



 そして、ジーク君の熱烈な看護に悩まされていると、レインとクリスティアーネが部屋に見舞いに来た。


「ウルトス・ランドール……!! すまない……!!」


 部屋に入るなり、目をつむって「敵の策略を見破れず、守るべき、王国の少年を捕らえてしまうなんて」と頭を下げるクリスティアーネ。


「どんな仕打ちも覚悟している……!」

「………え? あ、いや………」

 

 一瞬、驚いたが、冷静に対処する。


「まあ大丈夫ですよ。ハハッ、人は間違うものですからね。第一疑われるような真似をした僕も悪いんですから」


 こっちは全然気にしていませんよ、と全力でアピールし、笑顔でクリスティアーネに媚を売っておく。


 クックック。モブ志望をなめるな。

 こんなバイオレンスかつ、普通の人間が闊歩すれば死ぬような18禁ゲーの世界で、生き残れるのであれば、あのくらい安い犠牲である。

 まあ、ちょっと首元に後は残ったが……。

 

「ウルトス……そんなウルトスが悪いわけじゃ………」

「いいっていいって。ほんとの話だしさ。俺が全部悪いんだ」

「………ウルトス」


 俺たちのやり取りを見たクリスティアーネは、ポカンとした顔をしていた。

 が、やがてゆっくりとうなづいた。


「……なるほど。強い意志を感じる。たしかに、いい少年だ。本当にうちに入ってほしいくらいに」

「言っただろ? うちの子のお墨付きさ。戦力的にはまだ早いが、こういう子こそ活躍できるはずさ」


 と応じるレイン。


「はい?」

 

 互いにうなづきあうレインとクリスティアーネ。

 まったく話の流れが見えない。


「一体、どういう――」


 ことでしょうか。と俺が言おうとした次の瞬間。

 クリスティアーネが、レインが笑顔で言った。


「ウルトス・ランドール。栄えある王国騎士団に、君も来ないか?」


 ??????



 ◇



「僕が騎士団に……ってどういうことですか?」


 整理しよう。

 騎士団と言えば、王国の若者の中では人気の花形。


『ラスアカ』の作中でも様々な人気キャラが所属していたりする。


 上位陣はまさしくレインのようにSランククラスの実力者が集う。そのため本来、一定の年齢になって、厳しい試験に合格しないと入れない。

 もちろんクズトスなんかが入れもしない組織……なのだが。


「知っての通り、我ら騎士団はやはり人材不足だ。君の頭脳。そして何より、君が指輪にあらかじめ魔力を流し込んでいたおかげで、今回の事件は解決できたと言っても過言ではない。年齢としては特例だが、君も騎士団にはいらないか?」


 と、レインがいい笑顔で話すと、


「あぁ」と、クリスティアーネも頷く。


「騎士といっても何も戦いだけじゃない、これからの時代、君のような人材が必要なんだよ、ウルトス君」

「これって本当にすごいことだよ!! ウルトス!!」


 ジーク君も興奮が隠しきれないようで、はしゃいでいる。


 が、俺は青ざめていた。

 おかしい。嫌われるクズを脱却し、突如として出現した敵もやり過ごして、これから先、モブとして地味に生きようとしているのに、なぜか表舞台に立たされそうになっている。


 客観的に見てみる。

 主人公ジークの昔からの友達で、しかも騎士団に所属している貴族???


 どう考えても、目立ちすぎだ。

 モブじゃない。完全に主人公側のポジションである。


 これ以上余計なことはしたくない――


「い、いや……僕は公爵家の」


 仕事がある。そう言いかけて、思い直す。

 いや、そもそも、この状況を作り出してしまったのも、あの父上の余計な一言のせいだ。


 公爵家の息子として、これから社交界に顔出ししまくってもいいが、今回みたいなことにまた巻き込まれない、とも限らないのである。

 ……どちらにせよ、ろくなことがない。


 俺は原作開始まで、のんびり誰にも干渉されずに生きていたいのに。


「――あ」


 そう思った矢先、俺は、あることを思い着いた。

 あまり表舞台に立たず、原作開始までじっとしていられる場所。

 あった。1つだけ、心当たりがあった。


 ふう、と一息ついて、話し出す。


「……いえ、そのお話はありがたいのですが、断らせてください」

「な、なぜ!?」


 驚く3人。大出世なのに断られると予想していなかったのだろう。

 俺は内心面倒くさがっているのを知られないように、神妙な口調で答えた。


「敵に操られてしまったのも、僕が弱いせいです。力不足だから、みんなを傷つけてしまった。大切な人たちを巻き込んでしまった」


 だから、と俺は続けた。



「――少しの間、他人と会わないようにします」




 寂しげな笑みを浮かべながら。




――――――――――――――――――――――――――――――


ジーク君

→未だに男だと思われている、不憫系ヒロイン。傷ついた相手を懸命に看護するという美味しい役なのだが、ウルトスの性別判定力が低すぎていまだに誤解されている。


クリスティアーネ&レイン

→ウルトスが適当にほざいた結果、「(こいつ、なんて高潔なんだ……!)」と好感度が天元突破中。


ウルトス

→なんやかんやで危機を乗り越えた。自己評価と他者評価が違い過ぎて、周りから見たら悲劇のヒロインみたいなムーブをし始める外道。本人は意図していないのでなおさら質が悪い。




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