第60話



「エルド!! ウルトスを返して!!!」

「フハハハハハハ!!!! そうだな、もう少しヒントをやっても良いか……」

「なに?」


 反応する3人。


「小僧を返してやってもいい。だがな、小僧にかけた魔法は強力無比。ほら、こんなことをしてもいいのだ」


 そう言って、俺はナイフを首筋に当てた。

 そのままスッとナイフを引く。


「な!!」


 と口を押さえるジーク君。

 何だろう、意外と可愛いな。急に女子っぽく見えてきた気がする。


 ……まあそれはさておき。

 細心の注意を払いながら、ナイフを操ると、俺の首元に赤い線が出現した。


 この小僧の命はこちらのものだというデモンストレーションを披露した後、3人に向かって適当な設定を語る。


「この魔法は非常に強力でなあ。解除方法は、たった1つ。魔力の元となる、この杖を壊すことだ。まあ、もっとも完全に壊せないと、この小僧の心は永遠に失われるがな」

「そんな……!!」

「フッ、武器を持っていない貴様らでは無理だ。せいぜいおのが無力を恨め」


 相手に武器を捨てさせ、なおかつ人質の子供を盾にして、小馬鹿にする。

 う~む、どこに出しても恥ずかしくない立派な悪役である。

 

 ちなみに、実際そんな魔法は使ってないし、別に杖も魔力の元でも何でもない。演出ってやつである。


「くっ!」


 悔しそうに唇を噛む大人2人。


「フハハハハ。あがいてみるか? だが、もう身体の中にある魔力量も少ないだろう?」


 ねっとり嫌みな口調で、ニヤニヤしながら相手を見下す俺。

 絶妙にジーク君から視線を外し、大人2人に注意を奪われているように見せる。


「もはや、アンデットと戦って、”魔力も尽きた貴様ら”になすすべはない!!」


 2人の強者相手に調子に乗る悪役。


 な?  

 だから、気がついてくれ。ジーク君。

 大人2人はもう身体の中にある魔力が少なくなっている。そして、


 絶体絶命の状況。

 ……だが、君にはある。魔力が。


「武器を奪われた英雄に何ができる? 魔力もない子供に何ができる!!!」


 魔力がないなら、身体の外にある魔力は?

 ジーク君!! 気付け!!! 友情の印にあげただろ!?


 アレアレアレアレアレ!!! 


「いや、エルド……!! お前は1つ間違っている」

「ハッハッハ……なにッ!?」

「ボクには、魔力がある!! 大切な人からもらった、魔力が!!!」

 

 よっしゃぁぁぁぁ!! 気付いたぁぁぁぁぁぁぁ!!!


 俺が馬鹿みたいな高笑いをしていたまさに、その時。 

 ジーク君の身体が光る。その光の元は……『指輪』。


 そう。俺が渡した、一回限りの外付けの魔力。

 すでにその指輪には、魔力が込められている。


「ジーク!?」


 レインもクリスティアーネも唖然とした、その刹那。


「ウルトスを……!!!!」


 風の魔法で強化されたジーク君が、目にも見えない速度で途中で剣を拾う。


「返して……!!!!!!」


 そのまま剣を構え、ツッコんできたジーク君に対し、慌ててこちらも杖で受ける。


「く、クソ。な、なんだこの力は! 知らんぞ!! 貴様は魔力を使えないはずで――」


 まあ、込めた張本人だけど、初めて見たようなリアクションを取る。


「この……ガキが!」


 拮抗する両者。だが、徐々にこちら側が押されてくる。


「くそ、貴様、そんな奥手の隠し持っていたのか!!!」

「誓ったんだ!!! 今度は!! ボクが、助けるって!!!」

「ふざけるな。き、貴様のごとき、凡人があああああああァァァァァァァ!!!!!!」


 良い感じに競り負け、悲鳴を上げる。

 悪役ご用達の、一度は言ってみたい台詞ナンバーワンのセリフ。


「こ、こんな力が!! ば、馬鹿なぁぁぁぁぁァァァァァァ!!!」

「ボクの大切な人を、返してもらう」


 そして、真っ二つに折れる杖。 


「……ばか……な………! たか……だが魔力もない……ガキが」


 やっぱりラストはこうだよなあ。


 俺の身体が崩れ落ちる。同時に、しれっと【変装】の魔法も解除しておく。

 これにて、ミッションコンプリート。

『楽園堕とし』は止められ、無事、俺の疑惑は晴れましたとさ。


「ウルトス!!!!!!! 眼が……! しっかりして!!!!!!」


 ジーク君に抱きかかえられる俺。

 そして、友情も元通りである。う~ん、完璧な結末。


「ウルトス……!!!!」


 ……何だろう。そんなに心配してくれていたとは。

 ちょっと感動である。ごめんな、さっきまでクソガキとか言ってしまって。


 しかし、先ほどからジーク君の胸のところが当たっているせいか、頬に柔らかな感触を感じる気がする。


 俺は思った。ジーク君……ちょっと太ってるのではないか、と。

 もしかしたら、後でジーク君に魔力の修行だけでなく、筋トレもすべきだといっておいた方が良かったのかもしれない。


 ま、いいか。終わりよければすべてよし。

 ジーク君の叫びを聞きながら、目を閉じる。


「う、ウルトスゥゥゥゥゥぅ!!!!!!!!!!!!!!」


 ――こうして、俺はこの街に来て2度目の気絶をする羽目になったのであった。




――――――――――――――――――――――――――――――――


ウルトス

→原作主人公にセクハラ&暴言。これは許されない


ジーク

→大切な人を守るために窮地に覚醒。ただ、人を見る目はあまりない。


エルドの杖

→ウルトスの策略により犠牲になった




作者も知らないところでコミカライズ開始!!!!(冗談抜きで公開日の3日後にコミカライズ開始に気がついた)

面白いと自分の中で話題になっているのでぜひ!

https://comic-walker.com/detail/KC_005502_S?episodeType=first



そんな「クズレス・オブリージュ2巻」は5/1日発売!!!

適当に作者をフォローしておくと、フォロワー向けでただでSSが送られてくるらしいのでそちらもぜひ!!!(SSでエルドの末路を見よう!!!)



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