第58話 フィナーレはここからだ


 イエ~~~~イ!!!!!!!!!!


 ジーク君、元気!!!??? 


「クハハッハハハハハハハ!!!!」 


 なるべくドスの聞いた声で叫ぶ。


「何が……!」

「ウルトス君……?」


 ジーク君の後ろからレイン、そしてクリスティアーネも来た。

 3人は様子が変わった俺に戸惑いを隠せない。


 彼らの目には、不気味な深紅色の瞳をして、今までにない表情をした“ウルトス”が映っているはずである。


 崩れかけた聖堂に、役者そろい踏み。


 ――というわけで、これが俺の作戦だ。


 エルドはなんとか止められたとしよう。ただ、その場合でも、ウルトス・ランドール個人に掛けられた疑惑が残っている。、という面倒な疑惑が。


 それもこれもエルドが余計な裏工作をしたせいだ。

 まさか当の本人も適当に生贄を指名したら、それがジェネシスだったとは思わなかっただろうが。

 

 とはいえ、原作よりも弱体化した敵(エルド)を倒しても、このままだと俺は疑われっぱなし。


 どうすればいいか?

 簡単だ。


 俺がジェネシスと一切関係のない、純粋無垢な、被害者だということを全力で証明する必要がある。


「さて、と。まずは武器を捨ててもらうとするか」

「ウルトス……! 何を言って……!!」

「聞こえなかったか? 武器を捨てろと言っている。この小僧の肉体がどうなっていいのか?」


 そう言いながら、俺はその辺から拝借したナイフを俺の首に当てる。 


「……ッ!」


 クリスティアーネ、レイン、ジークが武器を放る。

 みんな偉いねえ。俺は嬉しいよ。


「フッ、いいだろう。しかし、無様なことだ。王国の戦士よ。英雄だのなんだとの賞賛されようが、貴様らはたった小僧一人も守れないのだからな」

「ウルトス君、何を言って……!」

「ウルトス……!!」


 が、しかし、思ったよりも反応が薄い。


 ……え、嘘。まだ気付かないの????


 深紅の眼に、不気味な杖。そして明らかに様子のおかしい俺。

 どう考えても、おれはウルトスではない。


 アレだよ。俺は操られているのである。

 ……いや、厳密には正気だけど。


 もうちょい演技をオーバーにやるべきだったか???


「待て二人とも! ……様子がおかしい。おそらく、やつはあの少年ではない」


 今まで押し黙っていたクリスティアーネが、何かを察したように顔をゆがめた。 

 ナイスアシストだ。


「中央騎士団のクリスティアーネ、か。察しがいいな。貴様の言う通り、この小僧はすでに我が術中にある。この、帝国の死霊魔法使い――エルドのな」

「何!? エルド……聞いたことがある」


 クリスティアーネが、今にも射殺さんばかりの勢いでにらみつける。おおこわ。


「帝国の死霊魔法使い……今回のアンデット騒ぎ、貴様が裏で糸を引いていたとはな……!!」

「ああ、そうさ。私がエルドだ」


 嘘である。本物はすでに捕らえているし。

 しかし、


「なっ!? そのエルドが、ウルトスを!?」

「あっははははは!」


 ジーク君に対し、ここで甲高い笑い声を一丁。

 こういうのがある方が信憑性が出るというものである。たぶん。


「ご挨拶が遅れたな。 まあ、心配することはない。すぐに3人とも死ぬのだ……貴様らをアンデットにするのもよかろう」 

「貴様……! ウルトス君の肉体を……乗っ取っただと!?」


 レインが鬼のような形相でこちらを見てくる。

 そしてクリスティアーネのおかげで誘導成功。俺はひっそりとほくそ笑んだ。


「ああ、この小僧の肉体を乗っ取るのには、苦労したよ」


 ニヤリと舌舐めずりしながらナイフをペロリとなめる。


「なっ!!」


 3人の絶句した表情。いいねえ。

 そう、まさか、常人がナイフを舐める訳がない。

 

 これは完全に敵に操られてしまった可哀想なモブAである。

 いやそういえば、バルドも舐めていたな。まあ……あいつは操られていたわけじゃないけど……うん、まあ人の趣味はそれぞれだ。


「この小僧を1人にさせ、無防備となったところで我が支配下に置く。まんまと貴様らは、掌の上で踊らされていたのだ!!!」

「まさか、ウルトスがジェネシスの仲間というのも……」


 魂が抜けたようなジーク君の声。

 俺はせせら笑うように返した。


「ああ、すべて私の策略に過ぎん。この貧弱な小僧が、ジェネシスの仲間なわけがあるまい」 

「……ッ!!!」


 自分で自分をけなしていて悲しくなるが、これもまあモブ人生のため。


 エルドのせいで疑惑を掛けられた俺に残された、たった1つの道。

 もちろん俺は、グレゴリオが言ったように、表社会を捨て去る気なんて1ミリたりともない。


 だからこそ、この一手。


 敵の手により操られてしまった無垢な少年――ウルトス。 

 なんと、疑惑を掛けられたウルトス・ランドールはジェネシスとは何の関わりもない一般モブで、実はすべては裏でエルドが糸を引いていたのである。


 な、なんだってーーーー??

 衝撃の事実発覚である。


 ……完璧だ。


 そう。

 こうなったら、さらなる被害者ポジションを求めるしかない。まさか誰も騎士団に囚われ、挙げ句の果てに敵に操られてしまった純粋無垢な貴族の少年を疑ったりはしないだろう。


 しかも都合がいいことに、俺には補助魔法――【変装】がある。 

 

 眼が深紅の色に変わり、そして俺の鍛え上げられた演技により、普段とはまったく違う様子になっている。そして、アクセントにエルドから取り上げた趣味の悪い杖を持つのも忘れない。


 誰がどう見たって、操られてしまった被害者にしか見えない。 

 そう、俺は被害者。


 最強の死霊魔法使いに操られてしまった哀れなピエロである。


「エルドとか言ったな……? 貴様、あの少年に何をした?」

「クリスティアーネさん、どういうこと……?」


 さっきまでさんざん俺に疑惑を向けていたクリスティアーネも怒り心頭。

 完全に殺気をこちらに向けている。


「その血の臭い……貴様、拷問したのか?」 

「………………ほう」


 あーー、なるほど。


 俺が全身血だらけなのは、この前にエルドと戦っていたからである。

 が、何も知らないクリスティアーネから見たら、エルドが俺を拷問した上で操っていると思っているらしい。


 ……まあ、たしかにそう見えなくもないか。



 この間、約数秒。俺は決断した。

 みんなは、俺=エルドだと思い込んでいる。


 ならばここは、限界まで乗ってしまった方が良いだろう、と。


「そうさ」


 舌舐めずりをし、手を広げる。


「この小僧を拷問したときは本当に楽しかったねえ。『ジーク君、レインさん、そしてクリスティアーネさん。みんなに手を出さないで』と泣き叫んでいたよ」

「この……外道がぁぁぁぁぁぁッ!!」

「クハハッハハハハハハハ!!!!!!! その外道の前に貴様らは何も救えずに終わるのだ!!! どんな気分だ? 何が英雄!!! 貴様らは何も救えやしない!」


 何という鬼畜。

 死霊魔法使いエルドさん、最低である。


 話に乗っかってしまった結果、なんかエルドの外道具合が天元突破しているような気もするが……。ま、いいか。どうせ悪役だし。 


「くそおっ!! こんなことが……!!」

「ウルトス……!!! お願い、戻ってきて!!!」


「クハハッハハハハハハハ!!!!!!!!! さあ、フィナーレはここからだ!!!!!」


 絶望的な状況。


 操られてしまった、モブ。

 そして相対する三人の英雄。


 こうして、『ジャッジメント』計画の最終決戦――もとい、俺の言い訳作りが始まったのである。





――――――――――――――――――――――――――――――


クズトス

→自分をモブだと思っている精神異常者。そろそろ捕まっても文句は言えないレベルになってきた。


ジーク

→絶句


レイン

→絶句


クリスティアーネ

→無駄にアシストをしてしまい、勘違いを加速させる






うおおおおおおおおおおおお!!!

カクヨムコン8随一のバカ作品こと『クズレス・オブリージュ』まさかの第2巻発売!!!


主人公が巻数を重ねるごとにクズなっていっている本作ですが、発売日は5/1日!!!!!!!!!!!


(作者が言うのもなんだけど、正気か????)



https://sneakerbunko.jp/product/kuzulesse/322308000973.html








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