第57話 深紅の瞳



「先ほどの光の中心は――こっちだ!」


 先行するクリスティアーネが言う。

 ジークたちはウルトスを探しに、城へと侵入していた。


 クリスティアーネの後ろにはジーク、レインと続く。


 街がアンデットに呑まれようとする中、突如現れた強大な光。

 巨大な光の奔流はエラステアの街すべてを呑み込み、そして気がつけば、あらゆるアンデットは浄化されていた。


「ここでもアンデットは全滅……おそらく魔法の一種だろうが……あんな規模の魔法、見たことも聞いたこともない……!!」


 放心したようにつぶやくクリスティアーネの表情がすべてを物語っていた。

 それなりに魔法に触れたことのある、クリスティアーネ・レインをもってしてもまったく理解できない状況。


 ただ一方で、ジークは安堵していた。

 やっとこの事態は落ち着いたのだ、と。


 空を見れば、先ほどまで城を中心に覆っていた不気味なドーム状の魔力もすでに消えている。


「すみません。わざわざ着いてきてもらって」


 ジーク君は先を行くクリスティアーネに声をかけた。

 そんな状況下で、ウルトスを探しに行くと言って聞かないジークに着いてきてくれたのが、クリスティアーネだったのだ。 


「いや、いい。彼を置いてしまったのは私の責任だしな……」


 後ろから父・レインの声も入ってくる。


「まあ大丈夫だ。きっとウルトス君なら無事だ。あの場にはグレゴリオ殿もいてくれるし、後は彼を探すだけさ」

「そう、だね。お父さん」


 初めて会ったグレゴリオと名乗る男は、

「ここは私に任せてください。きっと……友を救うのですよ!」と先ほど会ったばかりにもかかわらず、熱い涙を見せていた。


 そう、大丈夫だ。きっとウルトスなら――



 そして、ジークがやってきたのは聖堂だった。

 普段は綺麗であろう聖堂は半壊し、今にも崩れかけている。


「……おかしい。この破壊痕……城の中心部の大聖堂がなんでこんなことに……」

 

 クリスティアーネとレインが周囲を警戒する中、一足先に聖堂の中へと入ったジークはある人影を見つけていた。


「よかった……」


 いた。ボロボロになって、ところどころ穴が開いた聖堂に佇んでいたのは、ジークもよく知った人物。


 間違えない。背格好もウルトスだった。 

 ……見慣れないのは、一点。ウルトスの左手には、


 違和感を感じながらも、走り寄って急いで話しかける。


「ウルトス、帰ろう」


 後ろ姿のウルトスに向かって言う。


 が、


「クハハッ」

「え……」


 帰ってきたのは乾いた笑い声だった。


 聞いたことのない声に違和感を覚える。


 そして、次の瞬間。ふとジークは違和感の正体に気がついた。


 ――ウルトスの周囲からかすかに臭う、血の臭いに。


「ウル……トス?」 

「クハハッハハハハハハハ!!!!」 


 聖堂に響き渡る嘲笑。


「ジーク、避けろ!!!」


 レインの声に反射的に一歩を身を引く。気がつけば、先ほどまでジークがいた位置を杖が通過していた。


「なんだ、当たらなかったのか」

「……え?」 


 それはつまり、ウルトスがジークに攻撃してきたということ。 


「何……を?」


 信じられずに問いかける。 


「この小僧を救いに来たか。だが、一足遅かったな」 


 こちらをあざ笑うかのような口調で、ウルトスが振り返る。 


「なん……で?」


 ジークの呼吸が荒くなる。そんなわけがない。

 間に合ったはずだ。きっと何事もなく。

 

 笑みを見せるウルトス。

 しかし、その眼は深紅の色に染まっていた――




――――――――――――――――――――


ジークレイン

→まるで人が変わってしまったかのようなウルトスに困惑



ウルトス

→ノーコメントです




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