第57話 深紅の瞳
「先ほどの光の中心は――こっちだ!」
先行するクリスティアーネが言う。
ジークたちはウルトスを探しに、城へと侵入していた。
クリスティアーネの後ろにはジーク、レインと続く。
街がアンデットに呑まれようとする中、突如現れた強大な光。
巨大な光の奔流はエラステアの街すべてを呑み込み、そして気がつけば、あらゆるアンデットは浄化されていた。
「ここでもアンデットは全滅……おそらく魔法の一種だろうが……あんな規模の魔法、見たことも聞いたこともない……!!」
放心したようにつぶやくクリスティアーネの表情がすべてを物語っていた。
それなりに魔法に触れたことのある、クリスティアーネ・レインをもってしてもまったく理解できない状況。
ただ一方で、ジークは安堵していた。
やっとこの事態は落ち着いたのだ、と。
空を見れば、先ほどまで城を中心に覆っていた不気味なドーム状の魔力もすでに消えている。
「すみません。わざわざ着いてきてもらって」
ジーク君は先を行くクリスティアーネに声をかけた。
そんな状況下で、ウルトスを探しに行くと言って聞かないジークに着いてきてくれたのが、クリスティアーネだったのだ。
「いや、いい。彼を置いてしまったのは私の責任だしな……」
後ろから父・レインの声も入ってくる。
「まあ大丈夫だ。きっとウルトス君なら無事だ。あの場にはグレゴリオ殿もいてくれるし、後は彼を探すだけさ」
「そう、だね。お父さん」
初めて会ったグレゴリオと名乗る男は、
「ここは私に任せてください。きっと……友を救うのですよ!」と先ほど会ったばかりにもかかわらず、熱い涙を見せていた。
そう、大丈夫だ。きっとウルトスなら――
◇
そして、ジークがやってきたのは聖堂だった。
普段は綺麗であろう聖堂は半壊し、今にも崩れかけている。
「……おかしい。この破壊痕……城の中心部の大聖堂がなんでこんなことに……」
クリスティアーネとレインが周囲を警戒する中、一足先に聖堂の中へと入ったジークはある人影を見つけていた。
「よかった……」
いた。ボロボロになって、ところどころ穴が開いた聖堂に佇んでいたのは、ジークもよく知った人物。
間違えない。背格好もウルトスだった。
……見慣れないのは、一点。ウルトスの左手には、見慣れない不気味な杖。
違和感を感じながらも、走り寄って急いで話しかける。
「ウルトス、帰ろう」
後ろ姿のウルトスに向かって言う。
が、
「クハハッ」
「え……」
帰ってきたのは乾いた笑い声だった。
聞いたことのない声に違和感を覚える。
そして、次の瞬間。ふとジークは違和感の正体に気がついた。
――ウルトスの周囲からかすかに臭う、血の臭いに。
「ウル……トス?」
「クハハッハハハハハハハ!!!!」
聖堂に響き渡る嘲笑。
「ジーク、避けろ!!!」
レインの声に反射的に一歩を身を引く。気がつけば、先ほどまでジークがいた位置を杖が通過していた。
「なんだ、当たらなかったのか」
「……え?」
それはつまり、ウルトスがジークに攻撃してきたということ。
「何……を?」
信じられずに問いかける。
「この小僧を救いに来たか。だが、一足遅かったな」
こちらをあざ笑うかのような口調で、ウルトスが振り返る。
「なん……で?」
ジークの呼吸が荒くなる。そんなわけがない。
間に合ったはずだ。きっと何事もなく。
笑みを見せるウルトス。
しかし、その眼は深紅の色に染まっていた――
「もう遅いのだよ、すべてがな」
――――――――――――――――――――
ジークレイン
→まるで人が変わってしまったかのようなウルトスに困惑
ウルトス
→ノーコメントです
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