第53話

 

 


 俺は仮面の下で、焦りを感じていた。

 

 初撃にすべてを懸け、とりあえず先手を打つ。

 そもそもこっちも大して強くもないのだから、こうするしかない。

 これが俺の必勝パターン。


 やはり、召喚されるアンデットが弱体化されている。そこだけは良い感じだ。


 が、肝心のエルドに届かない。


「アンタが絶対私に勝てない理由を教えてあげましょうか?? ジェネシス」


 クスクスという笑い声。


「ち……ッ!」


 やはりまずい。

 早くも、こっちの状況が見破られ始めている。


 そう。実際、エルドは強いのだ。


 子供の外見に騙されてはならない。

 魔法使いとしての自分に絶対の自信を持つ強者。

 あの原作チート主人公を限界まで追い詰めた強者である。


「まず第一に、私とあなたでは使えるリソースに差があるわ」


 余裕たっぷりに、エルドが言う。


「ジェネシス。あなた、城の中のリッチまで狩ってきたんでしょ? だとしたら確実に体力が減っているわよね」

「さてね」

「見上げた根性ねえ。でも、どれだけ効率の良い魔力の使い方をしたとしても、人である以上、限界は存在する」


 ……痛いところを突かれた。たしかに、エルドはあっている。

 いくら弱体化したとは言え、リッチを大量に葬ったので、こちらはそれなりに魔力/体力を使ってしまっている。

 それに対し――


「反対に私は、アンデットを無制限で召喚できる」


 楽しそうに、エルドが床の魔方陣を指し示す。


 そう。エルドは第8位階魔法のおかげで、無尽蔵にアンデットを召喚できる。

 つまるところ、長期戦はこちらが圧倒的に不利。


「そして、二つ目の理由――ジェネシス。あなた、魔法は使えるようだけど、魔法詠唱者ではないわね」

「それがどうした?」


 にんまりと手に杖を持ったエルドが、笑みを見せる。

 図星を突かれた。

 短く突き返すが、かなり痛いところがバレてしまっている。


「おかしいわよねぇ。だってあなた、全然アンデットに対抗できそうな属性の魔法を使わないんだもの」


 完全にこっちを侮るような、高らかな勝利宣言。

 とはいえ、エルドの発言は的を得ていた。

 そう。俺が扱える魔法とエルドの魔法は、とてつもなく相性が悪い。


「【聖】の属性魔法がないのは……まあわかるとして、【火】の魔法もなしで、死霊魔法使いの前に出てくるとはねえ」


 アンデットに一番効くのは【聖】属性の魔法、そして次点で【炎】。


 普通、魔法使いであれば、に相手の魔法に対して、対抗手段を持っておくものだ。

 だが、そもそもこの世界の戦いに、一切興味のなかった俺は、当然のごとくメジャーな魔法を使えない。あるのは、モブ生活を見据えて適当に習っていた補助魔法や空間の魔法だけ。

 そして、何より。


「魔力の扱いを見ると、多少は魔法に知識はあるようだけど――私、嫌いなのよねえ」


 やっぱりそうなるよな、と俺は苦々しい表情でエルドを見つめた。

 エルド。もちろん、魔法使いとしても彼女は一流だ。


 ただ、その恐ろしさは別のところにある。


 ピリピリと、大気が震える。

 エルドを中心に魔力が高まり、深紅の魔方陣の輝きが増す。


「多少、魔法をかじったくらいで、無謀にも本職に挑んでくる間抜けが、ね」


 エルドは「大」がつくほどの魔法使い第一主義。

 魔法のためであれば、例え、そのほかの一般人がどうなろうと一切関知しない。

 魔法使いの中でも群を抜くほどの、超過激派。


 だからこそ、俺の戦い方は、彼女の高い高いプライドに触ったようだ。


「原理は分からないけど、空を飛び回るというのであれば、その羽をむしってあげるわ」


 突如、聖堂が大きく動いた。

 それは振動。振動が徐々に強くなる。


「おいおい……ここまでやる?」


 もはや乾いた笑いしか出てこない。

 ――そして大地が割れ、地面から何かが姿を見せた。


 死海の大蛸デス・クラーケン


 それは4,5メートルほどになる巨大なアンデットだった。

 リッチ、デュラハンに並ぶ、上級アンデット。


 しかも、この魔物にはある厄介な点があった。


「あはははっは!」 


 エルドの笑いが辺りに響く


「デスクラーケン。私の手持ちの中でも特に強力な子で中々出せないのだけど――その実力は折り紙付きよ。特に」


 エルドの眼には嘲りの色が浮かんでいた。


「剣士にとってはね」


 目の前の巨大な魔物が腕を振るう。

 避けざまに、切り結ぶ――


 が、斬ったと思ったのもつかの間、その腕が瞬時に再生を果たす。


「クッ……!」


 そして、続けざまにもう一対の腕が飛んでくる。

 何とか避ける。


「斬撃と打撃耐性持ちのモンスターねぇ……」


 デスクラーケンは、斬撃と打撃に対して完全な体制を有する強力な魔物。


 もう笑えない。この期に及んで、さらに対処の難しい魔物の召喚。 


 消費が激しいこちらに対して、あちらは完璧な布陣。

 恐らく、このままでは勝てない。


 本当に、何でこんなことになってしまったんだか。


「死になさい、ジェネシス。この都市の人間は全部ちゃんと、アンデットにしておいてあげるから」


 圧倒的な重量が押し寄せる。


「本当に、ついていないッ……!」


 剣を構え、魔力を絞り出す。

 エルドの言うとおり、使える魔力はあとわずか。

 正直言って、劣勢もいいところだ。


 俺はため息をついた。

 ……こういうのは主人公がやるべきことだ。


 こんなのはジーク君と頼りになる仲間たちでなんとかすべきだろう。

 何が悲しくてこんな強いやつと、生死を懸けて戦わなきゃいけないのだろうか。


 ああ。

 ……本当についていない。 


 エルドを止めるためとは言え。 



 わざわざ。





――――――――――


とりあえず生存報告。

ギリギリで生きています。



誤字脱字とかそのうち綺麗にします




……仕事多いんじゃああああああああああああ!!!!

ま〇ぬけええええええ!!!!

(ついに残業時間100時間を超えはじめた限界投稿者)

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