第52話 絶対私に勝てない理由



 戦闘の火蓋は、静かに切って落とされた。

 仮面の男・ジェネシスが一気に距離を詰める。

 

 が、


「第6位階 偉大なる死者の召喚<アンデット・クリエイト>」


 ジェネシスの剣が防がれる。


 仮面の男の目の前には、無骨な大槍をもった騎士が召喚されていた。

 首なしの騎士「デュラハン」――リッチと双璧をなす強力なアンデットの一体である。


「oooooooo!!」


 空気を震わせるディラハン。


「ほらほら、終わりじゃないわよ」

 

 続けざまに、エルドが指を鳴らす。

 

 スケルトン・アーチャーにスケルトン・ソルジャー。

 何体ものアンデットが同時に召喚され、生み出されたアンデットの群れがジェネシスに向かう。


「……ちッ!」


 ジェネシスが舌打ちをする。

 

 聖堂を埋め尽くさんばかりの、圧倒的な物量。

 同じ実力の人間を集めたとしても、こうも簡単にはいかないだろう。


 これこそ、死霊魔法の最大のメリット。

 いとも容易に作り出せる、不死の軍隊。

 

 一都市を堕とせると謳われるほどの、禁忌の魔法技術。


「oooooooo!!」


 デュラハンが突撃し、後ろから弓があられのように飛ぶ。

 遠距離・近距離からの同時攻撃。


「へぇ、意外とやるわね」


 が、そんなアンデットの連続攻撃に晒された仮面の男・ジェネシスもまた、あり得ない防御を行っていた。


 襲い来るアンデットをいとも簡単に切り払い、飛んでくる武器を撃ち落とし、僅かな隙を見つけて反撃をする。


 迷いなき動き。

 機械のごとく淡々と処理をし続ける。

 

「ふぅん。近接は自信ありって感じね。なら……これはどうかしら?」


 その絶技を見てもエルドは余裕を崩さない。

 エルドが指を振り、合図を元に怪物が殺到する。

 

 対抗してジェネシスも剣を振るう。


 無策のアンデットの突撃。

 仮面の男にとっては、敵たり得ない。

 

「さすがにこの量で押し切られるのは辛いんじゃない?」


 ……が、倒されても倒されても進み続けるアンデットに、徐々にジェネシスが押され始める。

 

 戦略も何もあったものではない。

 単なる物量の暴力。

 

 押される仮面の男。

 ついに、地響きが聞こえ――


 エルドが見れば、先ほどまで仮面の男がいた場所は大量のアンデットによって押しつぶされていた。


「さて、意外とあっけなかったわね」


 エルドがにんまりと笑みを浮かべる。


 そう。

 魔法を使えない戦士は、大体これで沈む。





 が、


「――は?」


 エルドが目を向けたのは、上空。


 囲まれたはずの仮面の男が、宙へと身体を投げ出していた。


 人間の自由がきかないはずの空中。 

 だが、空間すらも支配するかのように仮面の男は飛ぶ。


 加速に次ぐ、加速。

 空中に自在に足場を作り、人間には不可能な速度で移動する。


 ――それは【空間】の魔法。


 空中に生成した足場。

 それを使うことで、常人には見えない速度と不可能な移動を可能とする。


 瞬間、アンデットの群れが弾けた。


 そのまま、ジェネシスが動く。

 アンデットの群れを駆逐した速度をそのままに、死霊魔法使いの懐に潜り込む。


 魔法使いは肉弾戦になれていない。

 その法則通り、エルドはまだ反応すらできていない。


 ジェネシスの剣が、少女に肉薄する――


 が、


「あ~あ、残念」


 ガキン、と。


 速度を付けた剣が、何かに阻まれる。

 見れば、少女を守るかのように地面から巨大なスケルトンが現れていた。


「攻撃用に全員行かせるわけないでしょ。最初からこの子は下にいたわよ」


 仮面の男が距離をとる。 

 その様子を、エルドは冷静に観察していた。





「へえ、魔力の運用方法が面白いのね。?」


 ふうん。

 なるほど、確かに面白い。

 

 この数分ほどで、稀代の魔法使い・エルドは完全にジェネシスの能力を看破していた。

 ダテに何年も魔法の探求を続けていたわけではない。

 

「私もアーティファクトで魔力を隠していたけれど、それを自分の魔力のみでやっている? 器用なもんね」

 

 分析しながら、にんまりと笑う。

 

「で、見間違えじゃなければ、空中で動いていたわね……どういう理屈? 【風】の系統の魔法にしては見たことないから、特殊なアーティファクト、もしくは特殊な属性の使い手ってところからしら?」

 

 ジェネシスは答えない。

 だが、いともたやすく己の軍勢を滅ぼした仮面の男を見ても、エルドの表情には何の変化も現れていなかった。

 

 ――すなわち、余裕。


 超人的な動きに、正体不明の魔法。

 

 なるほど、世間的にはたしかに強いのだろう。


 が、たいしたことはない。

 これなら、まったく問題ない。


 エルドは己の魔法に絶対の自信を持っている。

 そして、そのエルドの頭脳は確信していた。


 ――この男は、私に絶対勝てない、と。


「アンタが絶対私に勝てない理由を教えてあげましょうか?? ジェネシス」


 勝利への予感。

 エルドは言った。


 ほんの少し、




――――――――――――――――――――



ウルトス

→何も喋らない戦闘シーンでは恐らくカッコいい。


エルド

→メスガキ風ボス。原作ではジーク君が手こずるほどの猛者。




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