第50話 地獄にグレゴリオ



「とはいえ、状況は良くない……か」


 レインは周囲を見渡す。

 娘の奮闘。部下に、クリスティアーネたちも良く耐えている。


 が、しかし。

 やはり物量の差は大きく、そもそもアンデット対策に特化しているわけでもないレインたちは、じわじわと押されつつあった。


「……こりゃうちの騎士団も、次に人を取るときはアンデット対策できるやつを取るしかないな」


 軽口を叩いてみるが、光明は見えない。

 そして、

 

「おいおい、嘘だろ……」


 レインが見上げる先には、新たなアンデットが出現していた。

 

「勘弁してくれ……不死の巨兵アンデット・ギガンティスなんて、ただでさえアンデット対策できるやつがいても相手したくないんだが」


 そのアンデットは今までのアンデットよりはるかに巨大だった。


 不死の巨兵――アンデット・ギガンティス。

 討伐難度は、およそA。ただし、アンデット対策を十分していれば、の話である。

 

 しかも、その後ろにはリッチも控えているのが見えた。


「なるほど、面倒事は積み重なるっていうのが、世の常かね」


 もはや笑うしかない。


 リッチが詠唱し、リッチを中心に雷の魔力が渦巻く。

 不死の巨兵が拳を振り上げる。


 とうとう命運もここまでか、とレインが剣を構えた瞬間。



 ふと。



 どこからか、詠唱が聞こえた。


「炎の噴煙ブレイズ・プルーム

「電光の吸収ライトニング・アブソープション

「聖の咆哮ホーリー・ロアー


「なっ……」


 魔法の連続詠唱。


 辺り一帯のアンデットが炎によって焼き払われ。

 レインに直撃するはずだった雷撃は吸収され、聖なる光によって不死の巨兵がなすすべもなく倒れる。


「いや~、間に合ってよかったです」


 そしてパチパチと。絶望的な戦場に似つかわしくない軽快な拍手の音が聞こえた。


 3人の乱入者の後ろから颯爽と姿を現したのは、爽やかな男だった。

 レインはまじまじと声かけてきた男を見つめた。

 

「……グレゴリオ殿?」


 グレゴリオ。

 レインの本拠地・リヨンの市長でもある男。

 清廉潔白、実直な男で、彼を悪く言う人間はいない、と言われているほどの好人物。

 

 レインも利権にまみれた王国側の権力者の中で、グレゴリオだけは特別に信頼していた。


 たしかに、今回の会議にも参加していたが……

 

「なぜ、こんな場所に? てっきり、先にお逃げになったのかと」

「そんなことをおっしゃらないでください。王国臣民としてこんな事態、決して見逃せませんからね」


 爽やかな笑顔で、そう言うグレゴリオはこの状況にもまったくおびえていないようだった。

 

「……なるほど、そして彼らは?」

 

 レインは、魔法を唱えた3人を見つめた。

 黒い鎧は一目見ただけで業物だとわかる。

 おそらく、相当高価な金属からできているのだろう。レインの眼から見ても、かなりの実力者だと見て取れた。


「まあ話せば長くなりますが、彼らとは偶然、先ほど市内で会いましてね。緊急事態なので、協力してもらっていたのですよ。雇うのに高い額を払いましたが……でも大丈夫です。平和と安心安全。皆さんを助けられるなら、私のような男は、それで本望なのですから」


 そう言うグレゴリオはハンカチで目を押さえている。

 おそらく、彼にも葛藤があったのだろう。

 恐怖も迷いもあったはずだ。

 

 それでも身銭を切って、こんな勝ち目のない戦いに参戦してくれた。

 

「グレゴリオ殿、まったく貴方という人は……」


 グレゴリオの想いに、レインの胸が熱くなる。


「ではグレゴリオ殿の助力があれば、ここはもう大丈夫――」

「レインさん! まずいです。城の北方面にアンデットが集中しています! おそらく魔力反応からデュラハン、リッチも……!!」

「ちっ!」


 一手遅れた。


 安心したのもつかの間、新たなる問題にレインは顔をしかめた。

 エラステアの城は街の中心部にある。

 

 だからこそ、レインはもっとも人通りの多い場所を守っていた。

 が、相手方もその動きを見て、別方面に戦力を集中させているらしい。

 

 今から行って、間に合うのか。

 

「まずい、もう時間がな――」

「ああ、それなら大丈夫ですよ」

「え?」


 さらっとグレゴリオが言い放つ。


「知り合いがさっきそちらの方に向かいました。なので、助けは不要かと」

「いやでも、しかし……」


 この状況で、助けがいらない?


 知り合いを見殺しにするかのような発言に戸惑うが、余裕綽々といった様子のグレゴリオは爽やかな笑みを浮かべたままだ。


「たしかに、アンデットも怖いでしょうが……まあ世の中にはもっと凶暴な輩というのも存在しますからね」

「は?」

「そう、例えば――」


 生死を心配するレインを前に、グレゴリオは楽しそうに告げた。




「【】とか」





――――――――――――――――――――――――――――――――


グレゴリオ

→先ほどまで「全員見殺しにすればいいのに(訳)」と言っていたにもかかわらず爽やかに参戦。わざとらしい泣き真似に定評がある。


レイン

→ウルトスを「心優しい少年」、グレゴリオを「信頼できる人物」と評価するなど、人を見る目には定評がある。




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ノープロットで書き始め、カクヨムコン8でも非常に苦労しながら賞をいただく。

よせばいいものを3章でも未だにノープロット。

馬鹿は学習しないものである。







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