第49話 英雄の姿



 ――エラステア、市内。


 レイン、そして王国の騎士団は突如として出現したアンデットの対処に追われていた。


「くっ」

 

 城からは際限なく、アンデット系統の魔物が湧き出てくる。


「防御を固めろ! 絶対にここで食い止める!!」


 大声で周りに叫ぶ。


 事態は深刻だった。

 ゾンビ、スケルトンなどの低級のアンデットはまだいいが、徐々に城を中心として嫌な魔力が高まっている。

 これから首の無き大騎士デュラハン・死の魔法使いリッチなどの、より上位のアンデットが出現する可能性もある。


 そんなのが街に出て、人を襲うことになれば――


 そもそもエラステアは外交の要所として選ばれただけあって、王都のように普段から戦力が集中しているわけでもない。


 周囲を見渡す。

 レインの回りには部下の騎士たち。少し離れたところには、クリスティアーネたち中央騎士団の姿も見えた。


 止まらぬアンデットの群れ。

 いくら英雄と呼ばれ、1人の戦士としては圧倒的な戦力を有するとしても、決して疲れを知らない不死の魔物というアンデットの特性は、十分脅威となる。


「くっ……!!」


 許したのは少しの隙。


 レインが一瞬気を取られた合間を縫って、アンデットが間を抜ける。

 

 ――


 刹那。

 レインは、まずいと感じた。


 ただでさえ、娘もこの騒ぎで疲弊している。

 もともとジークレインは真っ直ぐだが、父親であるレインに憧れた過ぎたせいか、どこか折れやすい部分もあった。

 

 しかも、さらに状況が悪いことに、この旅で娘と仲良くなったはずの少年・ウルトスは城の中で消息を絶ったまま。


「ジーク……! 逃げなさい!!!!」


 最悪だ。


 もはや娘の心は折れているかもしれない。

 レインは大声で叫んだが――



 ――次の瞬間。


 斬撃。

 ジークの持つ剣から放たれた斬撃は、正確にアンデットの足を両断していた。

 続けざまに、頭部を吹き飛ばす。


「……ジーク?」


 呆気にとられたような父の顔。

 

 たしかに、絶望的な状況だった。


 ウルトスは行方不明。

 聞けば、中央騎士団に囚われたウルトスは城の中で、消息が分からなくなってしまったらしい。


 ジークは思う。

 きっと、前までの自分であればとうに諦めていただろう。 

 ただ単に英雄に、父に憧れていたころの自分だったら、とうに諦めていたはずだ。


 が、


「大丈夫だよ、お父さん。ウルトスは生きてるから」

 

 ジークだって、息も絶え絶えだ。

 父の顔色も優れない。


 思ったよりも皆は疲弊しているのだろう。


 終わらないアンデットの群れ。

 精神が削られ、疲労により身体中が細かく痙攣し、手足の感覚が死に引きずられるように失せていく。


 でも。


 眼を閉じる。

 すると、すぐに思い浮かんだのは、ジークが憧れた人の姿だった。


 ――『でも、ジーク君が助かったんだから良かったよ』


 これよりももっと危険な状況で、それでも他人のために立ち向かった人をジークは知っている。


「……そう、だよね」


 ともすれば飲み込まれそうな意識の中、ジークの眼に入ったのは左手の薬指。

 少しふら付きながら、そこを見れば銀色の指輪がたしかに輝いていた。


 ――『だって、僕にとって大切な人だから』


 自分をそこまで信頼してくれた相手。

 ずっと素直になれなかった。ずっと嫌な態度ばかり取っていた。

 

 でも、そんな人間のために、あの強大なリッチに立ち向かったウルトスの姿は、ジークの脳裏に今もなお鮮明に焼き付いている。

 

 だからこそ思う。

 こんな状況。絶体絶命の状況でも。


 きっと。


「――ウルトスは、絶対にあきらめていないから」


 それは信頼だった。

 友達への。


 ……いや、あこがれた、大好きな相手への信頼。


 ――大丈夫。


 だって、あの人は。どんなときでも。


 ジークの眼光が輝く。

 腹に熱が灯る。力が湧き拡がり、消えかけていた手足の感覚を取り戻す。

 

 

英雄ウルトスは決してあきらめなかったから……!」


 だからこそ、負けられない。


 生きて、また、会うんだから。


 深呼吸をし、再び精神を集中させる。

 終わるとも知れぬアンデットの群れを見ながら、ジークは不敵な笑みを浮かべた。


「まだまだいけるよね、お父さん」






「まさか、この年になって娘に檄を飛ばされるとはね」


 苦笑。

 戦いのさなか。レインは思わず顔がほころぶのは抑えきれなかった。


(本当に……強くなった)


 かつて、レインに憧れていたジークレインは、魔力も使えないということもあって、どこか表面的な強さを追い求めているように見えた。

 

 だが、もはや違う。

 

 なんだ、とレインは笑った。



 誰かを救いたいという思い。


 決して折れることなくまっすぐに進むその姿。

 

「なんだ。もう、





――――――――――――――――――――――――――――



ジーク

→ついに、覚醒。真っ直ぐに育ったが、憧れる人間の選択を誤ったような気がしなくもない。


レイン

→感動。たぶん娘が「ウルトスと結婚する」って言い出しても止めないレベルにまで来ている。




この前どこかでクズレスの感想を見かけた。

「最近の安易なハーレムものに嫌気がさした作者が、おっさんばっかのハーレムを作っている」と評価されていた。

……違うんです、作者だって可愛い女の子だけを登場させようとしていたんだ……いつの間にかこんなことになっていただけで……無罪です許してくれ……





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なぜか安易なハーレムものを目指していたのに、急におっさんが出しゃばってきてデカイ面をしている、『クズレス・オブリージュ』第1巻発売中!




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